Amazing Tales of RAT HOLE

第1回:「ネズミの穴」って、なんだ?

第1回:「ネズミの穴」って、なんだ?

第1回:「ネズミの穴」って、なんだ?© DAIDO MORIYAMA「ネズミの穴」とは、いったい何か? まずは、そこからお話する必要があるでしょう。ネズミの穴、すなわち“ラットホール”とは、今年7月にオープンした「HYSTERIC GLAMOUR青山店」の地下に併設した、ギャラリーとヴィンテージブックを扱うスペース『RAT HALL GALLERY & BOOKS』(以下ラットホール ギャラリー)のことです。このコンテンツでは、そのラット ホール ギャラリーでおこなわれる折々のイベント紹介を軸に、参加アーティストや展示される作品のこと、あるいは彼らと僕との出会いについてなど、ラットホールを取り巻くさまざまな物語をお話していこうと考えています。第一回目の今回は、そもそも僕がなぜ、この青山店の地下にギャラリーをオープンしようと思ったかをお話します。青山店は、これから先の5年、10年を見据えて作ったお店おかげさまでヒステリックグラマーもブランド創設23年目。今年は3月に六本木店、...
第2回:森山大道との出会い、衝撃

第2回:森山大道との出会い、衝撃

第2回:森山大道との出会い、衝撃© DAIDO MORIYAMA前回のお話の中でお伝えしたとおり、去る10月13日、東京・青山の「ラットホール ギャラリー」がついにグランドオープンを迎えました。現在その第一回目のイベントとして、「森山大道写真展it」が開催されています。そこで、今回のコンテンツでは、その森山大道さんとの出会いと、そのきっかけとなったヒステリックグラマーの出版活動についてのお話をしようと思います。写真を突き抜けた音楽が、頭の中で鳴り響いたヒステリックグラマーが出版活動を開始したのは、1987年のこと。1991年からは“hysteric”というカタチで写真集の発表を始めたのですが、当初はさまざまなアーティストによるオムニバス形式を採っていました。ちょうどその頃、僕ははじめて森山さんの写真と出会います。最初に見たときは、なにか写真を突き抜けた音楽が、頭の中で鳴り響いたように感じました。衝撃を受けた僕は、彼にもぜひ、僕らの写真集に参加してもらいたいと思い、お声を掛けたのです...
第3回:僕とアートの、はじまりと吹っ切れ

第3回:僕とアートの、はじまりと吹っ切れ

第3回:僕とアートの、はじまりと吹っ切れ© DAIDO MORIYAMA森山さんのトークショーも、大盛況のうちに終了し、「森山大道写真展it」も残すところあと半分。このコンテンツも早いもので、もう3週目を迎えました。今回は、ちょっと時間を遡り、ラットホール ギャラリーの母体となった、ヒステリックグラマーのアート活動のきっかけについてお話ししたいと思います。はじまりは、ヒステリックグラマーを立ち上げて3年目の1987年。当時コム デ ギャルソンやヨウジ ヤマモトが先駆け的に作っていた、アーティスティックなカタログに触発され、ウチでもなにか始めようと思ったのが、アートや出版と関わるようになったきっかけでした。ギャルソンやヨウジのカタログに触発され、メキシコ、グァテマラへそう思い立つと、いても立ってもいられなくなるのが僕の性格。さっそくメキシコとグァテマラに行って、ウチの洋服を使ってアート作品的なモデル撮りを敢行、その後も、アメリカを横断したり、タイに行ったり、もちろん東京でも、いろいろ...
第4回:森山大道氏とのトークショー その1

第4回:森山大道氏とのトークショー その1

第4回:森山大道氏とのトークショー その1今回は、10月21日にラットホールギャラリーで行われた、森山大道×北村信彦のトークショーの模様をお伝えします。Photo by FUKUDA Emikoある種、恋にも似た展覧会MC●まずこの『it』と名付けられた今回の展覧会用の写真をご覧になったとき、北村さんはどんな印象をおもちになりましたか?北村●最初、森山さんの方から四つ切りのプリントを見せていただいたんですが、見た瞬間に配置まで決まりましたね。もちろん作品ひとつひとつのイメージも強いんですが、トータルの世界観として、どこかしっとりエロティックで、モダンで、でも通して見るとロマンティックという、僕にとっての森山さんの世界が凝縮されていました。“なるほどitってそういう意味だったんだな”と思いましたね。森山さんは、この『it』というタイトルに対しては、どういう思いだったんですか?森山●子供の頃から、父が誰かを見たときに、よく「この人はitだな」というようなことを言っていたのを聞いていまし...
第5回:森山大道氏とのトークショー その2

第5回:森山大道氏とのトークショー その2

第5回:森山大道氏とのトークショー その210月21日にラットホールギャラリーで行われた森山大道×北村信彦のトークショー。話は、ウォーホルから森山氏自身の作品におよんで……。Photo by FUKUDA Emikoアンディ・ウォーホルを巡ってMC●ところで、今回の展覧会ではアンディ・ウォーホルのポスターを撮ったものなども入っていますが、ヒステリックグラマーも、ウォーホルのファンデーションと契約なさったんですよね?北村●ええ、昨年、ニューヨークのアンディ・ウォーホルファンデーションから、日本における本格的なアパレルラインを展開したいのだが、それをコントロールしてくれないか、という話がきました。でも、僕としては、この話以前にファンデーションが展開している商品なども見ていて、正直いってすごくもったいないというか、それに対するアンチな気持ちがあったのも事実です。ですから、最初はお断りしようと思ったんですが、よくよく考えてみると、僕が学校を卒業して以来、ずっと彼の考え方は参考になっていまし...
第8回:荒木さんの写真と、僕の収穫

第8回:荒木さんの写真と、僕の収穫

第8回:荒木さんの写真と、僕の収穫「花とヤモリンスキー」より。© NOBUYOSHI ARAKI荒木さんとボブ・ディラン現在ラットホールギャラリーで展示している『緊縛写巻』と、江戸東京博物館で見た『東京人生』という、ある種対極ともいえる作品群を通して、荒木さんの本当のすごさを感じることができた僕ですが、おもしろいもので、音楽の世界でもこの秋、同じような体験をしました。実は、これまで僕は、ボブ・ディランの音楽をあまりちゃんと聴いたことがありませんでした。もちろん昔から曲はよく耳にしていましたが、どうしても、あのフォークの教祖といったイメージから、自ら積極的に探求することはなかったのです。ところが、この9月におこなわれたプライマル・スクリームのライブの際、本番前の楽屋でボビーが、「気合いを入れるために」とかけた曲にやられてしまいました。それが実は1965年のボブ・ディランだったんです。ディランが1965年から66年頃、突如エレキギターをもって、ロックをやったということも知っていましたが...
第11回 ボリス・ミハイロフという謎解き その1

第11回 ボリス・ミハイロフという謎解き その1

第11回 ボリス・ミハイロフという謎解き その1edit by TAKEUCHI Toranosuke「LOOK AT ME」より。© Boris Mikhailov最初は一貫した方向性が掴みづらかった今回からは、この前荒木さんとの対談をおこなってもらい、現在ラットホールギャラリーで作品を展示中のボリス・ミハイロフさんについての話をしようと思います。彼はウクライナ出身で旧ソビエト時代からかなり前衛的な作品を撮りつづけ、現在はベルリンを中心に活躍する写真家です。僕がボリスさんの作品にはじめて触れたのは、ラットホールギャラリーのオープン後ですから、昨年の秋頃でしょうか。第一印象は“トンガっててインテリな感じがする”というものでした。最初に見た作品は、いまラットホールで公開している『LOOK AT ME』なんですが、写真というよりコラージュなんかも駆使されていて、センスいいな、おもしろいな、と感じましたね。ただし、その後初期の作品や、その頃たまたま『SHUGO ARTS』でおこなわれてい...
第12回 ボリス・ミハイロフという謎解き その2

第12回 ボリス・ミハイロフという謎解き その2

第12回 ボリス・ミハイロフという謎解き その2edit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)「BEACH」より。© Boris Mikhailov絶妙の“ツボ”をもったユーモアのセンス今回も前回に引き続き、ボリスさんの話をしたいと思います。ボリスさんの作品の根底に流れる共通点をひとことで表現するなら「奥の深いユーモアのセンス」でしょうか。言葉数は少ないんだけど、一言ボソッということが笑いのツボにハマってるというか、声に出して笑うわけじゃないんだけどハートが笑うというか、作品からはそういう絶妙のユーモアのセンスを感じます。グロいようでいてカワイさがあるんですよね。レセプションに来てくれた女性の人たちには、そういうところがちゃんと伝わっていたようでした。レセプションの後、ボリスさんにそのことを伝えると、彼もすごく喜んでくれたんですが、彼がいうには、自分の作品が日本人には理解しやすいことはわかっていたというんですよ。なぜなら日本には昔から俳句のような、...
第13回 ボリス・ミハイロフという謎解き その3(番外編)

第13回 ボリス・ミハイロフという謎解き その3(番外編)

第13回 ボリス・ミハイロフという謎解き その3(番外編)edit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)「BEACH」より。© Boris Mikhailovギャラリー全体の中でどう感じさせられるかボリスさんの話に関連して、今回はあらためてギャラリーというものについての話をしようと思います。ボリスさんの場合もそうなんですが、展示全体から感じるあのニュアンスというのは、作品一枚一枚を見ていても感じないんです。彼が考えていたのは、やっぱり全体でどう感じさせるかなんですよ。けっして一点一点に執着させないんだけど、それでいて緊張感のある展示になっています。ある意味、余計なものが削ぎ落とされていないとあの感じは出ないでしょうね。しかし、だからといってベストアルバムでもダメなんです。たとえばヨーロッパのギャラリーなどである人の作品を「これ全部」といって買っていくパトロンがいるのもわかる気がします。“この作品”ではなく“この世界”を手に入れたいということです。ま...
第14回 リー・フリードランダー展(1)

第14回 リー・フリードランダー展(1)

第14回 リー・フリードランダー展スペシャルトークショー現在ラットホールギャラリーでは、5月6日までの日程で『リー・フリードランダー展』を開催しています。彼は1960年代から現在まで第一線で活躍するアメリカの写真家で、日本の写真界にも多大な影響を与えた人物です。ギャラリーではその展示にあたり、去る4月6日、フリードランダーさんに縁の深い3名によるトークショーを開催しました。メンバーは写真家で評論家でもある大島洋さん、今回の展示のプロデュースをしてくださったキュレーターの山岸亨子さん、そしてヒステリックグラマーから写真家の綿谷 修という3名。そしてこの『ネズミの穴』では、今タイトルから2回にわたり、そのトークショーの模様をお伝えいたします。(北村信彦)Photo by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)「社会的風景」という名の写真綿谷 修●僕がリー・フリードランダーを初めて見たのは、いまから20年ほど前のことでしたが、ど...
第15回 リー・フリードランダー展(2)

第15回 リー・フリードランダー展(2)

第15回 リー・フリードランダー展スペシャルトークショー その2前回に引き続き『リー・フリードランダー展』でのスペシャルトークショー後半の模様をお伝えします。話は、フリードランダーさんの写真の撮り方から写真家リー・フリードランダー論へと展開していきます。(北村信彦)Photo by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)彼の写真には彼の全キャリアがある山岸享子●ここでちょっと、リーの写真の撮り方についてのお話をさせていただこうと思います。それは非常に特殊で、写真家としての彼のあり方を端的に表しているからです。まず彼はライカからはじまった写真家なんですが、とにかく毎日写真を撮るんです。撮影のために撮る写真ではなく、日常の中で毎日撮る。ですから彼の写真の中には、大げさではなく彼の全キャリアがあります。端から見ていると、いったいなにを撮っているのかわからない。一見なんでも撮っているようにさえ見えます。もちろん彼の中には意図がある...
第16回 古屋誠一インタビュー(1)

第16回 古屋誠一インタビュー(1)

第16回 古屋誠一写真展『im fluss 流れゆく』インタビュー(その1)30年以上にわたりヨーロッパを拠点に活動を続ける日本人写真家、古屋誠一氏。現在ラットホールギャラリーでは8月3日までの日程で、古屋氏の写真展『im fluss 流れゆく』が開催されています。7月7日には、オープニングに際し来日した古屋氏本人によるトークショーもおこなわれました。オウプナーズ編集部はその日、トークショー直前に特別に時間をいただき、単独インタビューを決行。今回から3回にわたり、その際うかがった古屋氏の生の声をお届けいたします。Photo by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)出会いはボリスさんの送別会──まずは、今回ラットホールギャラリーで展覧会を開催することになったきっかけを教えていただけませんでしょうか?古屋誠一 今年1月、三島の「ヴァンジ彫刻庭園美術館」での展覧会に合わせ来日していたんですが、そのときたまたま、このラットホー...
第17回 古屋誠一インタビュー(2)

第17回 古屋誠一インタビュー(2)

第17回 古屋誠一写真展『im fluss 流れゆく』インタビュー(その2)前回(第16回)に引き続き、今回も古屋誠一氏におこなったインタビューの模様をお伝えいたします。話は今展覧会のタイトルに託された古屋氏の思いから、彼の写真観へと流れていきます。Photo by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)ドナウの川の流れに託された思い──今回の展覧会には『im fluss 流れゆく』というタイトルが添えられていますが、これにはどんな思いが託されているのでしょう?古屋誠一 このタイトルは「川」を意味するflussという言葉にimという副詞がついたドイツ語で、直訳すれば「川で」というような感じになる言葉です。それを意訳して「流れゆく」という日本語タイトルを付けました。そこにはまず、先ほどもお話しした時間の流れという意味を込めています。私は現在オーストリアのグラーツという街に住んでいますが、近くをドナウ川が流れています。ドナウ川...
第18回 古屋誠一インタビュー(3)

第18回 古屋誠一インタビュー(3)

第18回 古屋誠一写真展『im fluss 流れゆく』インタビュー(その3)前々回からお届けしている、古屋誠一氏へのインタビュー。3回めの今回は、いよいよその最終回として、写真家古屋氏の視線、そして、その先にある彼の人生観そのものに迫ります。Photo by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)いつも見ているものが突然刺さってくる──古屋さんは、ご自身の写真一点一点を、アルファベットの一字のようなものであり、その集合体が物語を作るとおっしゃいました。また、被写体は常に日常のなかにある、とも。では、その日常のなかでシャッターを切る瞬間というのは、どういうときなんでしょうか?古屋誠一 それは私がそう感じたときなのですが、先にもお話ししたとおり、私に刺さってくるものが、いつも同じとは限りません。いつも見ているのに見えていないものはたくさんあります。それが、ある日突然自分に刺さってくる。たとえば今回発表した作品のなかでも、花の写...
第21回 綿谷 修 写真展『Rumor/Pond』インタビュー(1)

第21回 綿谷 修 写真展『Rumor/Pond』インタビュー(1)

第21回 綿谷 修 写真展『Rumor/Pond』インタビュー(その1)現在ラットホールギャラリーでは、12月9日までの日程で綿谷 修氏の写真展『Rumor/Pond』が開催されています。綿谷氏は写真家として活動する一方、ヒステリックグラマーのアート・ディレクターもつとめる人物。この写真展は、ホーム・グラウンドでの初の個展となりました。今回はそんな綿谷氏にオウプナーズ編集部が単独インタビューを実施。以降3回にわたり、今回の作品のテーマや現在の心境を語ってくれた彼の声をお届けします。Photo by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)欲しいものがど真ん中にあればいい、という写真──まず今回の作品ですが、撮られたのはいつ頃なんですか?じつは今回の写真展には、2001年に『Agenda』という写真集のために撮った写真と、2005年から2006年にかけて撮った新作が混在しています。小さいほうが『Agenda』で、大きく伸ばした...
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