第20回 アンデルス・ペーターセン写真展『Café Lehmitz』対談(2)
Lounge
2015年8月12日

第20回 アンデルス・ペーターセン写真展『Café Lehmitz』対談(2)

第20回 アンデルス・ペーターセン写真展『Café Lehmitz』
アンデルス・ペーターセン×北村信彦 対談(その2)

今回も、前回に引き続きアンデルス・ペーターセン氏との対談の模様をお伝えします。
話は『カフェ リミッツ』という場所がもっていた魅力の本質へと迫っていきます。(北村信彦)

Photo by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)

「カフェ リミッツ」は、みんなの家だった

──アンデルスさんに2年以上も通い詰めて写真を撮らせた、この場所の魅力とはいったいなんだったんでしょう?

アンデルス 答は非常にシンプルです。ここに集う人々に惹かれたからです。いまでも彼ら全員の名前を覚えています。まあ、いまの人の感覚からいえば、2年以上もおなじところで写真を撮るなんて変に思うかもしれませんが、僕にとってあの2年はけっして長くは感じませんでした。僕自身、ブルジョワ的なものに嫌気がさしていた時期でもありましたし、それまでの生活のなかで、なんとなく自分はアウトサイダーだと感じていました。そんなとき出会った彼らに、とてもリスペクトできるものを感じたんです。

北村 みんな行き場を探していた時代だったんですよね。自分の外に希望を求めていた時代だった。ここに集う彼らにとっても、ここがそうだったと思うんですが、実際このカフェはどういう存在だったんですか?

アンデルス ほとんど家みたいものでしたね。おなじ区内に住む人々の溜まり場的存在で、みんないつもここに来ていた。ほら、あそこの写真に写っている4人なんて11歳の頃からの友人同士で、毎晩ここに来ていましたね。彼らは、いわゆるギャングでした。そのほかにもドロボーやアル中、ジャンキーやピンプス、そんな普通の目で見れば“ワルい奴ら”が集まっていました。でもひとつの見方じゃ人は判断できない。みんな、悪いことで稼いだ金を貧しい両親にわたしていたりして、ワルい奴ではあるんだけど、別の見方をすれば、すごくいい奴ばかりでしたね。

かつてどこにでもあり、いまはどこにもない場所

──そこにストックホルムから単身乗り込んで行って、すぐに打ち解けることはできましたか?

アンデルス 家族のような雰囲気や、ひとりひとりへのシンパシーは、すぐに感じましたが、それでも友人になるには、それなりに時間が必要でした。

北村 彼らにとっては、ある意味エイリアンに見えたでしょうね。

アンデルス そうですね。最初は警戒していました。でも、そのうち、どうやらマガジンでお金儲けをすることが目的じゃなさそうだと理解してくれて、受け入れてもらえました。

──北村さんが最初にこの写真集をご覧になったとき、そういう情報は一切なかったと思うんですが、第一印象はどう感じでした?

北村 ツインピークスじゃないけど“禁断のドアを開けちゃったな”という感じですね。見るからに普通じゃない人々がそこにいて、一度入ったら抜けられないようなニオイを感じました。でも、むかしは日本でも、田舎の村の結婚式なんかに、こういう光景はあったんじゃないかな、と思わせますよね。

アンデルス そういうのを撮った日本人はいるんですか?

北村 いや、いないんじゃないでしょうか。でも、たぶん以前はどこの国にもあって、いまはなくなってしまった風景ですよね。

アンデルス そう、40年ぐらい前までは、世界じゅうどこにでもありました。でも、いまはどこにもない。この「カフェ リミッツ」があった場所も、いまでは道路になっています。

北村 そういう意味でもアンデルスさんにとって、この時代のこの空間と、そこに集っていた彼らは、とても大切な存在なんですね。

アンデルス そのとおりです。42人もの女の人に貢がせていたピンプ、トニー・カーチスを惚れさせたと言ってはばからないゲイボーイ、もう15年も付き合っていて母子みたいな関係になってた売春婦とお客さん、いつも一緒にいた女性同士のカップル……。大げさではなく、いまでもすべての人の名前を覚えています。とにかく、すばらしい時間でしたね。

第20回 アンデルス・ペーターセン写真展『Café Lehmitz』<br><br>アンデルス・ペーターセン×北村信彦 対談(その2)

Andres Petersenによる日本初の個展
Andres Petersen:Café Lehmitz

日程:11月2日(金)まで開催中
時間:12:00~20:00(月曜定休)
場所:RAT HOLE GALLERY
港区南青山5-5-3
HYSTERIC GLAMOUR 青山店B1F
Tel. 03-6419-3581

本展では『Café Lehmitz』よりニュー・プリント約45点を展示・販売いたします。
また、発売記念として通常版に合わせてオリジナルプリントが付いたスペシャルエディションが30部限定でラットホールギャラリーにて販売いたします。(6イメージ×5エディション)

           
Photo Gallery