大人の男こそキモノが似合う/第18回 「袴をはく」
Fashion
2015年3月19日

大人の男こそキモノが似合う/第18回 「袴をはく」

第18回 袴をはく

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」を、イラストレーターの穂積和夫さんが解説します。
第12回では、下駄や雪駄などの履きものをとり上げます。坂本龍馬を気取るのもいいけれど、キモノにはやはり和風の履きものが似合うのではないでしょうか。

文とイラスト=穂積和夫

男の礼装は、一般に「羽織袴」と言われるように、「袴をはく」のが一つの常識になっている。礼装の場合でなくとも、袴をはくことによって男のキモノ姿は風格が上がり、見た目にも男らしくシャキッと恰好よく見える。

現代の袴は、江戸時代の武士の略礼服ともいうべき裃(かみしも)の、ボトムとして着用されてきた「半袴」からきている。忠臣蔵の松の廊下などではいている長袴を簡略化したものだ。しかし袴をはくのは武士だけで、前回に書いたように、町人は苗字帯刀を許されたものしか着用できなかった。明治になってこの規制が緩和され、ようやく一般化されるようになったのである。

着る者にとっては、袴をはくことによって気分が引き締まり、自然と姿勢も良くなる。着流しに慣れたところで、一度ぜひ袴の着用を試みて、その効用と恰好良さを体験して欲しいものだ。恰好だけでなく、袴をはくことによって、多少キモノが着崩れても気にしないですむところが袴の大きな効用の一つといえよう。

第52回 「衣」にまつわる話_花のかたち編

まず帯を結ぶ

袴をはく場合には、下地としてのキモノの帯の結び方も変えた方がいい。普通の「貝の口」でもいいのだが、袴の着用時には「一文字」という結び方が一般的だ。袴の後ろには「腰板」というものがついているが、この腰板から下の部分に膨らみが出て恰好が良くなる。帯の結び目は横にずらさないで、背縫いの中央に結ぶ。大学の卒業式などにはかれる女性の袴は、だいたいスカート式で腰板がない。男の袴も腰板が出現したのは近世初期のようである。一文字の帯結びを図解したので、これを参考に実践していただきたい。

袴に足を通す

帯が結べたところで、いよいよ袴を着用することになるわけだが、ここでもうひと工夫して、キモノの裾を帯に挟み込んでしまう。前裾でもよいが、いわゆる尻っぱしょりでもよい。袴をつければ隠れて見えなくなってしまうし、こうすることによって足さばきがよくなるし、袴の裾からキモノの裾がはみ出して見えることもない。また、丈が短すぎるキモノでも、袴をつけることによってうまく活用することができる。

準備が整ったところで、いよいよ袴に足を通す。袴にはズボン式の「襠(マチ)付き袴」「馬乗り袴」と、スカート式の「行灯(あんどん)袴」とがあるが、礼装用としては無地でマチ付きに仕立てるのが本格的とされているようだ(マチ付き袴は馬乗り袴のマチの低いもの)。行灯袴は略式とされるが、着用の仕方に変わりはない。袴の紐を結ぶのはなかなか面倒だ。図解を参考に試みていただきたい。

紐を結ぶ

1. まず、前述のようにキモノの裾を帯にはさみこむ。
2. 袴の前紐を帯の前面に当てて、両足を入れる。前紐はふつう帯が1,2センチ見えるくらいの位置が適当だ。これは花婿型のはき方で、帯を見せない武家式のはき方もある。いずれにしても、このとき袴の前裾は足袋の甲すれすれくらいの長さがちょうど良い。
3. 前紐の左右を後ろに回して、帯の結び目の上でいちどシッカリひと結びし、前に回す。
4. 左右の紐を前で交叉させる。

5. 片方の紐を脇で一折りして後ろに回す。
6. 後の帯下で左右の紐を結び、あまった分は帯にはさみこむ。
7. 次に袴の後身を持ち上げる。腰板には小さな「ヘラ」がついているが、これをキモノと帯の間に上から差しこんで、腰板を帯結びの上に安定させる。これで腰板が背中の中央に密着する形になる。
8. そのまま腰板わきの左右の後紐を前へ回す。

 9. さらにさっき巻いた前紐の上から下へくぐらせて、前で交叉させる。
10. 左手に持った紐を上に引き上げる。
11. この紐をさらに前紐の裏から下へ引き下げる。
12. 右手に持った紐は左側に折り返し、左手に持ち替える。
13. 下がっている方の紐を、右手でもう一度前紐の上から下に巻き付ける。左手に持った方はクルクルと巻いて、結び目の上に置く。このとき、折り畳む長さは紐の幅の約3倍(7センチくらい)になるようにする。
14. 下がっている紐は前から後へ何回かくぐらせ、最後に20センチほど残して、次に縦方向の始末をする。
15. 指を入れて輪をつくり、長さを調節しながら前紐の下を通して上に引き上げ、上も同様に輪をつくって、あまった部分は内側に折りこんではさみこむ。つまり結び目が十文字になるように形を整えるわけだ。紐の幅の約3倍に畳むと、丁度赤十字のマークのような形になる。正確に3倍とするよりも、横方向をやや長目にすると恰好がよいようだ。

この十文字結びのほかに、横一文字に結ぶ方法もある。上下の結び目を省略して左右一文字に結ぶもので、やや軽快感がある。

袴の畳み方

袴をはくのもいいが、畳むのはやや面倒だ。袴には襞(プリーツ)があるのでいい加減に畳むとヘンなシワがついてしまう。覚えてしまえばたいした問題ではない。これも日本の伝統的な美意識と生活の知恵なのだ。

まず袴を平らな面に表側を下に伏せて置く。
後襞を整えてからひっくりかえして前襞を整える。
ひっくりかえすには竹の物差しを使うといい(A図)。
前襞を整えたら、裾を1/ 3ほど折り上げる。
そこへ腰板側を折り下げる。つまり三つ折りにするわけ。
ただし腰板が出っ張らないように注意が必要だ。
あとは左右の紐を結んで始末するわけだが、これは図解を見ながら行って下さい。
紐が長すぎるのでB図のように4つに折りたたんでおくとやりやすい。

袴の紐はなんでこんなややこしい始末をしなけりゃいけないのかというと、要するにキチンとシワにならないように畳むと同時に、次にはくときに面倒がないように、紐の×印の部分を左右に引っ張るだけで一遍にほどけるようになっているわけなのである。なるほど!

           
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