穂積和夫×中野香織 日本男児のダンディズムとは?(2)
Beauty
2015年5月8日

穂積和夫×中野香織 日本男児のダンディズムとは?(2)

穂積和夫先生に聞く(2)

日本男児のダンディズムとは?

文=中野香織Photo by Jamandfix

コスプレ感覚のキモノでシーンが広がる

中野 スーツには特有のダンディズムが語られるものですよね。抑制のなかに個としての華を表現する、というような。キモノにおける美的価値観って、どんなものですか?

穂積 僕はスーツを着るときと同じような感覚で選び、着てるつもり。

中野 そもそも穂積先生がキモノを着ようと思われたのは?

穂積 きっかけはつまんないことで、新聞小説の挿絵で江戸ものをやることになった。キモノを描くことになったんです。洋服の感覚でキモノは書けない。じゃあ、ということで自分で着るようになったんです。

中野 女性でもファッションを楽しみつくした人は、キモノのほうに走っています。

穂積 僕の場合はそういうことも踏まえてますが、コスプレ感覚もありますね。誰も着ていないから着てやろう、と。

中野 誰も着ていないから着方がわからない、っていうのが今の若い人の中にはあると思うのですが。

穂積 結局、僕なんかは子どものときからある程度見ているので、ああいう風に着るのか、と視覚的にわかる。崩れてきたら、ああかっこわるいな、とわかる。じゃあ、かっこよく着るにはどうするか、というのがここ10年、試行錯誤してきたことなんですが。

中野 キモノを着ていかれるのは、どういう場面ですか?

穂積 キモノを着ていくシーンを増やそうってんで、だからコスプレになるんですが(笑)。祇園のお茶屋さんに行ったり、お茶もやってみたり。これは半年やってすぐやめちゃったけど。小唄と三味線を5、6年前からやっています。着物を着ることで和の文化が広がるんだね。

ぎんぎんの粋よりも、山の手の野暮

中野 キモノを着るときの要諦のようなものはありますか?

穂積 シルエット的なものはないので、コーディネイトに尽きるかなあ。自分に合った値段のものをある程度もって、上手に着まわす。このキモノなんかも、アンサンブルで揃うんですが、それをあえて着ないで、黒い羽織りを、合わせて着ている。

中野 ジャケパンスタイル、みたいな感じでしょうか !? 上と下をあえてそろえないというのは……。

穂積 「お対(つい)」というスーツ感覚が好きな人と、羽織りとキモノで別々に合わせる、という人、羽織りは嫌いで着流しオンリーという人、いろいろですね。

中野 お対、ということばも初耳です……。着流しオンリーっていうのは、上着なしのシャツスタイルのようなものですか?

穂積 いや、ちょっと違うかな。
友人のイラストレーターなんかは、羽織りが嫌いで着流しなんだけど、それはね、羽織りは旦那衆が着るものであって、職人や町人は羽織りは着ない、というこだわりがあるからなんですよ。

中野 職人のダンディズムですか。

穂積 僕は下町生まれなんですが、ぎんぎんに「粋」っていうのが、こっぱずかしくて、だめなんですよ。どこか少し野暮がいい。
野暮っていうのは、下町に対して山の手の野暮というか。山の手のお父さん、おじいさんのような感じでいきたいなあ、と。

中野 それってまさしく日本男児らしいダンディズムですね。決めすぎの粋を嫌って、どこかあえて品のいい野暮な感じを出すっていう……。洗練されすぎているよりも、おっとりと野暮な感じのほうが、たしかにかっこいい。

穂積 スーツでも同じですが、自分のイメージっていうのはやっぱりもっていないと。自分がキモノを着たとき、どう見えるかというイメージはもっていないといけません。

中野 それ以前に、どう見せたいかがよくわからない方が多いのでは……。

穂積 日本の男性には、これが好きか嫌いかどうか、わからないっていのが多い。まわりから見たら俺はこれが好きだって言える人が少ない。それが問題だろうとは思いますね。
ところでたばこ吸っていい? キモノを着るときにはたばこもこれで吸うんです。

中野 キセルですか? 初めて見ました! このポーチは?

穂積 いまできのものです。イッセイ・ミヤケのプリーツ・プリーズ。

中野 いまでき、って……(笑)。 アンティークに対して、いまでき? なんだかおしゃれなことばに聞こえます。今日はボキャブラリーがぐんと増えております(笑)。

日本の結婚式では、なぜみんな真っ白いタイなのか?

穂積 日本の男性には教養としての服装を誰も教えてくれない。老いも若きも知らないで一生を過ごす。これは外国で公式の形で仕事をしたりするときに、困るんじゃないかな。

中野 恥ずかしい……と見えることもありますよね。

穂積 外務省にはドレスコードのちゃんとしたハウツーがある。こういうものを、どっかで教えなくちゃいけないんだ。

中野 必要になってから仕入れるのと小さいときからそういうもんだと知っているのでは、また違いが出てきそうですが。

穂積 フォーマルウエアを正しく着てるのは、天皇しかいないんじゃないかな?

中野 冠婚葬祭のルールだって、日本独特で、誰が決めたのか、あやしいものも少なくないです。

穂積 結婚式にはみんな黒いスーツに真っ白いタイ。誰が考えたのかねえ、あれ。

中野 それしか目にしてないのでそういうものだと思い込まれていますが、別にあれは「正しい」わけではないですよね。慣例になっているので「まちがい」でもないですが……。

穂積 僕は工夫してますよ。お葬式の時にはグレーのネクタイで、結婚式はグレーっぽいんだけど、明るい、ちょっときらっとした色。

中野 イギリスだと結婚式ではベストが派手ですよね。刺繍がしてあったりする、オッドベストで、男性の参列者はけっこう華やか。

穂積 僕はごくふつうのグレーのベスト。

中野 それにしても日本の真っ白いタイっていうのは。昔っから、ああだったんですか?

穂積 いや、違うね。白いネクタイの人なんかいないよ。斜めの白と黒で、赤が細く入っていたりした。それがいつのまにか、真っ白一色になっちゃった。

発行人O 日本でフォーマルのルールをつくったのはカインドウエアさんだそうですよ。

中野 考えた人、エラいですね。日本人の自信のないところに、ぴたっと合っちゃったという感じ。

穂積 略礼服ってことで黒のスーツを着ていれば汎用性も広いし、白だとおめでたくて、黒だとその反対だと。

発行人O アメリカでもヨーロッパでも真っ白のネクタイは見たことないですねえ。

穂積 彼らはあれを見ると奇妙な感じがする、と言いますよね。白ネクタイの軍団はコワい、と。残念ながら僕は1本も持ってませんけど……。

中野 結婚式ぐらい、もっと華やかでバリエーションがあってもいい気がします。

           
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