穂積和夫×中野香織 日本男児のダンディズムとは?(3)
Beauty
2015年5月8日

穂積和夫×中野香織 日本男児のダンディズムとは?(3)

穂積和夫先生に聞く(3)

日本男児のダンディズムとは?

文=中野香織Photo by Jamandfix

アイビー魂、健在なり

中野 穂積先生ご自身が花婿になられたときの装いは?

穂積 45年前ですが、紋付袴です。途中からお色直しでブレザーを着ました。赤いブレザー。お婿さんのお色直しなんて当時は珍しかったですよ。

中野 赤いブレザーって……。

穂積 アイビークラブですよ。僕が結婚したときの仲人は石津謙介先生でした。

中野 あのアイビーっていうのも日本独特の文化なんですよね?

穂積 僕やくろすとしゆきはVANができる前からきゃあきゃあ言っていて。どこにも売ってないから、洋服屋にああだこうだと作らせた。そのうちVANができたんで、ああ助かったって感じでした。

中野 いまでもアイビー魂は?

穂積 団塊の世代で、みゆき族をやってた連中が、今60歳ぐらいですが、いまだにそういうのに夢中になっていますよ。この前も名古屋でアイビークラブのパーティがあったんですが、もうみんなボタンダウンとか。

中野 60歳でボタンダウンですか。いや、何歳でもいいと思いますが……。

穂積 壮観ですよ。去年はぼくの喜寿で、スタジャンをつくったんです。僕の年の77という数字が入ってるんです。でも重たいんだよ。あったかいけど。

中野 喜寿記念に「77」のスタジャン! かっこいいですね。

穂積 お揃いで自分たちのストライプのブレザーを作ったりもしてね。薄いので、春先に着たいなと思っています。

中野 アイビーって制服みたいで、決まりだらけですよね。今も、昔ながらの決まりを踏襲するんですか?

穂積 ディテールまで、ピュアアイビーですよ(笑)。3つボタンで、胸ポケットの位置に第一ボタンがくる。ズボンのうしろに尾錠がついていて、背中のベンツがフックベンツ。背縫いのところからまっすぐに割れている……。

中野 なにか意味があるんでしょうか?

穂積 まあ、クラシックということなんでしょう。ボタンダウンのシャツも、襟の後にもボタンがあって、背中のプリーツも真ん中にあって、そこにフックがある。プリーツはボックスプリーツなんだけど、洗濯屋に出すと、変なふうにアイロンがかかってきちゃうんですよ。

中野 アイロンがけ、たしかに難しそうです、あのプリーツは。

穂積 だからね、僕の仲間の中に、アイロンがけ用の道具を発明したやつがいるの。

中野 道具を発明って?

穂積 東急ハンズで竹のものさしを買ってきて、薄くして、それをボックスプリーツのなかにさしこんで、アイロンを上から下までぴーっとやる。

中野 そこまでこだわる !?

穂積 プラスチックや金属だとアイロンがかけられないから、竹でね。そういうこだわりの連中がいるんですよ、60で。

中野 ……おそれいりました。

穂積 そればっかりに関心があって、ほかのことにないと困るんだけどね。60で(笑)。

中野 アイビーの何がそこまで男の人を夢中にさせるんでしょう?

穂積 アイビースタイルはカジュアルからフォーマルまで、アイテムがだいたいそろってるんですよ。男の服装全体をワイドに把握できる。決まりもある。

中野 お約束事のある完結した世界のなかで遊んでいるような感じが、男の子ワールドだなあ、と。

穂積 決まりがあって教条的だからイヤだという人もいるが、一度洗礼を受けた人は、他のものを着てもセンスよくまとめますよ。それに日本人はアイビースタイルが似合うと思います。

中野 アルマーニ的な艶っぽいスタイルなんて、いかがご覧になられますか?

穂積 アルマーニもある種の天才ですよね。でもぼくはあの系統よりもラルフローレンとか、そっちのテイストが好きだな。

中野 トラディショナルな。

穂積 トラディショナルをつきつめると、やはり和服になっちゃうんだな。

偽装とうさんくささ、モラルとプライド

中野 最近の日本の様子は、どうご覧になります? 拝金主義がこれほどまかりとおっている時代もなかったと思うんですが。

穂積 ほんとはね、この年になるとあんまりしゃしゃり出て、あれこれ言いたくないんですよ。「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」って、好きなことばだな。

中野 ……あっちでもこっちでも偽装が問題になりましたが。

穂積 儒教的にいうと、礼・智・信の信というのが最近あやしいですね。でもある種の個性のある人間はどこか、うさんくさいです。自分もうさんくささがあるのかな。

中野 ああ、うさんくさい人は、好きですよ。演技的なうさんくささのある人。演技的なうさんくささと、ただのうそつきは全然、別物ですからね。

穂積 マジメを絵に描いた人間にあこがれはもってるんですよ。できればそうなりたいが、なれないでいる。

中野 人間って、軽蔑してるものに対してあこがれたりしませんか?

穂積 いや、心情的には謹厳実直なじいさんになりたいんだよ。でも軽佻浮薄のほうが勝ってるから、謹厳実直にはなれないなあ。

中野 軽佻浮薄でも、社会的なモラルさえちゃんとしてれば素敵だと思うんですが。近頃は日本人のモラルも、がたがたになっているように見受けられませんか?

穂積 モラルとプライドは持っていないといけない。女子高校生のスカートの中を鏡でのぞくというような年ではないが……。

中野 ああ、モラルもプライドもない行為ですね。なさけないですよね。

穂積 浅ましいよね。でも感心しちゃうんだけど(笑)。

バッシングと嫉妬

穂積 ぼくは優等生志向みたいなところがある。「優等生はつまらん、劣等生のほうが個性があっておもしろい」、という見方に反発があるんですよ。優等生になりきれなかった人間だからだろうけど。

中野 優等生はむしろバッシングされる。嫉妬からでしょうかね、バッシングは? 優等生だけじゃなく、最近はとくに、ちょっと目立つ人はよってたかってたたかれる。日本人は昔からそんなだったんですか?

穂積 いや、昔はもっと鷹揚だった。貧乏人は貧乏人、金持ちは金持ち、庶民は庶民、という棲み分けがあった。

中野 最近はみんな一緒でなくては、という感じで、息苦しく感じることもあります。必ず足をひっぱる人がいて。

穂積 のびのびしていないなあ。ブログなんかでもいきなり見知らぬ人からいや~なコメントを書かれることがあって。

中野 不気味ですね。男の人のほうが嫉妬深そう。

穂積 そりゃあそうだよ。でも僕は年とともに嫉妬することはなくなってきたかな。今さら嫉妬してもはじまらんか、と(笑)。

ファッションにはスノビズムが重要

穂積 スノビズムってことばがあるでしょ?

中野 はい、俗物根性なんて訳されてますけど……。

穂積 軽蔑的な意味合いでしか使われてないけど、そうでない意味合いもほんとうはあるんではないかと。

中野 もちろんです。スノッブには「毛を刈り取らせようとしない最後の羊」つまり「いちばん扱いにくくて手に負えない羊」っていう意味もあります。主流に従わずに抵抗し続けるアマノジャクっていうイメージですね。

穂積 長澤セツという人は師匠で、尊敬してるんですが、「スノッブななりは、オレぐらいの年にならないと似合わないんだよ」という言い方をして。

中野 わかる人にしかわからない微細なところで、優越しちゃうような感じでしょうか。

穂積 そんなスノビズムの要素は、ファッションには非常に大きいです。

中野 日本ではそのアマノジャクっぷりが「鼻持ちならない」というとらえ方をされてしまうんです。最初に「俗物根性」って訳した人の訳語は、なんとか変えなくてはいけませんね。

           
Photo Gallery