ato|デザイナー 松本 与 インタビュー
ato|アトウ
服を買うひとにとって魅力的なもの、消費者のリアリティに響く服を
『ato』 デザイナー 松本 与 インタビュー
2010年春夏コレクションまで、恵比寿の大きな会場を使ったショーをおこなっていた『ato』が、2010-11秋冬は展示会形式に変わった。2010春夏のクリエイティブから、デザイナーの松本 与氏のなかでなにが変わっていったのかを探る。さらに、2010-11秋冬コレクションのビジュアルをいちはやく紹介!
Text by OPENERSPhoto by TAKA MAYUMI(SEPT)
いまの状況のなかで戦える自分にしていきたい
――前回、オウプナーズでお話をうかがったのは2007-08秋冬コレクションで、それからリーマンショックがあったり、ファストファッションが台頭したり、ファッションをめぐる状況は大きく変わっています。
そうですね。女性はモノを買うときに慎重に考えて買うようになってきていると感じていて、男性もそうなっていると思います。いまは、モノは良くて当たり前で、その裏にあるストーリー、たとえばセレブが着ているとか、コラボレーションなどわかりやすさを求めている。逆に考えれば自分では判断できないわけで、誰かがお墨付きを与えるものに飛びつく傾向が強くなっているように思います。
――そう感じているなかで、松本さんのクリエイティブは変わってきていますか?
まず『ato』の成り立ち自体が、着るひとが主役なので、そこはブレてはいません。服を着ることは楽しいことだし、自分がカッコイイと思うものという軸足は変わりませんが、たとえば、『ato』のスニーカーをカニエ・ウエストが履くと売れるのも事実だし、そういう現象を見ていると、自分がやっていることはどうなんだろうと思うことはありますね。
――いま、デザインするうえで影響を受けていることは?
それは前から変わらず毎日のことからですね。新聞で経済ニュースを読んだり、音楽を聴いたり、絵を観たり、デザイナーの前に生活者なので、生活している気分がデザインに影響しているかなとは思います。
――それが色や素材にも反映してくる?
そうですね。たとえばスニーカーがなぜ評判がいいのかとか、カジュアル化の流れのなかでデニムがよく売れているなどの変化を感じて、気分、時代などなにが要因なのか、それは複合的なのか、これからどう変わっていくのかなどを感じなければならない。
――感じないと、こちらも変われませんね。
ファッションもビジネスなので、つくる側(売る側)と買う側があるわけで、経済をふくめてまわりの状況が変わらないかなと期待しているより、まわりを変えるために、自分を変えていかないと。かっこよさとかプライスとか、服を買う彼らにとって魅力的なものをつくるしかない。H&Mなどに魅力を感じてしまったらそれはそれでしょうがないので、そこで戦える自分にしていかないと。
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服を買うひとにとって魅力的なもの、消費者のリアリティに響く服を
『ato』 デザイナー 松本 与 インタビュー(2)
2010春夏は、90年代はじめの雰囲気とリンクしたコレクション
――2010春夏コレクションのテーマは「バイカー」でした。ショーもあふれるほどのひとで盛大でしたね。
ショーをきちんと観てほしい、リアリティを感じてほしいと、コレクションは3シーズンほど恵比寿のおなじ会場を使いました。
――2010春夏の手応えは?
パンツの評判がいいですね。もともとメカニック的なものが好きで、今季はバイカーパンツにリアリティをもたせて、トップスはTシャツなどを提案しました。今回はボトムに色を使いたかったのと、汎用性があるものを出したくて、また、いまは90年代のはじめに時代のニュアンスが似ていると思ったので、スザンヌ・ヴェガの音楽などを使って雰囲気をくわえました。
――『ato』といえば、黒のイメージがありますが
もちろん、黒は自分の色ですが、今回は色を入れるのがいいかなと。それと、先シーズンからメンズとレディスのテイストを変えたくないという思いも込めています。
――汎用性というのは?
ファッションカレンダーでは、春夏と秋冬の大きな区切りがありますが、シーズンをまたいで継続するものがあってもいいのかなと。その瞬間で消費し尽くさなくてもいい商品ということです。これまでは、シーズンを越えたら価値がないという部分がありましたが、いまは消費者のリアリティがそれに勝っていますね。ですから、前のシーズンのものとも合わせられるように意識的につくっています。
――なるほど。でも『ato』は、東京のファッションシーンで先頭を走っている感じがありますが。
イメージは大事ですが、最先端なことをやりすぎるのは恥ずかしいなと思っている部分もあって、流行の先端からちょっと引いたところでクリエイションできたほうが賢い感じが最近しています。
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服を買うひとにとって魅力的なもの、消費者のリアリティに響く服を
『ato』 デザイナー 松本 与 インタビュー(3)
僕の考え方ですが、身体は個性なので、身体は隠したくない
――松本さんがそう感じているというのは新鮮ですね。
僕はモードを引っ張っているという意識はないし、自分の立ち位置でしっかりものづくりをしていきたい。素材もデザインも、納得できるまでつきつめたい。つくり手として、カタチになるまでいろんな種を蒔いておきたいんですね。アイデアの種や、デザインの種をたくさん蒔いて、理想はそこから選択していきたい。
――いまは忙しすぎると。
そうですね。大手企業はどこもR&Dのような研究所をもっていて、つねに研究して、機が熟したら商品化していく。アパレルもそうなるといいと思うし、そういうことに力を入れていきたい。僕はデザインできるなら、家具や時計などなんでもデザインしたい。
――2010-11秋冬コレクションを展示会形式にしたことと関係ありますか?
じつは春夏では海外での展示会もおこなわず、秋冬もショーをしなかったのは、ものづくりに専念したいという思いからですね。
――2010-11秋冬で気になっていることは?
今回はベーシックなテーラードやトラッドをもじって表現したいなと。シンプルなIVY的なシャツやパーカ、ハットなどのトラッドの定番的なアイテムをくわえることで、テーラードにあるフォーマルなイメージを取り除き、リアリティのあるスタイルを提案しています。また、レディスにはメンズライクな素材を多く組みこんでいて、クラシックが気になっています。
――2010-11秋冬のテーマをお教えください。
メインテーマは“UNISEX”です。今シーズンは、服における男女の性差をより少なくすることを目的として、テーラード、トラッド、ミニマリズムの要素を取り入れたデザイン、スタイリングで構成しています。とくにミニマリズムでは、ミニマルな男女共有できるアイテムに重点を置き、フォーマルとカジュアルの融合を実現させるような、シーンを選ばない、いまもっとも必要とされる服をデザインして、スタイリングでも表現しています。ミリタリーのテイストや、ラップパンツ、サルエルなど、パンツにデザインの要素を多く取り入れているのも特徴です。
――シルエットは、もちろん細身ですね。
サイズは細いです。僕の考え方ですが、身体は個性なので、身体は隠したくない。身体の大きなひとが『ato』のジャケットをぴちぴちで着ているのはそれでいいと思います。肩の大きいオーバーサイズの服は身体が出てきませんが、あれは個性をシャットアウトしていると思ってしまう。だから僕の服では身体は隠したくない。
――松本さんがいま注目されているクリエイターを教えてください。
写真が好きなので、いまシンパシーを感じるのは、写真家の川内倫子さんですね。「生」にかんするモチーフが多く注目しています。あと、写真家のライアン・マッキンリーなどもふくめて、なにかあたらしいもの、いままでの体制を飛び越えられるあたらしいものがでてくるかなという期待感があります。音楽もいい音に出合うと気持ちが上がっていくし、外のクリエイティブな作品に触れると自分もかかわりたくなりますね。
――ありがとうございました。
ato
http://www.ato.jp/