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2025年5月9日
反転する美学。ジャガー・ルクルト「レベルソ」
JAEGER LECOULTRE|レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド
時を告げる道具としての腕時計が実用の域を超え、美学と職人技の結晶としての価値が見直される現代。スマートフォンやスマートウォッチが時刻確認の主役となった今だからこそ、機械式時計の存在意義が改めて問われている。その答えとなり得る存在の一つが、ジャガー・ルクルトの「レベルソ」だ。
Text by OPENERS
スポーツから生まれた革新的デザイン
レベルソの最大の特徴は、文字通り「反転する」ケースにある。1931年の誕生から90年以上が経過した今も、そのデザインはモダンでありながら歴史的アイコンとしての地位を確立している。
多くの時計愛好家が忘れがちなのは、レベルソがスポーツウォッチとして誕生した事実である。イギリス領インドでポロを楽しむ将校たちからの要望により、激しいプレー中に時計を保護するための機構として考案されたのが、この反転システムだった。つまりレベルソは“機能ギア”の先駆けだったのだ。
したがって現代の機能性ウェアとの相性がよくないはずがない。レザーストラップからNATOストラップに付け替えるだけで印象は一変。さらに反転させてケースバックを表にすれば、まるでアクセサリーのような装いになる。ビジネスからカジュアルまで、どんなスタイルにも違和感なく溶け込む汎用性は稀有な存在といえるだろう。
ちなみにレベルソの反転機構は、当時の時計業界に革命をもたらした。オメガやユニバーサル・ジュネーブ、ヴァシュロン・コンスタンタンらも風防を隠せる時計を製作したが、最終的に残ったのはジャガー・ルクルトのレベルソだけだ。オメガ、ユニバーサル・ジュネーブは縦に回るタイプ、バシュロン・コンスタンタンはシャッターで風防を隠すシステムを開発したが、結果的にレベルソ以外は淘汰されてしまった。
その理由は明確だ。ジャガー・ルクルトの横回転が最も安定性が高く、実用性と芸術性を兼ね備えていたからである。本物の価値を見分ける目を持つX世代にとって、レベルソが90年以上もの間、デザインの本質を変えずに進化し続けている事実を見逃すことはできない。
ウォッチメーカー中のウォッチメーカー
ジャガー・ルクルトが単なる高級時計ブランドではないことは、業界では常識だ。“ウォッチメーカー中のウォッチメーカー”と呼ばれる所以は、パテック フィリップなどのメゾンにムーブメントを供給していた実績のみならず、時計に必要な精度を測るための「ミリオノメーター」という精密工具を開発したことにもある。
1833年の創業以来、1400種類を超えるキャリバーを開発し、430以上の特許を取得するなど、その革新性と技術力は時計業界の中でも際立っている。表面的な華やかさだけでなく、内面の充実を重視する今の価値観と共鳴する要素がここにもある。
さらに興味深いのは、ジャガー社がクラシックカーのメーターを製作していた会社であるという事実だ。機械式時計とクラシックカーは、どちらも機械工学の粋を集めた産物であり、職人技とエンジニアリングの結晶である。
両者を愛好する層の重なりは偶然ではない。精密機械としての美しさ、長年に渡る価値の維持、そして所有する喜びは、クラシックカーと高級時計に共通する魅力だ。
手に入れても手放せない理由
高級品とは、所有欲を満たした瞬間からその魅力が薄れていく宿命にある。しかしレベルソは「手に入れる理由はあっても手放す理由はない時計」と称される。
その証拠に、中古市場でもレベルソの再販品は少なく、すなわち売りに出される頻度が低い。一度所有した人が手放さないのは、この時計が日々の使用においてその価値を実感し続けられるからだ。
レベルソのデザインは、アール・デコ様式を取り入れながらも時代を超越した美学を持つ。単なるレトロでもなく、過剰なモダンでもない、絶妙なバランスがそこにある。バーインデックスのモデルは特に、クラシックにもモダンにも見える不思議な魅力を備えている。
かつては角型時計といえばカルティエのタンクが代名詞だった時代もあったが、今やレベルソは独自の地位を確立している。その背景には、カルティエのタンクにはない「実用的な機能性」と「反転という遊び心」の双方を備えていることが大きい。
伝統と革新の新次元。レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド
レベルソの魅力を現代に再解釈した新作が、「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」である。この新作は、レベルソのアールデコデザインの卓越した汎用性をさらに際立たせている。
ミラネーゼリンクブレスレット、18Kピンクゴールド製ケース、そしてこの貴金属の色に完璧にマッチするグレイン仕上げのダイヤルを備えたこのモデルは、ヴィンテージの魅力と自信に満ちた現代性を見事に融合させている。90年以上前の初代モデルから始まったレベルソのスタイルの進化を雄弁に表現する一本だ。
注目すべきは、コンテンポラリーなスタイルにさりげなくヴィンテージ感を添えるミラネーゼリンクブレスレットだ。2本の金属糸が絡み合い小さなリンクが二重になった、緻密で平らな金属編みは、13世紀のミラノにまでさかのぼる歴史を持つ。ブレスレットを作るためには16メートル以上のピンクゴールドの糸が組み合わされ、ペッツァと呼ばれる布のような構造へと形作る。
厚さ7.56mmのスリムなケースは、わずかにアップデートされたラグアタッチメントにより、ブレスレットが一体化しているような印象を与える。グレイン仕上げを施したゴールドカラーのダイヤルは、ケースとブレスレットのリンクに施されたポリッシュ仕上げの輝きと絶妙なコントラストを生み出している。
レベルソ・トリビュートのダイヤルは、1931年の初代レベルソの純粋さを思い起こさせるデザインを採用。時間は数字ではなく、植字インデックスで示される。セコンドトラックが円を描くスモールセコンドは6時位置に配置され、ダイヤルやケースの直線的なデザインとの対比が美しい。
内部には42時間のパワーリザーブを誇る手巻キャリバー822を搭載。このムーブメントは長方形のケースのラインと呼応するように形作られ、設計、製造、組み立てのすべてをジャガー・ルクルトが自社内で行っている。
「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」は、反転式時計の歴史的価値と現代のエレガンスを融合させた逸品といえるだろう。スポーティでありながらエレガント、コンテンポラリーでありながらクラシック、そしてしばしば複数の特徴を同時に持ち合わせるという、レベルソならではの二面性を体現している。
レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド
自社製手巻きムーブメント、パワーリザーブ42時間、18Kピンクゴールドケース(45.6✕27.4mm、厚さ7.56mm)、18Kピンクゴールド製ミラネーゼリンクブレスレット、3気圧防水、642万4000円。
自社製手巻きムーブメント、パワーリザーブ42時間、18Kピンクゴールドケース(45.6✕27.4mm、厚さ7.56mm)、18Kピンクゴールド製ミラネーゼリンクブレスレット、3気圧防水、642万4000円。
問い合わせ先
ジャガー・ルクルト
Tel.0120-79-1833
https://www.jaeger-lecoultre.com