第10回 荒木経惟氏×B.ミハイロフ氏トークショー (その2)
第10回 荒木経惟氏×B.ミハイロフ氏トークショー<その2>
話はいよいよメインディッシュの『緊縛写巻』から荒木さんの色の原点へとつながって……。
思えばアタシの赤は、焼夷弾の赤なんだよね(荒木)
荒木●じゃあ次は『緊縛写巻』の話を。これはご覧のとおり写真が全部つながってるんだけど、一度絵巻物というのをやりたくてさ。で、東海道五十三次にあやかって、わざと53枚にしたというわけ。最近自分で、死に近づいてる感覚が強くなってるんだ。だから原色に向かってるんだよね。でも、こうしてあらためて見てみると、中でも赤に惹かれているのがわかるね。
これはやっぱり焼夷弾の赤なんだろうな。あれは5つか6つくらいの頃、「空襲!」といわれるとね、アタシたち子供はお寺に逃げたんだ。墓には爆弾落とさないといわれてね。でも本当に落とさないんだよね。
で、周りが燃えてるのを見てる。もちろんそれ自体はひどいことだけど、その真っ赤な空はものすごくキレイなんだよ。あれがアタシの赤の原点だな。
今回の作品は、モノクロつまり死に、色、生を塗りたくる。エロスとタナトスを混ぜこぜにするということをやってみたんだ。でもまあ、こうやって3つの作品群を一緒に展示してみると、やっぱりアレ(Love by Leica)が一番いいよな(笑)。ライカでちゃっちゃっとね。写真はね、セックスの前後に撮るのが一番いいんだよ。
ボリス●セックスの代わりに?
荒木●ノー、ノー。あれね、みんなセックスした女たちなの(笑)。
ボリス●よかったね!(会場爆笑)
荒木●ライカって使いにくいカメラだよね。でもね、そういう所作をいまなくしてるじゃない。そういうのは大事だよ。そこらへん気を付けないとデジカメから写真をはじめた人は腑抜けな写真しか撮れなくなるよ。腑抜けた写真ということは、腑抜けた人間になるということなんだ。ボリスさんは、その人間味、男味が素敵だね。いまの日本人が失っているものをもってる。江戸の日本人の心意気みたいなものを。あの頃は日本の人間が一番素敵な時代だった。
ボリス●その頃に生きていなくて残念です。
荒木●ボリスさんの写真はどれもおもしろいけど、撮りながら自分自身もチャカしてるところがいい。お茶目な写真だね。
ボリス●僕は荒木さんの最近の写真集を拝見しましたが、初期の作品の中に引っ掻き傷のある写真を見つけて嬉しくなりました。なぜなら僕も同じ手法をつかっていたから。
(といいながら、傍らから取り出した旧ソビエトの帽子を荒木氏にプレゼントするボリス氏)
これは荒木さんの写真を愛するすべてのソビエトの写真家からのプレゼントです。
荒木●(即座に被りながら)おお! ありがとうございます!!
大歓声のうちにトークショー閉幕。
(おわり)
トークショーを聞いて感じたこと(北村)
今回の荒木さんの彼岸花からヤモリへとつながる話を聞いて、僕はようやく荒木さんという写真家の一貫性が見えてきたような気がしました。しかもそれを本人の口から聞けたというところが大きかった。
ボリスさんについては、ラットホールギャラリーの今年一発目のイベントとして1月19日から展覧会を開催します。彼についても、これまで作品の一貫性がもうひとつ見えないところがあったのですが、今回の来日を機に話をしてみて作品同士のつながりが見えました。そこらあたりの話については、次回以降詳しくお話していきたいと思いますので、お楽しみに。(北村信彦)
『LOVE by Leica』サイン入り写真集3名にプレゼント!
北村信彦さんのご厚意により、オウプナーズ読者に荒木経惟氏直筆サイン入り写真集『LOVE by Leica』を3名様にプレゼントいたします。ご希望の方は、openersトップページ下にある「ご意見ご要望はこちらへ」より、返信アドレスと「写真集希望」ならびにサイトに対するご意見ご要望をお書き添えの上ご応募ください。締切は1月31日(水曜)まで。抽選により、当選者には登録アドレスの方にご連絡いたします。どしどしご応募ください。(オウプナーズ編集室)