錯誤の経済学
「錯誤の経済学」に関する記事
第1章 “異質な国アメリカ”を改めて知る(第1回)
第1章 “異質な国アメリカ”を改めて知る(第1回)文=今 静行─米国の本質を知らなすぎる日本──伝統はないが因習もない大国─知っているようで知らない例は枚挙にいとまがないですが、代表的な例はアメリカについてです。「アメリカの閣僚には一人も国会議員がいないことに、あなたは気づいていますか?」と問いかけられたら何と答えますか。じつはアメリカには衆参両院と同じように上・下両院がありますが、憲法で現職議員は大臣(閣僚)になれないように規定されています。日本とは本質的に異なる国なのです。アメリカを見極めるための不変のベーシックな知識が必要となります。アメリカは伝統もありませんが、因習もない国です。このことがバイタリティの源泉となっています。アメリカは多民族による歴史の浅い移民国家です。わずか230年の歴史しかない国なのですから、古代も中世もありません。西欧諸国や中国、日本のように古代・中世・近世・現代とたどってきた国とは、本質的に異なります。このような若い国では、強さ(腕力と言い換えてもいい...
第1章 “異質な国アメリカ”を改めて知る(第2回)
第1章 “異質な国アメリカ”を改めて知る(第2回)文=今 静行─政治が経済をダイレクトに動かす国─アメリカを論ずる場合、大統領がどれほどの決定権を持っているのかを抜きにしては語れません。政治、経済、外交、軍事、社会保障などすべてについて、大統領は決定的なかかわりをもっています。小泉純一郎前首相は「政治と経済は別なもの」と声高に述べましたが、そのような見方自体がある意味では日本的な間違った見方にすぎないのです。政府の長である大統領の決定が、政治はいうに及ばず、経済、社会生活などにどれほど影響を与えるかは、たとえば歴代大統領の政策によって、アメリカ経済の成長が著しく左右されてきたことからも容易にうかがえます。日本のように議院内閣制の国で、しかも自民党による一党政治が戦後長く続いている日本人にはなかなか理解しにくいことです。だからこそアメリカの「大統領君主制」ともいうべき政治システムをしっかり知っておくことが大切になります。それでは本論に入りましょう。なぜアメリカの大統領は経済政策を含め...
第1章 “異質な国アメリカ”を改めて知る(第3回)
“異質な国アメリカ”を改めて知る(第3回)文=今 静行─独裁者排除の政治システム─大統領3選禁止は、長期にわたる権力保持による、危険性の排除を目的にしたものといえます。専制、独裁への不信を徹底的に制度化したものにほかなりません。アメリカの政治体制ほど、権力に対する抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)というメカニズムが働いている国は他に見ることができません。ただ、このなかにあって大統領の権限の強大化は目を見張るものがあります。アメリカの合衆国憲法は、1787年夏、フィラデルフィアの憲法制定会議で制定され、翌々年の1789年3月4日に発動しました。この憲法は、疑いもなくその時代の産物であり、18世紀的なものでした。しかし、この7000語程度にまとめられた憲法という18世紀的文書が、部分改変はしばしばあるものの、今日まで230年経ても、なお活力を持ち続けているのです。イギリス人が成文憲法を持っていないことを誇りとしているのと同じように、アメリカ人は世界で最も古い成文憲法を持っているこ...
第1章 “異質な国アメリカ”を改めて知る(第4回)
“異質な国アメリカ”を改めて知る(第4回)文=今 静行─任期中は思い切ったことができる大統領─(1)なぜ、アメリカの大統領の任期は2期限りなのか(1期の任期は4年。3選禁止)(2)なぜ、アメリカの閣僚は議席をもたない(現職議員は大臣になれない)ように規定されてるのか(3)なぜ、アメリカの政党には党首がいないのかこの3つの疑問を解く手がかりは、アメリカが、日本やイギリスのような議院内閣制でなく、大統領制だということを知ることによってのみ可能となります。これが、アメリカの政治経済構造を知るうえで最も大切な面です。ご存じのように議院内閣制は、議会の信任によって内閣が形成され、議会に責任を負い、議会の不信任によって総辞職します。イギリスで発達した議会政治の原則です。議会政治を成立させている国は、政党政治という立場をとります。だからイギリスのような二大政党の場合には、次の選挙で反対党の党首が首相に就任することもあるので、事前に閣僚となる者の人選をあらかじめ決めておくことが多いのです。これに対...
第2章 市場は地上最大の心理学実験室
第2章 市場は地上最大の心理学実験室文=今 静行─市場を形成させるのは「心」の動き──「経済的要因」と「非経済的要員(心理的要因)」を足して2で割る習性を─自然科学の分野では、何事も理論的に解明できます。たとえば人工衛星を打ち上げた場合、順調に進めば軌道に乗りますし、軌道を外れたときは、その欠陥理由がはっきり解明できます。つまり、計算どおりに事が運び、計算が間違っていれば間違った答えがはっきり出ます。しかし、社会科学の分野では様相が違います。理論どおりにいかないのが当たり前となっているのです。その決定的理由は、心理的要因がからんでいるからです。「心」のすべてを科学的に分析し、つかむことはできません。外国為替相場とか株式市場は、その最たるものです。アメリカの著名なアナリストであり学者でもある専門家が「株式市場は、地球最大の心理学実験室である」と述べています。これはたいへん説得力のある言葉です。「株価は先安感を懸念して大幅に下がった」などと報じられるのはその一例です。だから、株価の動き...
第3章 良質な「官」に期待
第3章 良質な「官」に期待文=今 静行─野放しにブレーキをかける役割が必要──信用第一の大手生損保会社の裏切り─「これからは速やかなる保険金のお支払いを確実に実行します」─国内最大手のある火災保険会社のお詫びの新聞広告です。コトの重大さにあわてふためいている様子がよくわかります。信用が唯一の売り物の保険会社だけに信じられないことです。この手の不祥事が約30社にのぼっているのです。空恐ろしい気がします。かれこれ17、8年前のことです。私(筆者)の親しい友人で大手証券会社の役員が「大蔵省(現在の財務省)は監督指導ということでうるさいくらい口を出してくる。自由にやらせてくれればいいのに……」と不満を述べました。少し間をおいて「もっとも監督官庁が何もしなければ銀行や証券会社は何をしでかすか分からない面があることも事実ですね」とやや自嘲気味に話してくれました。今でも強く印象に残っています。じつは、最近金融庁は毎週のように生損保会社や銀行の不法行為をびしびし摘発し、営業停止など厳罰主義でのぞん...
第4章 無年金は家族全体の最重要問題
第4章 無年金は家族全体の最重要問題文=今 静行─ファミリーを苦しめないために──税金の援助、恩恵を放棄していいのか?“もったいない”─「自分が将来、無年金者になったらどうなるか」─真剣に考えてみたことがありますか。何はともあれ筆者の親しい知人で無年金者の実態について記してみましょう。結論を先に言いますと、無年金者は本人たち夫婦だけの問題ではなく、息子夫婦や孫たちにも毎日切ない思いをさせていることをしっかり知ってほしいのです。無年金の知人夫婦の場合、奥さんは長い闘病生活の末、73歳でガンで亡くなりました。80歳近くのご主人は今寝たきりの入院生活を続けています。若い頃は幾つも職を変え、エネルギッシュな方でした。老後の年金については全く無関心でした。それなりの資産のあるリタイアならまだしも、実態は資産ゼロに近い形で老後を迎え、病気がちの日々になりました。私たちの身近によく見られる例です。自らの責任、判断で無年金の道を選んだのですが、サラリーマンの子供たちの生活には一気に重圧がかかってき...
第5章 厳冬を迎えた消費者金融の実態
第5章 厳冬を迎えた消費者金融の実態文=今 静行─サラ金に群がる銀行・生保と天下り役人──空恐ろしい「命が担保」─いま消費者金融会社は、かつてない激しい非難を浴びています。非難というより各界各層から一斉に集中砲火を浴びていると形容したほうがより適切かも知れません。消費者金融つまりサラ金は、もともと高金利で取り立ての厳しさで知られています。ここへきて「命を担保」にした生命保険契約のからくりが一気に表面化しました。短期で少額の借金に、消費者金融会社が保険料を立て替えて払い、借り手が死亡した時に、借金を保険金で回収するという仕組みです。要するに“死んで借金を払え”ということです。実際、激しい取り立てに耐えられなくなった多重債務者が自殺に追い込まれた例がかなり出ております。空恐ろしい思いがします。もともと消費者金融は、庶民が急を要するおカネが必要な場合、小口金融を求める場としてスタートしたものです。20〜29%という高金利で貸し出すのですから、利益が膨らみ、消費者金融会社が巨大化し、相次い...
第6章 貯蓄率マイナスになったアメリカと、他人事でない日本の事情
第6章 貯蓄率マイナスになったアメリカと、他人事でない日本の事情文=今 静行─なぜ国の浮沈にかかわる要因なのか──日米の国情の違いを知る─“貯蓄無しで借金あり”の生活を思い浮かべてほしい。誰もが不安いっぱいでゾッとするでしょう。じつは05年からアメリカの貯蓄率がマイナスになってしまいました。マイナスというのは貯蓄ゼロだけでなく借金が残っているという最悪の状態をいいます。マイナス転落は1929年10月の株価大暴落を契機に発生した未曾有の大不況以来の出来事です。正確には不況の最も深刻な1932~33年以来、70数年ぶりのことです。これは極めて重要なことです。一口に言えば、よく言われているように「過剰消費」の定着です。ひとつの具体例を挙げてみましょう。アメリカは住宅の含み益、つまり借り入れ残高より住宅価値があることを担保に、安易におカネを借りることができ、それが当たり前のことになっています。またローン支払い中の住宅を担保にして金融機関は競って融資をします。つまりホームエクイティローン(住...
第7章 改めて知る“経済ってなんだろう”
第7章 改めて知る“経済ってなんだろう” 文=今 静行─「家計」が経済の出発点──心すべき福沢諭吉のことば─「詩を作るより田を作れ」という昔の言葉があります。風流にふけるのはあとまわしにして、私たちの暮らしはまず衣食住を整えることから出発せよという意味です。本当は田を作り、詩も作る生活が最も望ましいことであるのは言うまでもありませんが、もし仮にどちらを優先させるべきかということになると、多くの人たちは「まず収入を得て、衣食住を充実させ健全な家計づくりに励む」と答えるでしょう。経済は、田で食物を作り、収穫し、収入を得、衣食住(消費)を整えるといった毎日の生活に関するものであり、非常に身近なものです。経済の語源は「家の管理」ここで、経済という言葉の意味するものを少し考えてみましょう。よく知っていると思いますが、「経済」を英語では「エコノミー(economy)」といいます。エコノミーはもともと「無駄のない。理にかなった営み」という意味を持っています。雑学用語に出てくるエコノミーは「天の配...
第8章 生活を狂わす「錯誤」の恐さ
第8章 生活を狂わす「錯誤」の恐さ文=今 静行─気づいてほしい錯覚と誤解からの脱却──どんな時でも素朴な疑問を持つこと─私たちの身の回りに錯覚と誤解つまり「錯誤」が多すぎると思います。無知のせいだと一口に決めつけたいところですが、そうとばかり言い切れない面もあります。意識して私たちを錯誤に陥れようとする大きな力の動きがあることを見逃すわけにはいきません。大きな力とは国家権力を指します。いま起きている二、三の身近な例を取り上げてみましょう。心して読んでほしいと思います。イラク問題です。現在、米英日本などイラクに30を超える国々が治安維持、復興支援などを理由に派兵しています。日本政府は声を大にして「日本が自衛隊を送って協力するのは世界の大勢であり当然だ」とアピールし続けています。鵜呑みにしていいのでしょうか。じつは国連加盟国は191カ国(04年3月現在)です。イラクに軍隊を送り出している国は国連加盟国全体の2割にも満たないのです。ドイツ、フランス、ロシア、中国など世界の政治経済に大きな...
第9章 「平均の原則」的思考の落とし穴
第9章 「平均の原則」的思考の落とし穴文=今 静行─一知半解による大失敗に直結──どんな時代でもやる気、意欲が決め手─明治時代にこういう話があります。数学を学んでいた一人の若い数学者がいました。彼は、ある日小舟で河を渡らなければならない用事ができましたが、そのときフッと数学でいう「平均の原則」を思い出しました。両岸の深さと最深部の水深を船頭にはかってもらい、平均値を出したところ、自分の身長からいって十分徒歩で渡れると判断。帰りの船賃を節約するため河を歩いていったところ、水中に消えてしまったという話です。これは一知半解がもたらした大失敗のたとえ話であり、小賢しさを強く戒めた一つの訓話です。身近な例をもう一つ挙げておきましょう。いまここに100人がいるとして、99人が貯金ゼロの貧しい人たちですが、たった一人が1億円の貯金を持っていたら、100人の一人当たりの平均貯蓄額は100万円になります。この数字をベースにしてビジネスを展開したら間違いなく大失敗につながります。このような教訓的事例を...
第10章 グレイな今年の暮らし向き(その1)
第10章 グレイな今年の暮らし向き(その1)文=今 静行──“今ぐらいの状態なら御の字”の理由──新しい年度を迎え、誰もが今年度の暮らし向きを気にするものです。いきなり厳しい表現になりますが、一口で言うならば次のようになります。「07年度は私たちの暮らしにとって、値上げして品質やサービスを落とすという踏んだり蹴ったりの経済を実感する年になるだろう」。どうしてでしょうか。第一の理由をあげます。日本経済について政府サイドは過去最長のいざなぎ景気を上回る好調がつづいていると、ことあるごとに声を大きくしてPRしています。私たちの実感としては格差が拡がり、給与もボーナスも増えないし、それに増税が押し寄せてきていると厳しく受け止めています。確かに大企業は徹底したリストラのあとも正社員を増やさず、コストの安いアルバイトや派遣社員を雇っています。人件費が大幅に減っています。一方で、下請け企業を締め上げ、設備投資を極力抑え、節約にも努めています。利益が出るのは当たり前です。このように利益を出している...
第10章 グレイな今年の暮らし向き(その2)
第10章 グレイな今年の暮らし向き(その2)文=今 静行─過去の延長線上の好況と全く異質ないまの景気─日本が高度成長を続けていたときは、大企業が潤うと下請けも孫請けも潤う時代でした。より平易にいえば、社長が潤えば社員もその家族もともに潤いました。いまは全く異なり、大企業が中小下請けを締め上げて、利益を出しているのです。07年の経済は、あまり多くを期待できないと受け止めるべきでしょう。もう一つつけ加えると、大都市と地方の経済格差が際立っている点です。それでは視点を生活面に当ててみることにしましょう。社会保険や税金など間違いなく負担が増えてきます。赤字財政を少しでもプラスにしようという政策が弱者いじめに集中していきます。市民は早く気がつかなければいけないと思います。定率減税も廃止、医療制度、介護保険制度もそうですし、高齢者、病人、介護保険受給者、生活保護受給者など経済的に弱い立場にある人たちの負担が疑いもなく多くなっていきます。したがって景気を左右する消費支出も思うほど増えない、スロー...
第11章 アメリカの憂鬱と複雑な思い
第11章 アメリカの憂鬱と複雑な思い文=今 静行──先進国でアメリカだけが人口増大、なぜか?──アメリカの人口は昨年(06年)秋、初めて3億人を突破しました。2億人を超えたのが1967年なので39年かかっていることになります。西欧諸国、日本などの先進国では人口の減少傾向が続いており、少子化が最大関心事になっています。もっともフランスのように微増という国もありますが、あくまでも例外的流れと言い切れます。人口が増加すれば経済成長をもたらす、つまり経済という輪がひろがり消費や労働力を生み出し、活力ある社会をつくり出すことができます。若い世代の拡大は、高齢化社会では社会保障費負担に大きく貢献してくれます。心強い限りです。経済活性化の原動力そのものです。どうして先進国の中でアメリカだけが飛び抜けて人口が増えているのでしょうか。アメリカの特異な事情があることをよく知る必要があります。じつは移民の激増によってアメリカ全体の人口を増やしているのです。1967年以降に増えた1億人の過半数は、移民とそ...