第6章 貯蓄率マイナスになったアメリカと、他人事でない日本の事情
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2015年5月7日

第6章 貯蓄率マイナスになったアメリカと、他人事でない日本の事情

第6章 貯蓄率マイナスになったアメリカと、
他人事でない日本の事情

文=今 静行

─なぜ国の浮沈にかかわる要因なのか─
─日米の国情の違いを知る─

“貯蓄無しで借金あり”の生活を思い浮かべてほしい。誰もが不安いっぱいでゾッとするでしょう。
じつは05年からアメリカの貯蓄率がマイナスになってしまいました。マイナスというのは貯蓄ゼロだけでなく借金が残っているという最悪の状態をいいます。

マイナス転落は1929年10月の株価大暴落を契機に発生した未曾有の大不況以来の出来事です。正確には不況の最も深刻な1932~33年以来、70数年ぶりのことです。
これは極めて重要なことです。一口に言えば、よく言われているように「過剰消費」の定着です。

ひとつの具体例を挙げてみましょう。アメリカは住宅の含み益、つまり借り入れ残高より住宅価値があることを担保に、安易におカネを借りることができ、それが当たり前のことになっています。またローン支払い中の住宅を担保にして金融機関は競って融資をします。つまりホームエクイティローン(住宅の含みを担保にした借り入れ)が膨らみ、個人消費を押し上げてきました。日本とはかなり状況が違います。

米連邦準備制度理事会(日本の日銀にあたる)の最近の調査では、家計が住宅を担保に引き出したおカネの総額は、2004年で約6千億ドルで、日本円に換算してざっと70兆円にのぼる巨額です。要するに借金をして消費するという典型的な図式です。これがアメリカ経済の波乱要因になっています。

前後しますが、復習を兼ねて貯蓄率の意味を簡潔に説明しておくと、可処分所得(手取り収入)に占める貯蓄の割合です。
サラリーマン世帯を例にとれば、勤め先収入から所得税、住民税などの税金と年金、健康保険料を差し引かれた残りが可処分所得です。

第6章 貯蓄率マイナスになったアメリカと、<br>他人事でない日本の事情

この手取り収入から食費、教育費、住居費などを支出し、残りが貯蓄になります。つまり貯蓄率(黒字率)は貯蓄額を可処分所得で割った数字(%)です。

ここでしっかり知ってほしいのは、貯蓄率がゼロとかマイナスになることは、国の経済の浮沈にかかわるような影響力を持つという点です。家計の貯金は銀行や郵便局に預けます。銀行はその資金(貯金)を企業向けの設備投資や個人の住宅ローンや財政赤字を賄うために政府に貸し出します。

その資金である貯蓄がゼロとかマイナスになったら大変なことになるのは説明するまでもないでしょう。アメリカの貯蓄率が戦後一番高かったのは1980年代の平均9.0%台でした。そのあとどんどん低下し続けました。

日本はどうかといいますと、内閣府でまとめた04年時点では2.8%と55年振りの低水準を記録しました。1980年代は20%前後の高貯蓄率を誇っていた日本ですが、まさに様変わりです。低下の要因はいろいろありますが、やはり長期に及んだ景気の低迷と高齢化社会の到来に集約できます。

最後にぜひつけ加えておかなければならないのは、アメリカは貯蓄率マイナス0.4%(04年1~11月)にもかかわらず政治・経済両面で世界の頂点に立っていられるのはそれなりの理由があります。

世界一の工業・技術大国、資源大国であり、農業大国で、世界最大の軍事大国です。だから米ドルが世界の基軸通貨として君臨しているのです。米ドルは世界中で必要な品物をなんでも購入でき、地の果てを旅しても使用できるのです。それはアメリカの信認そのものを意味します。
アメリカは貿易収支を中心にした経常収支も財政も大赤字の国です。にもかかわらず海外からおカネがどんどん入ってくるのは、まだ安心で信用できる国として諸外国が認めているからなのです。

たとえば高利回りのアメリカの国債をいまも各国は競って買い求めているのです。つい最近、米財務省は三十年国債の入札を実施しましたが、総額140億ドル(約1兆6500億円)の巨額です。その発行額の2.05倍となる応札がありました。イラクやアフガニスタンの戦費に使われるおカネ(国債)です。
見るべき資源の無い日本とは全く異なる国アメリカなのです。貯蓄率は家計にとっても国家にとっても最重要なことを心してほしいと思います。

※1人当たりGDP、世界14位に後退=貯蓄率は過去最低-05年度国民経済計算

内閣府は12日、日本経済の決算に相当する2005年度国民経済計算を発表した。ドル換算した国民1人当たりの名目GDP(国内総生産)を世界各国と比較すると、成長率が相対的に低かったことやユーロ高の影響により、04年の11位から14位に後退した。

GDP総額は米国に次ぐ第2位を維持したが、1人当たりの比較ではフィンランドやオーストリアなどに抜かれた。両国はユーロを採用しており、ユーロ高がドル換算のGDPをかさ上げした形。

家計の所得から税金や社会保障費を引いた可処分所得は、04年度比0.7%増の290兆3000億円。一方で所得に占める貯蓄の割合を示す貯蓄率は、8年連続低下の3.1%と過去最低を更新した。所得の増加や株価上昇に伴って消費が伸びた上、定年を迎えて貯蓄を取り崩す人が増えたためとみられる。(2007.1.12)

           
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