第1章 “異質な国アメリカ”を改めて知る(第1回)
第1章 “異質な国アメリカ”を改めて知る(第1回)
文=今 静行
─米国の本質を知らなすぎる日本─
─伝統はないが因習もない大国─
知っているようで知らない例は枚挙にいとまがないですが、代表的な例はアメリカについてです。
「アメリカの閣僚には一人も国会議員がいないことに、あなたは気づいていますか?」と問いかけられたら何と答えますか。じつはアメリカには衆参両院と同じように上・下両院がありますが、憲法で現職議員は大臣(閣僚)になれないように規定されています。
日本とは本質的に異なる国なのです。アメリカを見極めるための不変のベーシックな知識が必要となります。アメリカは伝統もありませんが、因習もない国です。このことがバイタリティの源泉となっています。アメリカは多民族による歴史の浅い移民国家です。わずか230年の歴史しかない国なのですから、古代も中世もありません。西欧諸国や中国、日本のように古代・中世・近世・現代とたどってきた国とは、本質的に異なります。
このような若い国では、強さ(腕力と言い換えてもいい)と資力(マネー)が、生きるための決め手となりすべてに優先します。確かにアメリカは、並はずれて戦闘的で自己防衛的な意識の強い国と言い切れます。内に対しても外に対してもです。
アメリカは利潤追求至上主義一点張りなど病んでいる部分もありますが、アメリカに代わる大国がないことも事実です。好むと好まざるとにかかわらず、アメリカは世界最大の資源国、農業国、技術工業大国そして軍事大国です。これからも長く自由世界の頂点に立っていくことでしょう。
具体的に展開してみましょう。
よく出される例ですが、アメリカの国土は日本の約26倍の広大さです。その広い地に日本の人口(1億2700万人)の2.3倍にすぎない人口約3億人が住んでいるのです。ゆったり生活できる国というイメージがぴったりです。その広大な国土に、数多くの資源、エネルギーがあり、また工業製品や農畜産物の生産が行われているのです。
資源、エネルギーについていえば、アメリカは工業原料の7割、石油エネルギーの5~6割を自給しています。石油については、アメリカ国民がその気になれば、7、8割の自給も可能です。最悪の場合、ふんだんにある石炭、天然ガスなどをフルに活用すれば、ほぼ完全な自給自足も期待できます。
日本のように石油自給率ゼロ、工業原料の90%を輸入に依存している無資源国とは雲泥の差です。当然のことながら日本の場合、原材料や石油の巨額な輸入代金を外国に支払わなければなりません。
ところがアメリカでは事情が違います。アメリカの企業も消費者も、原材料やエネルギーの大部分を国内の業者から購入しています。
日本のように巨額な購入代金を外国に支払うのではありませんから、それらのおカネの大部分は、だいたいアメリカ国内に循環することになります。日本のように外貨を海外に持っていかれることがありません。外貨の喪失がないのがアメリカの強みであり、購入代金のほとんどを外国へ支払うのが日本の弱みです。
食糧の自給率を見ても日本はやや好転したといわれながら40%なのに対し、アメリカの食料自給率は120~130%です。その強さはあれこれ説明するまでもないでしょう。
工業部門でも、航空機、自動車、コンピュータ、ハイテク製品などは、依然として世界のトップクラスにランクされています。なかでも航空機産業はアメリカが伝統的に世界市場のリーダーとして君臨しています。
長期的には不安材料が出てきていることも事実ですが、工業技術大国であることは否定しようもありません。
(続く)