
クリス・フレッチャーさんとJack Daniel’s 10Years Old
LOUNGE /
EAT
2025年6月13日
これぞアメリカンスピリット! ジャックダニエルから10年熟成の「Jack Daniel’s 10Years Old」が日本上陸
Jack Daniel’s|ジャックダニエル
テネシーウイスキーの代名詞「ジャックダニエル」が『Jack Daniel’s 10Years Old』を100年以上ぶりに復刻し、日本でも2025年8月からオーセンティックバーなどの一部料飲店にて、数量限定で展開を開始する。これにあわせて来日したマスターディスティラー クリス・フレッチャーさんに話を聞いた。
Text by SUZUKI Fumihiko
アメリカの変わらない美味しいもの
100年前のコカ・コーラと現在のコカ・コーラはおそらく相当似たもので、100年後にもコカ・コーラはいまとほとんど同じものとしてあるだろう。そして100年後も、たくさんの人が、このコカ・コーラが美味しいとおもうはずだ、と私は思い込んでいる。これは多分、あのチョコレートバーにもあのタバコにもあのワインにも言えて、アメリカの美味しいものはいつも変わらず、いつも美味しい。いや、実際は、少しずつは変わっているのかもしれない。しかしその変化は漸進的で、変化したと気づかない。
私にとってジャックダニエルは、そういうアメリカの変わらない美味しいウイスキーだ。
そして、ジャックダニエルの現マスターディスティラー クリス・フレッチャーさんが来日した際、はじめて会話したところ、どうも私のイメージはそれほど間違ったものではなかったようだ。
クリス・フレッチャーさん来日の目的は、いよいよ今年8月頃から数量限定で、日本の一部オーセンティックバーで提供されるという『Jack Daniel’s 10 Years Old』を紹介すること。
この人物は、ジャックダニエルの8代目マスターディスティラーであり、5代目マスターディスティラー フランク・ボボの孫。人口わずか600人の町、リンチバーグに生まれ、代々、受け継がれてきた蒸溜所で働いている。映画館もショッピングモールもない、信号は1個しかない町だそうだ。だから、幼少の頃からジャックダニエル蒸溜所が遊び場だったと誇らしそうに言う。
新しい復刻ウイスキー
え? ジャックダニエルってウイスキーでしょ? 10年ってこれまでなかったの? とおもったあなた、半分正解で半分不正解。このウイスキーは新商品だけれど復刻商品でもある。
ジャックダニエルのもっともベーシックで、おそらくもっとも有名なウイスキーは『Old No.7』。この7が何の7なのかが不明なことでも知られるこちらは、これのコーラ割りをモーターヘッドのレミー・キルミスターが愛飲していたり、ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュが大ファンだったりと、ロック界にファンが多いことでも有名だ。そして、ロックではないかもしれないけれど、音楽とジャックダニエルで言えば、かのフランク・シナトラがジャックダニエルのボトルとともに埋葬されたというほどの大ファン。フランク・シナトラ生誕100周年記念の『シナトラセレクト』というウイスキーをジャックダニエルは造っている。
それはそれとしてこのOld No.7はコーン80%、モルト12%、ライ麦8%を使うテネシーウイスキー。発酵、蒸溜後にサトウカエデの炭でろ過してから新樽に入れ、動かさずに4から8年程度熟成する、という造り方は遅くとも1938年から変わっていない。
1866年創業のジャックダニエルでなんで1938年からなのかというと、これはジャックダニエル蒸溜所があるテネシー州ムーア郡での蒸溜酒製造禁止が解除されたのが1938年だから。樽詰め前に原酒(ニューメイク)をサトウカエデの炭でろ過する、テネシーならではの造り方は、創業者ジャック・ダニエル(生年は諸説あるが1846-1911年)時代から変わっていないし、ケーヴ・スプリングと呼ばれる蒸溜所内に湧く地下水を使うのも、遅くともジャックダニエル蒸溜所が現在の場所に設立された1880年から変わっていない。
Jack Daniel’s 10 Years OldはこのOld No.7の10年熟成モノ、と考えてほぼ合っている。違いは、樽の置き場所を、最初の7-8年はバレルハウス(樽を貯蔵する建物)の上階、残りの2-3年は低層階と変化させて、樽からのスピリットの揮発をコントロールしているくらいだ。
Old No.7とは全然ちがうそのまま楽しみたいウイスキー
という話を聞かずに味わえば、Old No.7と10 Years Oldは全然違うウイスキーだとおもうはずだ。
コーンを主体とするグレーンウイスキーながら、サトウカエデの炭でろ過する製法は、コーンっぽさがなくなり、むしろフルーティー。液体はとろりとまろやかで、ぎゅっと凝縮感がある。
Old No.7はまさに、このジャックダニエルのエッセンス。スイートに始まり、ソフトに続き、最後にちょっとスパイスがある。
一方、10 Years Oldは、グラスから立ち上る香りの時点でもう、ちがう。樽の影響なのだろうか? サンダルウッドのような爽やかな香木的な香りがあるのだ。これだけで、しばらくうっとりできる。味わいは、Old No.7よりもよりまろやかで、甘いニュアンスもさらにリッチ。ややツンとしたタンニンも感じられるし、全体にわずかに旨味のある塩味のニュアンスも感じられる。これは美味しい。
ただ、じゃあOld No.7よりも10 Years Oldのほうが良いウイスキーなのか? と問われれば、ウイスキー単体で評価するならYESだ。しかし、食事と合わせたり、カクテルにしたりするのであれば、圧倒的に懐が深いのはOld No.7だろう。
これは、3,000円付近のワインは合う食べ物が多く、1万円を超えるような高級ワインには合う合わないがハッキリあるのと同じような話だとおもう。10 Years Oldはそのままに近い状態で、ゆっくり向き合うのに向いたウイスキーなんじゃないだろうか。
信じる道を行け
さてそれで、10 Years Oldというこの新しいジャックダニエルのウイスキーは、実は、ジャック・ダニエル時代のジャックダニエルには存在していた10年、12年、14年という長期熟成シリーズの100年以上ぶりの復活作なのだという。
そのあたりから、造り手であるクリス・フレッチャーさんにたずねてみる。果たして10 Years Oldは伝統的なジャックダニエルなのか? それとも新しいジャックダニエルなのか?
「両方ですね」
ほほう。では、なぜいま100年以上の沈黙を破って10年熟成のウイスキーを復活させたのか?
「復活させたらダメですかね?」
いやダメってわけじゃないんでしょうが……
「バレルハウスにはもちろん、長年熟成させているウイスキー樽も以前からあるんです。それらを試しているうちに、これは10年を商品としてもやっていけるなとおもったのが最近、ということですかね」
それは10 Years Oldが時代的に受け入れられそうだ、というような意味で?
「?」
いやつまり、ジャックダニエルのブランドバリューを高めるとか、お客さんの世代の変化や好みの変化に合っているであろうとか、あるいは単に、10年熟成のウイスキーというある種のわかりやすさが好まれそうだという考え方があるとか?
「ああ! そういう話か! 私はウイスキーを造る人でマーケティングの人じゃないですから」
とはいえ、造るにあたっては、これをこんなお客さんに飲んでもらいたい、みたいなイメージはあるのではないですか?
「私は、いや、これは私たちはと言ったほうがいいな、お客さんに合わせてウイスキーを変えるようなことはしません。自分たちが納得できるウイスキーを造る。それだけ考えればいい。そういうウイスキーは愛されるんです」
とフレッチャーさんは言い切った。 カッコいい! これぞ私の求めていたアメリカの職人の姿だ。とおもっていたら、最後に……
「May be」
これさえなければ完璧だった!
何度も言っているけれど、Jack Daniel’s 10Years Oldの日本展開は限定的なものになるようだ。個人的にはこういうウイスキーは自宅において、のんびり楽しみたいのだけれど、いずれにしてもゆっくりと時の流れを楽しむのが似合っているとおもう。
問い合わせ先
ジャックダニエル
https://www.jackdaniels.com/