東京浪漫酒場

角田陽太|東京浪漫酒場|第九回 たぐい食堂

角田陽太|東京浪漫酒場|第九回 たぐい食堂

デザイナー・角田陽太の酩酊銘店案内東京浪漫酒場 第九回 大森町「たぐい食堂」東京の酒場をデザイナー・角田陽太が案内する連載「東京浪漫酒場」。第九回は大森町「たぐい食堂」を訪ねる。昨夏開店したばかり、比較的新しい今回の銘店は、蒲田からほど近い大森町駅から北に3分ほど歩いたところにある。Photographs by SHIRAISHI KazuhiroText by KAKUDA Yota懐かしさを覚える小さな食堂「たぐい食堂」は、大森ロッヂというエリアの一角に位置する。店が入る建物は、「たぐい食堂」の店主の奥さんが働く建築事務所の設計で、2015年のグッドデザイン賞を受賞している。扉を開けるとカウンター2席、テーブル8席のこじんまりとした空間が広がる。しかしながら天井の高さが店内に圧迫感を感じさせず、無垢の木の質感があたたかい雰囲気をつくっていて、女性にもうけそうなデザインの店だ。まずは赤星の中瓶(サッポロラガービール)をいただきながら、ぬかづけ、小あじの南蛮漬け、卵黄醤油漬けの漬物...
角田陽太|「東京浪漫酒場」|第五回 代田橋「しゃけ小島」

角田陽太|「東京浪漫酒場」|第五回 代田橋「しゃけ小島」

ワーキングデスクが隣りだった元クラスメイト同士の話が盛り上がる第五回 代田橋「しゃけ小島」ロンドンから訪ねてきていた友人を京成立石に連れて呑みに行き、そのまま西へ。京王線の代田橋駅から甲州街道を越え徒歩5分、沖縄タウン内に北海道産しゃけの銘店がある。今年で5周年、意外にも筆者がその1年目に店員としてときどきカウンターに立っていた店でもある。Text by KAKUDA YotaPhotographs by YAMADA Kazunobu 今宵3軒目の1杯目は、筆者地元産の「日高見」元市場だったアーケードをくぐっていくと森本千絵さんが手がけた看板が見えてくる。引き戸をガラガラっと開けると昭和時代の家具がならぶ空間が広がる。カウンター7席、テーブル席14席。この奥行き60cmの広いカウンターはゆったりできて、ついつい長居してしまうのだ。日本酒が充実していて、店主の出身地の会津や東北のお酒を中心に、全国から良い銘柄が揃う。前述のように、今宵3軒目ということもあり、1杯目から筆者の地元産の...
角田陽太|「東京浪漫酒場」|第六回 国立「カラスの家」

角田陽太|「東京浪漫酒場」|第六回 国立「カラスの家」

良いオーディオに囲まれながらゆっくり電気ブランのグラスを傾ける第六回 国立「カラスの家」国立駅を南に出て富士見通りをしばらく行くと国立音大付属高の近くにそのお店がある。駅からはかなり遠い。Technicsのサイン、提灯、複数の看板などかなり怪しい外観をしている。“カラオケ飲み屋”と称しているこのお店、だからなのか店名は伝説のソプラノ歌手、マリア・カラスに由来する。Photographs by SHIRAISHI KazuhiroText by KAKUDA Yota国立の奥深くあるディープゾーンカラスの家はインテリアが凄い。統一感がまったくないごちゃごちゃしたモノたちで溢れかえり、それが不思議と一つの雰囲気を作り上げている。店を入るとそこにはその独特の空間が広がる。まるで小宇宙、通常の生活とはかけ離れた感覚になる。店奥のスペースはクラシックなベロアのソファと往年のスピーカーなどがならぶ。内装というかある意味“装い”をはるかに越えている。現在あまりアクティブではないが、昼間は「シーマ...
角田陽太|「東京浪漫酒場」|第七回 森下「山利喜」

角田陽太|「東京浪漫酒場」|第七回 森下「山利喜」

日本酒に洋食、洋酒に和食。いい意味で境界にこだわらないミックスを味わう第七回 森下「山利喜」東京・江東区森下 ― 墨田区との区境にその銘店はある。東京大空襲で焼失し中断したこともあるが、90年前に誕生した歴史ある店である。地下鉄の森下駅から東に少し歩くと本館、北に少し歩くと新館。今回は新館の方にお邪魔した。Text by KAKUDA Yota Photographs by YAMADA Kazunobu明るいうちから1階はほぼ満員豚が描かれているラブリーなのれんを目印に店に入ると、明るいうちから1階はほぼ満員。ちなみにのれんのキャラクターは焼きとんの部位をわかり易く説明したもので、二代目店主、山田要一さんのデザインだ。カウンターに座り厨房を眺めると、ベテランの職人たちが黙々と働く姿がとても素敵だ。焼場で使われているうちわは四角い形状で、横長のグリル部のみに風を送ることができる優れもの。冷酒から白ワイン、赤ワインへまずは冷酒とおぼろ豆腐、そして自家製のお新香でスタート。どれも吞ん兵...
角田陽太|「東京浪漫酒場」|第八回 恵比寿「さいき」

角田陽太|「東京浪漫酒場」|第八回 恵比寿「さいき」

東京の酒場をデザイナー・角田陽太が案内する連載第八回 恵比寿「さいき」東京の酒場をデザイナー・角田陽太が案内する連載。第八回の舞台は、恵比寿。東京・恵比寿駅西口から駒沢通りを渡り、銀行の脇をまっすぐ入っていったところに、銘店が見えてくる。近隣には「麻雀セブン」など、むかしの香りを残すお店が数店。今回紹介する「さいき」は、そのなかにあった。日本の木造戸建て建築に、暖簾がかかっている。Text by KAKUDA Yota Photographs by SHINTSUBO Kenshu外の光を美しく透かすガラスに感じる風情暖簾をくぐり、扉を開けると「おかえりなさい」と店員さんが迎えてくれる。1階はカウンター10席ほどとテーブル8席。無音の空間で会社帰りの人たちがゆっくり燗を飲んでいる。以前は店主家族の自宅だった2階へ、どこか懐かしい雰囲気を感じながら階段を上がると、家庭的な畳の部屋ふたつが襖で仕切られている。襖の補修は浮世絵柄の紙でおこなわれていた。また、通りに面している窓ガラスは現在...
角田陽太|「東京浪漫酒場」|第四回 中目黒「藤八」

角田陽太|「東京浪漫酒場」|第四回 中目黒「藤八」

安定感抜群の37年目の居酒屋。〆は、明太子うどんとのりうどん第四回 中目黒「藤八」中目黒駅から徒歩2分、目黒川を越えたところに「藤八」がある。常連客は場所柄なのか、その渋い店構えの大衆酒場にしては老若男女で外国人も多い。Text by KAKUDA YotaPhotographs by NAKAMICHI Atsushi常連客の楽しみは……暖簾をくぐると、まず35名ほどが座れるテーブル席とカウンター席のスペースがあり、その奥にはふたつの座敷がある。看板女将は毎日19時に丁寧にお客さんへ挨拶と世間話をしながら入店してくる。着席して話し込む場合も多く、常連客はそれを楽しみの一つとして来ている。ぜひ「ママ」に話しかけてみてほしい。まずは赤星(瓶ビール)を飲みながら、はんぺんとコロッケをいただく。前者の卵白によるフワフワとした食感がおもしろい。つづいて、藤八特製の腸詰は味噌の香り立つ一品で、ビールや日本酒、ワインにもよく合う。これは一夜に二度は頼んでしまう。魚料理は刺身や干物もおいしいが、...
EAT
角田陽太|東京の酒場を案内する新連載「東京浪漫酒場」第一回 三軒茶屋「久仁」

角田陽太|東京の酒場を案内する新連載「東京浪漫酒場」第一回 三軒茶屋「久仁」

東京の酒場をデザイン目線で語る第一回 三軒茶屋「久仁」「店の雰囲気をつくるのに重要な役割を果たしている備品にも注目して、うまい酒を飲み、店のたたずまいを楽しむ」――プロダクトデザイナーとして各界から注目される角田陽太氏の新連載は、単なる酒場紹介ではなく、ファサード、インテリア、椅子、テーブル、皿などにも目を届かせて、いかにその店がいい味を出しているかを、ライブ感ある写真とともに楽しむ。第一回は、三軒茶屋のもつ焼きの名店、「久仁(くに)」を訪れた。Text by KAKUDA YotaPhotographs by OTA Takumiうまいつまみに熱燗がすすむ。酒がすすむと話もすすむ三軒茶屋から茶沢通りを下北沢方面に10分ほど歩いていくと、その酒場がある。ライトグレーのファサードに店名が書かれていない無地の暖簾と小ぶりな赤提灯という、気づかずに通り過ぎてしまいそうな外観の店である。夕方5時の開店時間にはなぜかもう常連さんが12名も入っていて、地元にとても愛されている店だということがわ...
角田陽太|東京の酒場を案内する「東京浪漫酒場」第二回 学芸大学「Cignale Enoteca」

角田陽太|東京の酒場を案内する「東京浪漫酒場」第二回 学芸大学「Cignale Enoteca」

元おでん屋、カウンター6席というミニマムなイタリアン第二回 学芸大学「Cignale Enoteca」店の雰囲気をつくるのに重要な役割を果たしている備品にも注目して、うまい酒を飲み、店のたたずまいを楽しむ」──プロダクトデザイナー角田陽太氏の新連載「東京浪漫酒場」第二回は、学芸大学にあるイタリアン「Cignale Enoteca(チニャーレ・エノテカ)」。一回目の三軒茶屋「久仁(くに)」とはちがったおもむきと料理に注目したい。Text by KAKUDA YotaPhotographs by OTA Takumi白ワインと新鮮な牡蠣(カキ)とフォアグラからスタート東急東横線・学芸大学駅から歩いてほどなく、古い雑居ビルの1階にそのお店がある。シンプルな白い直方体にイタリック書体で描かれた看板はとても美しい。トスカーナ地方にありそうでもある。ここは、店舗を探していたオーナーシェフの東森俊二さんがたまたま隣りのお店に飲みに来ていたときにビルのオーナーを紹介してもらい、30分で決めたという...
角田陽太|東京の酒場を案内する「東京浪漫酒場」第三回 恵比寿「縄のれん」

角田陽太|東京の酒場を案内する「東京浪漫酒場」第三回 恵比寿「縄のれん」

改装まで残り1カ月半、この雰囲気を味わいたいひとは急げ!第三回 恵比寿「縄のれん」いかにも常連が多そうだが、いつも賑わっていて、皆幸せそうな顔をして酒を酌み交わしている──プロダクトデザイナー角田陽太氏が訪れるのは、「うまい酒が飲めて、店のたたずまいや備品まで楽しめる店」。連載三回は、もつ焼きの銘店といわれる恵比寿の「縄のれん」。さて、なにからいただきますか。Text by KAKUDA YotaPhotographs by YAMADA Kazunobu立ち飲みなのに長居してしまう銘店JR恵比寿駅西口から徒歩2分、駒沢通りを渡り、少し入ったところにその立ち飲み酒場がある。看板、提灯、そして店名の縄のれんもかなり年季がはいっている。残念ながら5月末を境目に建物取り壊しのために一時休業し、新店での再開は来年2月を予定している。テーブルとカウンター合わせて40人ほどの客が立てる店で、開店の1時間後には周辺のオフィスで働く人たちなどで賑わう。カウンターに面した電熱線の焼き場には串がならぶ...
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