角田陽太|「東京浪漫酒場」|第八回 恵比寿「さいき」
DESIGN / FEATURES
2015年10月16日

角田陽太|「東京浪漫酒場」|第八回 恵比寿「さいき」

東京の酒場をデザイナー・角田陽太が案内する連載

第八回 恵比寿「さいき」

東京の酒場をデザイナー・角田陽太が案内する連載。第八回の舞台は、恵比寿。東京・恵比寿駅西口から駒沢通りを渡り、銀行の脇をまっすぐ入っていったところに、銘店が見えてくる。近隣には「麻雀セブン」など、むかしの香りを残すお店が数店。今回紹介する「さいき」は、そのなかにあった。日本の木造戸建て建築に、暖簾がかかっている。

Text by KAKUDA Yota Photographs by SHINTSUBO Kenshu

外の光を美しく透かすガラスに感じる風情

角田陽太|さいき

暖簾をくぐり、扉を開けると「おかえりなさい」と店員さんが迎えてくれる。1階はカウンター10席ほどとテーブル8席。無音の空間で会社帰りの人たちがゆっくり燗を飲んでいる。

以前は店主家族の自宅だった2階へ、どこか懐かしい雰囲気を感じながら階段を上がると、家庭的な畳の部屋ふたつが襖で仕切られている。襖の補修は浮世絵柄の紙でおこなわれていた。

また、通りに面している窓ガラスは現在あまり目にすることがないすりガラスで、外の光を美しく透かす。むかしは機能として存在したものが、いまは風情として感じてしまうのだからおもしろい。

角田陽太|さいき

角田陽太|さいき

お通し3種類をいただく。これをあてにさらっと日本酒を飲んで帰る常連客も多いそうだ。そしてお酒は「一ノ蔵」の凍結酒がシャーベット状で提供され、飲んでいる最中に徐々に溶けてくることにより、いろいろな感触で味わえる。

美しいデザインの栓抜きと出会う

序盤は、〆さば、のどぐろなど魚をいただく。そのあとは燗とともに、豚バラ酒盗焼、串かつなど酒にぴったりの肉を中心に食した。終盤には「さいき」名物の海老しんじょを、青海苔塩でいただくのがこの店の呑み方だ。

角田陽太|さいき

店の雰囲気同様、いたるところに古き良きプロダクトを発見した。店員さんがフロアで瓶ビールを開けるときに使う鋳物の栓抜きは大きめで使いやすく、輪郭の曲線のつながりが美しい。

角田陽太|さいき

角田陽太|さいき

手洗い場のプラスチック製の蛇口ハンドルは、現代のそれとはちがい、高さがあるがゆえにホールド感もあるとても美しい造形物。ガラス窓の鍵も2本の指で使用するのに最低限かつ、優しいデザインだ。

角田陽太|さいき

まるで田舎の祖父母の家で飲んでいるような、どこか懐かしい感覚が味わえるこの店にぜひ通ってみてほしい。

さいき
東京都渋谷区恵比寿西1-7-12
Tel. 03-3461-3367
営業時間|17:00~23:30
土曜日・日曜日・祝日定休

角田陽太|KAKUDA Yota
デザイナー。仙台生まれ。2003年渡英し、さまざまな事務所で経験を積む。2007年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)を修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年、YOTA KAKUDA DESIGNを設立。
http://www.yotakakuda.com/

新津保建秀|SHINTSUBO Kenshu
写真家。東京生まれ。著書:『\風景』(角川書店)、『Rugged Time Scape』(FOIL)、関連書籍:『建築と写真の現在』(TNプローブ)、『MTMDF』(HAKUHODO DESIGN)など。
http://www.kenshu-shintsubo.com/

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