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2025年7月17日
湯けむりと絶景と美食に包まれる——ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ
ANA Intercontinental Beppu resort & spa|ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ
別府と言えば、なんとなく「修学旅行で行くところ」あるいは「シニアになってから楽しむ場所」という刷り込みがあるだろう。有名な温泉地であることは無論知っているが、実際に大人になってから足を向けたことはなかった。
Text & Photographs by IJICHI Yasutake
千年の息吹が立ちのぼる 湯けむりと人情の街・別府








別府は千年を超える歴史を持つ日本屈指の温泉地だ。別府八湯と呼ばれる八つの温泉郷が点在し、それぞれが違った泉質や趣を持っている。その中でも鉄輪温泉は、別府を象徴する存在と言っていい。
街の至るところから白い湯けむりが立ち上がる光景は、まさに別府らしい。狭い路地にひっそりと佇む蒸し場の熱気、立ち寄り湯に集う人々の賑わい。ここには、千年の歴史と現代の日常が息づいている。
鉄輪温泉には、旅の途中で立ち寄りたくなる場所がいくつかある。「かんなわ六画ストア」では、大分県産の新鮮な野菜や果物が所狭しと並び、観光客だけでなく地元の人々の暮らしにもしっかりと根ざした憩いの場。農業を営んでいた店主が二年前に始めたこの店は、湯けむり散策の合間にふと立ち寄りたくなる、温かな空気に包まれた場所だ。




昼時には「ふくばこ蕎麦店」で、石臼で自家製粉する香り高い蕎麦を味わいたい。一人で店を切り盛りする職人店主が打つ蕎麦は、地元の食材を活かした料理とともに、観光客にも地元客にも愛されている。
朝日も夕景も独占——別府湾を望む天空のリゾート
そんな別府での滞在先として選ぶのは、高台に位置する「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」である。




ホテルは別府湾を一望する高台に立っている。朝には朝日が別府湾を染め上げ、夕方には夕日が山並みに沈む幻想的な風景を独占できる。印象的なのは、大分県の伝統工芸である竹細工のモチーフが館内随所に取り入れられていることだ。大胆でありながら繊細なその意匠は、まさに和モダンの極致と言えるだろう。意外に知られていないが、大分県は竹の生産量日本一を誇る。京都の竹細工にも使われるほか、地獄蒸し料理などにも欠かせない素材である。
客室は45平方メートルから始まり、最上位のスイートルームは200平方メートルを超える広さ。温かみのある木材と上質な素材を基調に、客室の一部にも竹細工の繊細な美が散りばめられており、地域文化と現代的なデザインが見事に融合している。
ホテル内には複数の温泉浴場が備わっている。特に屋外の露天風呂や家族風呂では、別府湾の絶景を眺めながら湯浴みを楽しめる贅沢な造りになっている。家族風呂にはベッドルームも併設され、インルームダイニングも利用可能だ。宿泊客以外の利用もできるというのも、魅力の一つである。
ホテルを象徴する施設のひとつが、屋外に設置されたインフィニティプールだ。プールの縁が別府湾の水平線と一体化するように設計され、まるで海と空に浮かんでいるかのような錯覚を覚える。昼間は太陽の光を浴びながらリゾート気分を満喫し、夜は別府の夜景を眺めながらロマンチックな時間を過ごせる。
スパも充実している。「ハーン ヘリテージ スパ」は、タイ発のラグジュアリーライフスタイルブランド「HARNN(ハーン)」の最高クラスであり、世界のウェルネスリトリートトップ20に選出されるなど、数々の受賞歴を誇る。その施術は日本国内ではここでしか体験できず、別府の温泉泥を用いたボディパックや、大分県産の柚子を使ったアロマトリートメントなど、この地ならではの癒しが用意されている。
五感を震わせる職人の妙技——鮨レストラン「霧翠」で出会う別府の美味
そして、インターコンチネンタル別府の中でも特に注目すべきは、鮨レストラン「豊後前 霧翠(むすい)」である。2025年6月1日にオープンしたばかりのこの店は、備後(大分)の海で獲れる四季のネタの旨みを、老練の職人の技によって最大限に引き出してくれる。単なるホテル内レストランの域を超え、別府の新たな美食スポットとして確固たる存在感を放ちつつある。
今回いただいたコースは、別府湾の鱧、豊後の蛸、湯布院の鮎を使った前菜から始まるもの。特に印象的だったのは、日出町の城下鰈である。これほどまでに濃い旨みと、程よい弾力を併せ持つ城下鰈には、これまで出会ったことがない。真水と海水が交わる汽水域に生息する希少な魚で、関東では高値で取引されるという。
5時間かけてじっくりと炊き上げた大分鮑を煎り酒で供する一品には、時間と技術を惜しみなく注ぐ職人の心意気が感じられた。また、「白身のトロ」と呼ばれる高級魚・真魚鰹を生でいただくという、極めて稀な体験もあった。鮮度の良さと繊細な甘みが際立ち、思わず感嘆せずにはいられなかった。
コース後半に登場した「むすい」は、その名の通り霧翠のスペシャリテである。地元で獲れたアジやタイ、太刀魚、イワシ、サバなどの魚介を、醤油、酒、みりん、ごま、生姜でつくるタレと和える「りゅうきゅう」にインスパイアされた一品。さらに毎年4月に開催される扇山火祭りをモチーフに、焼いた新芽の緑と焼き跡の茶を表現した独創的なソースが使われている。その味わいは、記憶に深く刻まれるものだった。
関鯵や関伊佐木、あおり烏賊なども、味わいを言語化しようとすると陳腐になるほど圧倒的な存在感を放っていた。どの皿もこちらの期待を遥かに凌駕する、過去に類を見ない体験である。
ペアリングでいただいたドリンクも秀逸で、なかでも九州唯一の女性杜氏・井上百合氏が手がける井上酒造の雄町は忘れがたい一杯であった。残念ながら一般流通はしていないと聞き、その希少性も相まって、一層強く記憶に刻まれている。
コースの締めくくりは、ありきたりなメロンや苺ではなく、女性パティシエが手がける繊細なデザート。独創的で美しいスイーツが、食事体験を完璧に締めくくってくれた。霧翠のコースは、月毎や季節といった決まった周期ではなく、その日の仕入れによって変わるというから、再訪欲を掻き立てられるばかりだ。
温泉情緒と現代ラグジュアリーが響き合う 別府の新たな贅沢
ホテル内には霧翠をはじめ複数のレストランが揃い、それぞれが異なる美食体験を提供している。特におおいた牛や関アジ、関サバなどの高級食材を使った料理は、別府滞在のさらなる愉しみとなるだろう。



ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパの最大の魅力は、世界水準のホスピタリティに加え、日本独自の繊細なもてなしの心を大切にしている点にある。温泉 x絶景 x 美食 それらが三位一体となって、さらに別府の四季折々の表情が加わることで、至高のラグジュアリー体験となる。
別府は今、千年の歴史を誇る温泉文化と、世界に通用する現代的なラグジュアリーな感性が交錯する唯一無二の観光地へと進化を続けている。ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパの存在は、この古き良き温泉地に新たな風を吹き込み、次世代の温泉観光の可能性を示している。ここに滞在することは、単なる宿泊を超えた、別府そのものを全身で味わう体験である。
ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ
場所|大分県別府市大字鉄輪499-18
場所|大分県別府市大字鉄輪499-18
問い合わせ先
ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ
Tel.0977-66-1000 / Fax.0977-66-1002
https://anaicbeppu.com/