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2025年4月4日
連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「新旧の魅力が交差する銀座カルチャー」
連載エッセイ|#ijichimanのぼやき
第55回「新旧の魅力が交差する銀座カルチャー」
江戸時代に銀貨鋳造所があったことからその名を得、明治以降、日本の近代化と共に歩み、東京を代表する高級商業地として揺るぎない地位を確立してきた、銀座。日が落ちると、ネオンが街を彩る。昼は洗練されたビジネスパーソンと買い物客で賑わい、夜は大人の社交場へと変貌する銀座。
Photographs and Text by IJICHI Yasutake
歴史ある町が、新たな文化を創り出す
銀座で交わされる会話の中に、銀座の「粋」と「格」が息づいている。昭和の名優 小林旭は銀座のバーで若山富三郎と出会い「任侠」の世界での共演につながったという逸話もあれば、先日鬼籍に入られたみのもんたも、銀座をこよなく愛し、粋な振る舞いを美学として体現したことで知られる。銀座は「楽しむ場ではなく、楽しませる場」と言って憚らず、粋に、そして美しく酒を飲み、店が賑わい、華やぐことを喜んだ。
銀座の街並みには、時代と人の流れが刻まれている。レンガ造りの歴史的建造物と革新的な現代建築が共存し、伝統と革新が織りなす独特の景観を形成している。この新旧の交差点に立ち、銀座の文化を探ってみたい。
洗練された味わい:銀座の新たな手土産文化
■ラ・メゾン・ド・ビィ 東京都中央区銀座5-5-12 HULIC&New GINZA MIYUKI5 9F
銀座で大切な人と食事。となったら手土産には悩むところ。あまりに名店が多く、どれを選んでも外しはしないが、少しセンスを光らせたいところ。僕の最近のオススメは断然「ラ・メゾン・ド・ビィ」のオリジナルクッキー缶。
銀座で大切な人と食事。となったら手土産には悩むところ。あまりに名店が多く、どれを選んでも外しはしないが、少しセンスを光らせたいところ。僕の最近のオススメは断然「ラ・メゾン・ド・ビィ」のオリジナルクッキー缶。
関啓吏シェフが手がけるこの店は、研ぎ澄まされた美意識と卓越した技術でつくられるフランス菓子店として昨年誕生。レストランでパティシエとして腕を磨き、古典的なフランス菓子に日本人としての感覚を注入している。
「シンプルなものほど難しい」という信念のもと、原価を心配してしまうくらい尋常ではない程にオーガニックの素材にこだわり、焼き加減の絶妙なタイミングにもこだわり続けている。銀座店の奥にある小さな工房で、シェフ自らが一つひとつ丁寧に焼き上げる姿は、職人気質の銀座の精神にも通じるものがある。
「本当に美味しいものを届けたい」というシェフの真摯なスタイルが形になったこの店は、銀座らしい洗練と品格を兼ね備え、手土産として上質なものを求める人たちに愛される新たな名店になる予感がする。
革新と継承:余白時間に小さなおいしさ発見
■1/2(ニブンノイチ) 東京都中央区銀座5-3-1 Ginza Sony Park B3F
手土産の準備ができたら、待ち人が来るまで街を散策したいところ。
銀座の顔と言えるビルはいくつかあるが、1966年に数寄屋橋交差点に誕生したソニービルもそのひとつ。当時の最先端企業の旗艦店として銀座の顔となり、単なるショールームを超え、銀座の新しい文化発信拠点として機能し、半世紀以上にわたり多くの人々に親しまれてきた。
手土産の準備ができたら、待ち人が来るまで街を散策したいところ。
銀座の顔と言えるビルはいくつかあるが、1966年に数寄屋橋交差点に誕生したソニービルもそのひとつ。当時の最先端企業の旗艦店として銀座の顔となり、単なるショールームを超え、銀座の新しい文化発信拠点として機能し、半世紀以上にわたり多くの人々に親しまれてきた。
長い歴史を経て2017年に一部解体された後、創業者の盛田昭夫が「銀座の庭」と呼んだコンセプトを継承し、銀座の新たなランドマークとして「銀座ソニーパーク」へと生まれ変わった。そして2025年1月、銀座の新しい文化発信拠点として、ビルディングタイプの公園としてリニューアルオープンした。
あえて低く構えることで、集積率の高い銀座の中において余白を生みながら、多様な文化体験ができる複合施設としての機能を持たせ、所々に昔のソニービルの面影を残している。様々なアーティストとコラボレーションしながら、先端技術の展示、アート、音楽イベントなど、消費だけでなく体験を重視する現代の価値観を表現し、新しい文化を創出し続けている。
ここで注目したい穴場がある。地下3階の洋食ベースのカジュアルダイニング「1/2(ニブンノイチ)」。一人前サイズの1/4料理を2種盛り付けるから1/2。多様なお酒からハーブやスパイスを使ったメロンソーダまで用意され、ちょっとした大人の余白時間に、小腹を満たしたい時、もう一軒行きたい時、そしてアペに。メニューにはすべてプレイスマットが用意され、歴史や文化、想いといった情報と一緒に食べる、押し付けではない刺激的な食体験が楽しめる。
老舗の風格:三笠会館と名優たちの饗宴
■三笠会館 大和 東京都中央区銀座5-5-17 三笠会館本店 7F
「ロオジエ」「かわむら」「久兵衛」から「煉瓦亭」「銀座ライオン」まで銀座の名店は枚挙にいとまがないが、「三笠会館」もそのひとつ。三笠会館は今年で100周年という。僕も若い頃から何度か家族で訪れ、そうした思い出と共に心落ち着く場所となっている。
「ロオジエ」「かわむら」「久兵衛」から「煉瓦亭」「銀座ライオン」まで銀座の名店は枚挙にいとまがないが、「三笠会館」もそのひとつ。三笠会館は今年で100周年という。僕も若い頃から何度か家族で訪れ、そうした思い出と共に心落ち着く場所となっている。
三笠会館は、国の登録有形文化財にも指定され、戦後の銀座復興の象徴として多くの人々に愛されてきた。特に、最上階7Fの鉄板焼き「大和」は、目の前で繰り広げられるシェフの技と厳選された食材の饗宴で、銀座の贅沢な時間を楽しませてくれる。三船敏郎や高倉健、石原裕次郎や勝新太郎など昭和の名優たちも通ったことで知られ、石原裕次郎は撮影の合間に立ち寄り、ステーキを頬張りながら若手俳優に芸の心得を説いたというエピソードも残っている。
現在は、代々訪れているであろう家族の姿、ビジネス、インバウンドと思しき観光客などが入り混じり、新たなシーンが生まれているが、料理を楽しみながらも声高に笑わず、静かに会話を楽しむ—そんな大人の嗜みは、今の三笠会館にも流れている。
銀座の夜を彩るオーセンティックライブハウス
■KENTO’S GINZA 東京都中央区銀座8-2-1 ニッタビル 9F
食事の後の夜の社交場が銀座の最大の魅力。銀座4丁目の「バー・ルパン」や老舗「バー・オスカー」は、勝新太郎が映画「明日は明日の風が吹く」のヒントを得たという場所としても知られている。また「バー・オールドインペリアル」は、昭和32年の創業以来、多くの文化人や芸能人に愛され続け、銀座の歴史そのものを体現している老舗だ。
食事の後の夜の社交場が銀座の最大の魅力。銀座4丁目の「バー・ルパン」や老舗「バー・オスカー」は、勝新太郎が映画「明日は明日の風が吹く」のヒントを得たという場所としても知られている。また「バー・オールドインペリアル」は、昭和32年の創業以来、多くの文化人や芸能人に愛され続け、銀座の歴史そのものを体現している老舗だ。
一方、1980年に銀座に登場したディスコ「KENTO’S」は、バブル期の熱気を今に伝える場所として知られている。僕が初めて足を踏み入れたのは十代の頃。オールディーズブームの火付け役と呼ばれ、十代の僕も曲名は知らずともどれもサビは知っている名曲ばかりが生バンドで流れていて、大人たちが踊っている姿に衝撃を受けた。「Earth, Wind & Fire」「Boys Town Gang」「Stylistics」などに親しんだのは、KENTO’Sがきっかけだった。今でもスーツ姿のビジネスパーソンがネクタイを緩め、学生時代を思い出すように踊る光景は変わらず、銀座ならではの解放と品格の両立を象徴している場所のひとつとなっている。
交差する銀座の新旧文化
銀座の魅力は、こうした新旧の文化が有機的に結びつき、独自の空気感を醸成していることだと思う。革新的、伝統と格式、時代を超えて愛される名店—それぞれ異なる時代の価値観を体現しながらも、「銀座らしさ」という共通項でつながっている。
かつて若山富三郎が「銀座は演じるものではなく、生きるもの」と語ったようだが、この街には役者としてではなく、ひとりの人間として過ごす贅沢な時間が流れているからだろう。時代の変化と共に形を変えつつも品格と革新を併せ持つ姿勢は、銀座が長く愛され続ける理由だろう。古きを尊び、新しきを取り入れる—その調和の中に、これからの銀座文化の可能性が広がっている。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
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