角田陽太|東京の酒場を案内する「東京浪漫酒場」第三回 恵比寿「縄のれん」
改装まで残り1カ月半、この雰囲気を味わいたいひとは急げ!
第三回 恵比寿「縄のれん」
いかにも常連が多そうだが、いつも賑わっていて、皆幸せそうな顔をして酒を酌み交わしている──プロダクトデザイナー角田陽太氏が訪れるのは、「うまい酒が飲めて、店のたたずまいや備品まで楽しめる店」。連載三回は、もつ焼きの銘店といわれる恵比寿の「縄のれん」。さて、なにからいただきますか。
Text by KAKUDA Yota
Photographs by YAMADA Kazunobu
立ち飲みなのに長居してしまう銘店
JR恵比寿駅西口から徒歩2分、駒沢通りを渡り、少し入ったところにその立ち飲み酒場がある。
看板、提灯、そして店名の縄のれんもかなり年季がはいっている。残念ながら5月末を境目に建物取り壊しのために一時休業し、新店での再開は来年2月を予定している。
テーブルとカウンター合わせて40人ほどの客が立てる店で、開店の1時間後には周辺のオフィスで働く人たちなどで賑わう。カウンターに面した電熱線の焼き場には串がならぶ。店主の焼き加減は絶妙で、名物のハイボールを飲みながら、牛ハラミとミノをいただく。
牛もつを串でいただけるところは珍しく、ハツ下やシビレもとても酒を進ませる。焼野菜も絶品で、土佐甘とうやネギは肉の串の合間に新鮮さをあたえてくれる。
ハラミにとても合うマスタードやにんにくは直径5cmほどのカップに入っていて、好みで付けることができる。そのアルミ板から作られた素朴で美しいカップは調味料の量とそれを取り分けるために用意されたアイスクリームスプーンの大きさにちょうど良い。
ハイボール用のソーダ瓶ケースを重ねて板を乗せただけのテーブルは瓶が入っているので、安定感がある。また、案外、店のインテリアに雑多感ではなく、ミニマルな統一感をあたえるからおもしろい。アナログなキャッシャーはオペレーションが明快で、新店でも使いつづけてほしい備品だ。
最後はハラミステーキ肉をお腹の空き具合や好みの厚みにより選び、焼いてもらう。レアに焼かれ、肉汁が溢れるステーキをナイフとフォークでいただく。
立ち飲みなのに長居してしまう銘店。休業の間に料理の味が変わることはないだろうが、この雰囲気を味わいたいひとは残り1カ月半、ぜひ急いで行ってもらいたい。
角田陽太|KAKUDA Yota
デザイナー。1979年宮城県仙台市生まれ。2003年渡英し、さまざまな事務所で経験を積む。2007年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)を修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年、YOTA KAKUDA
DESIGNを設立。
http://www.yotakakuda.com/
山田和伸|YAMADA Kazunobu
1978年奈良県生まれ。2005年よりフォトグラファー熊谷隆志氏に師事。2008年独立、以降フリーランスフォトグラファーとして活動中。