モノとの対話

『ハジメに』

『ハジメに』

地元鹿児島の、ちっちゃな書店でobject:CONCENTS(1998)最近、当時解らなかったことを確認している……。建築や空間デザインというと当時、一般にはあまり情報はなかったし、少なくとも今ほど開かれた業界では決してなかったと思う。自分にとってのそれは強いて言うなら、小学2年の時に父が家を建てたことと、父が何かの設計の仕事をやっていた時期があったからドラフターが家にあったというくらい……。小学3年からずっとサッカー漬けだった僕は、高校1年のとき、ふと立ち寄った地元(鹿児島)の書店で、『a+u』という建築雑誌を手に取った。その号にはマリオ・ボッタ(スイスの建築家)の特集が載っていた。必死で読んでも、むろんその頃の僕にはさっぱり意味の分からない文章が多かったし、そこに載っている構造物がいかなるモノかなど解りはしなかったけど、「芸術的なもの=理解しにくい」みたいなその頃のぼくの構図にはぴったりだった。よくある在りふれた話、僕は幼い頃から美術に関わることがとても得意だと自負していたし、...
『ハジメに』-2

『ハジメに』-2

ヒトとモノ左:HOTEL IL PALAZZO(2004)、右:NOTE(2006)モノって状況に応じて「機能性」「普遍性」「神秘性」……、そういうもののバランスが重要だと思う。自分のモノづくりにおいても同様。それらがそろって美しいとかカッコいいとかを感じる。そして、モノはヒトに使われて初めて意義が生まれる。つまり、それを使うヒトとの相性、これもすごく重要。どんなにいいモノでも、相性が悪い相手だとその良さが生きてこない。だから、「自分にとってそのモノが適当か」を見極めるためにも自分をよく知らないといけない。つまり、モノを上手くサラッと使いこなすヒトは、自分をよく理解しているということにもなる。おおげさだけど、モノはそのヒトの鏡、無理すると醜い。「CASE REAL(ケース・リアル)」という僕の事務所の名前も、ヒトとモノの関係について考えた僕ら(創立当時の相方と)のある文章からキーワードを取った造語。モノそれ自体だけでなく、そういう目に見えないことがかえってモノの深みをつくっていく大...
Berlin-Praha(1)

Berlin-Praha(1)

photo:Koichi Futatsumata[ベルリンとプラハへ] 先月、ふらっとベルリンへ行ってきた。仕事で行ったわけではない。気づけば身のまわりのプロダクトはかなりの割合でドイツのものだったり、デザインやアートのパワーはさることながら、栄光と悲運の歴史に翻弄されたベルリンの持つ空気そのものに常々興味があった。じっくり見るにはワールドカップもとっくに終わって若干熱の冷めたこの時期はちょうどいいと。photo:Koichi Futatsumataほぼ2週間、ずっと同じホテルに滞在して過ごすことにした。慌ただしいスケジュールで点々と移動するより、じっくりこの土地にいようと。途中、隣のチェコ(プラハ)には出かけたけど、そのほとんどをベルリンで過ごし、普段日本にいるときとは比にならないほど毎日ひたすら歩き回った。photo:Koichi Futatsumataphoto:Koichi Futatsumata[陸の孤島]ところで知ってました? 東西ドイツ時代、“東ドイツの中にある”ベル...
Berlin-Praha(2)

Berlin-Praha(2)

photo:Koichi Futatsumata[ミッテ区]その名のとおり(ミッテとは中央の意味)、壁崩壊後は事実上ベルリンの中心街。ここは“壁以前”東ベルリンだったから、かなり雑然とした手付かずの雑居ビルやラフな通りが多い、自由な空気にあふれている。今ではヨーロッパ中から若いアーティストやギャラリーが集っている。photo:Koichi Futatsumataphoto:Koichi Futatsumata[不完全の可能性]街角の壁、建築、道路、地下鉄、ショップ、ギャラリー、広場、あらゆるところで、古いモノと新しいモノ、またはガラクタと高価なモノ、もしくは無用なモノと必要なモノ、そういった対局な関係でモノが混在しているような気がする。つまり、東と西は政治的に統合されて16年ほど経つけど、よりリアルで複雑なカルチャーの現場ではまだそれは真っ最中であって進行形なのかもしれない。photo:Koichi Futatsumataphoto:Koichi Futatsumata不完全なモノ...
Berlin-Praha(3)

Berlin-Praha(3)

photo:Koichi Futatsumata[ハンブルガー・バーンホーフ現代美術館]古い駅舎を改築した美術館。元駅舎といえばパリのオルセーが有名だけど、あっちが古典ならこっちは現代。鉄骨アーチなど見るとかなり似たフォルムだが、壁・床・天井の考えひとつ見てもこっちは完全にミニマ ルな表現。無駄や贅沢は何ひとつない。また、少し装飾的なあえて当時ままのファサードにはブルーの蛍光灯(Dan Flavinの作品か?)、これもいい。photo:Koichi Futatsumataphoto:Koichi Futatsumata今回行って驚いたのは、2~300mはあろうかという列車の格納庫を改築した(地下まである)映像インスタレーションを集めたホール。大画面の映像・音・闇・塗料の匂いまでもが合わさって織りなす独特の空気が良かった。空間そのものも現代アート。これも今のベルリンの空気感がよく出た場所だと思った。photo:Koichi Futatsumataphoto:Koichi Futats...
Berlin-Praha(4)

Berlin-Praha(4)

photo:Koichi Futatsumata[ベルリン→プラハ]ワールドカップ開催に合わせて完成したガラス張りの巨大なハウプトバーンホフ・レーターバーンホーフ駅(中央駅)。ツォー駅に代わるベルリン最大の駅。チェコの首都プラハへはここからドレスデンを経由して約5時間半。photo:Koichi Futatsumata順調にドレスデンを経由して10分くらい経った辺りだろうか。チェコとの国境付近の小さな駅で牽引車両が代わり、そのとたん速度が落ちてとろとろ運転になるのだが、静かに流れるエルベ川沿いを行く列車から見える風景は格別で、とろいのもまんざら悪くない。夕日と飛行機雲が成す風景も神秘的。[プラハ歴史地区]プラハ中央駅に着く直前、列車で偶然会った日本人女性に言われた、「駅周りは気をつけて。注射器持って追っかけられた話とかも聞くので。とにかく暗いですから……」。陽も落ちて、ホテルも取ってなかったので若干焦る。photo:Koichi Futatsumataプラハ歴史地区は世界遺産でもあ...
Berlin-Praha(5)

Berlin-Praha(5)

photo:Koichi Futatsumata[石畳]プラハ城へ登る途中の石畳。張りのパターンもいい。この石はもう600年ほどここで人の足跡を受け止めている。日本で見かけるスクラップ&ビルドの渦中にある建築丸ごと一棟よりもこの1個の方が意味深いだろう。ひとつひとつのそれは摩耗して一カ所の尖りもなく、全てが丸みを帯びていて一歩一歩あるくほどに足裏に心地よさが伝わってくる。それらは時間をかけ成るべくして成った無理のなさを背景に、圧倒的な説得 力を持ってこの路地に存在している。こういうモノの連続でこの町は出来ている。photo:Koichi Futatsumata[吊るされた像]photo:Koichi Futatsumataプラハ中心地の移動は路面電車が便利だが、これもいつの製造かと思うほど古い様子。電車というより鉄の塊。長年塗られて表面の塗料も相当厚い。20年以上前の鹿児島で見ていたやつ以上に古そうである。photo:Koichi Futatsumata町中の古いモール(いたるとこ...
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