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はじめの1歩 私が思うこと

はじめの1歩 私が思うこと

孔子は「五十にして天命を知る」と言った。たしかに不惑の季節を過ぎて、自分のやりたいこと、やるべきことは明確になったが、私の毎日は、安定なんて言葉は知らない。まだまだ着るものにも食べるものにも遊びにも生き方にも大いに迷い、楽しみ、面白がって、なにかを探し、驚き、ときには笑ったり怒ったりしながら、男の人生を嗜(たしな)んでいきたいと思う。私たちにとって着る服が個性を描くように、もっと自分にカスタマイズした何かをみんな常に求めているように感じる。自分のためだけのサービス、自分のためだけのオーダーなど、「特別」はやはり格別で、かっこいいし、自分を次のステージに持ち上げてくれたりもする。服を作っていて思うのは、たとえばスーツのときの香りと、スポーツ・ジャケットのときの香り、あるいはショーツにエスパドーリュのときの香りは違っていていいと思う。男の香水といえば、動物系や植物系の調香とか、夜の香りなどイメージが優先されがちだが、もっと私たちの気分(装い)にフィットしたものがあっていい。そういうもの...
小林ひろ美さんに習う_1

小林ひろ美さんに習う_1

さて、いよいよ「香りに出会う、香りをつくる旅」に出ます。オウプナーズ編集室から対談相手として推薦いただいたのは、同じオウプナーとして参加されている小林ひろ美さん。とにかく美容全般についての見識が高いとお聞きして、素人考えで立ち向かっていいのかと戸惑いましたが、とても面白いお話が聞けました。では、さっそくご教授いただきましょう(吉田十紀人)小林さんの「美・ファイン研究所」にて。photo by IDEGUCHI Keikoすれ違って、個性を知るのが理想吉田十紀人:はじめまして。今日はよろしくお願いします。小林ひろ美:こちらこそ。楽しみにしていました。吉田:恐縮です。香りに関してはまったくの門外漢で、私が言うのもおこがましいですが、女性と男性では、匂いに限らず美容に関して受け取る情報の質と量にものすごい差があると感じています。小林:そうですね。私は普段からフレグランスのアドバイスもしていますが、やはりほとんど女性で、男性はまだまだ香りをつける習慣がありませんね。吉田:私は高校1年生の頃...
小林ひろ美さんに習う_2

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第1回目で、香水のつけ方の間違いを指摘されてしまいました。男性には、せっかく香りをつけるんだから、汗が出るところを封じ込めるという意味合いで、脇などにスプレーする人はとても多いと思います。小林さんのアドバイスを読んで、さっそく明日からつける箇所を変えましょう(吉田十紀人)小林さんの「美・ファイン研究所」にて。photo by IDEGUCHI Keiko脈打つところに香らせましょう!小林:脇は本当にダメですよ。まず香りの特徴として「あたたかいところ」につけるといいです。それと香りは「下から上に立ちのぼる」という習性があります。吉田:そうですか。小林:人間の身体のあたたかい部分は、脈を打っている部分ですね。ですから身体の内側、箇所でいうと手首の内側、ひじの内側、肩、ウエストの脇、そして脚のアキレス腱の上、くるぶしの裏などにつけると香りが長持ちします。吉田:なるほど。小林:絶対ダメなのは、身体の外側。毛が生えていて汗をかきやすいので、分泌物、老廃物と汗が混じって、香水が変な香りに変わっ...
小林ひろ美さんに習う_3

小林ひろ美さんに習う_3

前回、香水の正しいつけ方を教えていただいて、こういうハウツーこそ(もちろん商品情報も必要ですが)正しくインフォメーションされるべきだと思いました。特に私たち男性の場合は、誤解とか錯覚に陥りやすい生き物ですから、映画のワンシーンとか小説のなかのワンフレーズを自分なりに解釈してしまいます。女性には当たり前のことを、我々ももっと知るべきですね(吉田十紀人)香りが嫌いになる理由(わけ)吉田:鼻が麻痺するというと、かつては百貨店のエレベーターなどで、5メートルも先からプンプンと匂ってくるご婦人がたくさんいましたね。小林:同じ香りばかり使ってると、自分の鼻は“もっと、もっと”と匂いを強めるように要求してくるんです。そうすると服にも匂いが染み込んで煮出したような匂いになったり、つけたてのフレッシュさが感じられなくなります。ですから、本当は好みの香りをいくつか使い分けることも大切なんですよ。吉田:なるほど、そうすれば鼻も麻痺しないわけですね。小林:そうですね。自分は良くても、相手が鼻をつまむようで...
小林ひろ美さんに習う_4

小林ひろ美さんに習う_4

ここまで話を伺っていると、様々な香りのイメージが浮かんでは消え、消えては浮かんできます。ただ言葉で「こんな香り」というのはとても難しい。まだまだ具体的な花の名前とか、動物系のエッセンスを連想するまでは到底及びません。しかし、小林さんの「なにも知らないのを逆に活かして、どんどんご自分の発想で想像されてみては」というアドバイス、ありがとうございました(吉田十紀人)小林さんの「美・ファイン研究所」にて。photo by IDEGUCHI Keikoブランドと、人と、香りの関係吉田:この企画は、今回の小林さんとのお話をスタートとして、最終的には自分のブランドの香りを持ちたいというのが希望なんです。小林:いわゆるシグネチャー商品ですね。吉田:ファッションブランドの香りについてはどう思われていますか?小林:ブランドの香りは、そのブランドのコンセプトやイメージと直結するものです。アヴァンギャルドな服をつくっているブランドは香りも先鋭的ですし、フローラルだったり、ユニセックス的だったり、表される個...
吉岡康子さんに教わる_1

吉岡康子さんに教わる_1

小林ひろ美さんからご紹介いただいたのは、株式会社フォルテ取締役の吉岡康子さんです。吉岡さんは大学卒業後、長くインターナショナルな化粧品ビジネスに携わり、現在はご自身で香水ビジネスを経営されるほか、2001年にはフレグランス普及のために、業界団体「日本フレグランス協会」を立ち上げるなど、精力的に活動されています。その吉岡さんから、日本のマーケットの歴史や現状、香水ビジネスについてご教授いただこうと出かけました。photo by IDEGUCHI Keiko(株)フォルテにて。右が吉岡康子さんです(吉田)日本での香水の黎明期から現在まで吉田十紀人:はじめまして。吉岡さんには小林さんと違った角度からの「香水」のお話を伺いたいなと思います。よろしくお願いします。吉岡康子:私でお力になれれば。吉田:吉岡さんの経歴を拝見すると、大手化粧品メーカーに勤められていて、長く日本の香水ビジネスを見てこられたようですね。吉岡:そうですね。振り返れば、戦後、香水の関税が600%という時代があり、米ドルも3...
吉岡康子さんに教わる_2

吉岡康子さんに教わる_2

photo by IDEGUCHI Keikoわかりやすく香水を売るということ吉田:香水の生産国の筆頭はやはりフランスですか?吉岡:日本の最近の輸入統計ではフランスが一番でシェアが56%。次がイタリアで24、5%ですね。吉田:香水を製造しているブランドは、天然香料を使っているのですか?吉岡:すべて天然香料でつくったら、とても今の価格にはおさまりません。ほとんどの天然香料は100%合成香料で再現できるんですよ、化学的に言えば。吉田:そうなんですか。でも天然香料にこだわっているところもあるわけですよね。吉岡:香水ハウスで有名なのはゲランや、弊社で扱っている「パルファン・ロジーヌ パリ」のオードパルファンなどですね。ゲランは独自に花畑を所有していたり、シャネルもフランスの香水産業のメッカであるグラースにバラ園を持っていますが、それは非常に特別な例ですね。吉田:それでも作り手の中には、天然香料で作りたいという人もいますよね?吉岡:歴史と伝統のある小規模でファミリー経営のメゾンブランドは天然...
吉岡康子さんに教わる_3

吉岡康子さんに教わる_3

photo by IDEGUCHI Keikoフォルテで扱っている「モリナール」1万本をどう売るか吉田:吉岡さんのお話を聞いていると、やはり香水は欧米人のものだなという感を強くしますね。吉岡:それは歴史と文化の背景が違いますからね。たとえば、「モリナール」は1849年にフランスのグラースで売り始めました。また、「ランセ」というブランドは、香水製造だけで代々6代続いています。吉田:この対談シリーズを始めてから、和装の世界の香水、香道などにも興味が出てきたのですが、香りについて言えば、花じゃないものの匂いをスーツの時につけたいなと思うんですよ。吉岡:それはいいと思いますよ。とにかく西欧と日本では食べ物から違うライフスタイルですからね。私も無理をして日本人に合わない香りをつけることもないと思います。吉田:私たちは和洋折衷で暮らしていますが、日本人に合う香り、日本にこだわる香水があってもいいですよね。例えば、オリジナルで香水をつくることはできますか?吉岡:それは可能ですね。アッセンブルで1...
香道の魅力を探る_1

香道の魅力を探る_1

香道の魅力を探る ~稲坂良弘さんに訊く~第1回 香のみなもとは、古代インドにあり自分の香りをつくるということを出発点に、これまで小林ひろ美さん、吉岡康子さんにお話を伺ってきましたが、いつしか頭の片隅から離れなくなったのが“香道”、日本の香りについてです。日本人である以上、そのシグネチャーたる和の香りを知りたいという気持ちと、それを活かして香りをつくりたいという欲求が、銀座・香十さんを知るきっかけとなりました。今回は、銀座・香十社長の稲坂良弘さんにお話を伺います。photo by FUKUDA Emiko銀座・香楽庵にて芸道としての、香道を知る吉田十紀人 今回はお時間ありがとうございます。銀座のど真ん中といっていい場所に、贅沢なスペースをお持ちですね。稲坂良弘 ありがとうございます。ここは香道の教室に使っているスペースで、香りの雑貨を広く扱う店「香十」と、香道の道具や伝統的な香りを扱う、いわばプロショップの「香楽庵」が両隣にあります。吉田 贅沢と言いましたが、逆に銀座だからいいんでし...
香道の魅力を探る_2

香道の魅力を探る_2

香道の魅力を探る ~稲坂良弘さんに訊く~第2回 武人のたしなみとしての香photo by FUKUDA Emiko男子、兜に香を焚きしめる吉田十紀人 香りというのは、気持ちを鎮める、集中させる効果はよく語られますが、逆に気持ちを高ぶらせるための香りというのはあるのでしょうか?稲坂良弘 おっしゃるとおり、香の原点は「やすらぎ」と「ときめき」です。つまり中近東では媚薬のようにも使われたようですね。同じ種類でも濃度と使い方によって働きが変わってくるのです。吉田 たとえば興奮あるいは沈静というのはどういう状態で?稲坂 焚くと香りが出る香木が一番輸入されたのは鎌倉時代でした。力のある武家たちは競って良い沈香(伽羅=きゃら)を求めていたんです。吉田 あの非常に高価な伽羅ですか。それをどう利用したんですか? 「香楽庵」店内にて 稲坂 兜に香を焚きしめるんですね。それは興奮剤であり、鎮静剤でもあったのです。戦場で、万一、不覚にも首を討ち取られたときに、「さすが名のある武将、これだけの伽羅を焚き...
香道の魅力を探る_3

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香道の魅力を探る ~稲坂良弘さんに訊く~第3回 実際に香りを「聞く」photo by FUKUDA Emiko手前が「伽羅」、奥が「白檀」の切片白檀と伽羅の香りを言葉にしてみる吉田十紀人 稲坂さんからいただいた資料を見ると「聞香(もんこう)」とありますね。稲坂良弘 そうです。香は聞くものなのです。嗅ぐとは言わないんですね。ですから「聞香」といいます。では実際に「白檀」から聞きましょう。──白檀を焚いた聞香炉(もんこうろ)が出される 稲坂 お線香は火をつけて燃焼させるのですが、この聞香炉は、灰の中に熱した香炭団が埋め込まれていて、その灰に小さな穴を開け、その上に雲母の板=銀葉(ぎんよう)を置き、香木の切片を載せます。吉田 その熱で香がたつわけですね。 稲坂 聞香炉を手の上にしっかり載せ、自然体で持って、手の人差し指と親指を「つ」の字にして、聞香炉にフタをするようにかぶせると、ほのかな香りが手の空洞の中にたまってきます。香道ではそれを「三息(さんそく)で聞く」というのですが...
香道の魅力を探る_4

香道の魅力を探る_4

香道の魅力を探る ~稲坂良弘さんに訊く~第4回 和の香りの真髄に静かに酔うphoto by FUKUDA Emiko「香楽庵」内の練香香木の世界は、ヴィンテージワインに似て吉田十紀人 やはり伽羅はなんとも表現のしづらい香りですね。いわゆる「和の香り」と言った場合はどんなものが挙げられるんですか?稲坂良弘 日本のお香の原料は、まず、伽羅を頂点とする「沈香」があります。そしてインドネシア原産で、インドに最高のものがある「白檀」、以上が“香木”系ですね。そのほかに、薬・香辛料・香の原料となる“漢方生薬”があり、よく知られている桂皮、丁字、大茴香などを始め、何十種類もあります。あとは、「乳香」や「没薬(もつやく)」などアフリカ北東部アラビア半島の灌木の樹脂系などもありますね。吉田 動物性香料はどうなんですか?稲坂 麝香(じゃこう)や竜涎香(りゅうぜんこう)は、本当に微量の隠し味程度ですね、使っても。吉田 そうなんですか。稲坂 日本香堂から新しく発売された『青雲アモーレ』という商品は、イタリ...
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