第8回 「オトコ香る。」プロジェクトに迫る(1)
Beauty
2015年3月18日

第8回 「オトコ香る。」プロジェクトに迫る(1)

大ヒット“香り”ガム
「オトコ香る。」プロジェクト その秘密に迫る-1

2007年3月19日。<伝説のガム>復活の日として、「香」史に刻まれました(中野版の勝手な歴史ですが……)。カネボウフーズのガム「オトコ香る。」が、パワーアップして市場に戻ってきた日です。初代「オトコ香る。」は、2006年7月28日、予想外の売れ行きに製造が追いつかず、販売停止になっていました。

モノが売れない、と嘆く人も少なくない時代に、そんなヒット商品を開発したのはどんな人なのか。開発の背景、そして「売れた」背景にはどんな物語が秘められているのか。「ガムで香る」仕組みに対する関心もさることながら、プロジェクトの成功の秘密そのものに迫りたいと思い、カネボウフーズ株式会社にお話をうかがいに行きました。お相手をしてくださったのは、菓子事業部開発グループで主任をつとめる西 絵里香さんです。

text by NAKANO Kaoriphoto by TATSUNO Rin

ガム棚で異彩を放つ「黒と赤」。希望小売価格150円(税込158円)

<お客様の声>から需要を予測

中野香織 香水には手を出せないけど実は自分のにおいを気にしている、という男性はけっこう多いと見ています。とりわけそんな男性に、「オトコ香る。」ガムの話題は興味をもってもらえるのじゃないかと思い、またビジネスモデルとしてもとても興味深く、いろいろな角度からお話を聞かせていただければ嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

西 絵里香さん こちらこそ。

中野 初代「オトコ香る。」は、予想をはるかに超える売れ行きで販売休止になったということですが……。

西 ええ、供給が間に合わなかったんです。お恥ずかしい話ですが。

中野 でも、すごいことですよね。モノが売れなくて困っている企業も多いのに。実際に購入する人は、やはり男性が多かったんですか?

西 9対1の割合で、男性でした。

中野 男性が「からだが香る」というコンセプトのガムを買うなんて、はじめから勝算はあったのでしょうか?

西 弊社にはそれ以前から「フワリンカ」という、食べると香るという商品はあったんですよ。見た目にも女性向けなんですが。ところがお客様相談室に「香るガムがあるって聞いたんだけど?」ってお問い合わせがけっこうあって、なんと男性からというのが予想外に多かったんです。

中野 「香る」という機能が気になってのお問い合わせってことですね。商品名ではなくて。

カネボウフーズ 西 絵里香さん

西 そうなんですよ。「香る」ということが男性にひびいたんですよね。それで、男性の需要はある、と手ごたえを感じました。でも、会社としては、「フワリンカ」はそのまま育てていきたい。だったら、「フワリンカ」の機能をもったガムを男性向けに、もっと男性が気軽に買えるように作ればいいじゃないか、と考えたんです。つまり、はじめに「フワリンカ」があって、それに対する反響からヒントを得て、男性という要素をそこに加えた、という感じでしょうか。

中野 なるほど……。それで作ってみたら予想以上の反響があって2カ月で販売休止、と。<お客様の声>を注意深く拾った成果ですね。

ガム棚を切り裂くパッケージ

中野 3月に発売のパワーアップした新バージョンは、初代とはどう違うんですか?

西 初代は粒ガムだったんですが、それを板ガムにしました。板だと香り成分を増強できるということもありましたが、何よりも粒ガムの「フワリンカ」とラインを別にできる、ということが大きかったんです。ラインがバッティングしない、というのは会社にとってはけっこう重要なことなんですよ。

中野 それにこのパッケージ、美しいじゃないですか! 黒ベースに赤いバラ。しかも開けると……、きゃー、黒い包み紙のなかに赤い包み紙が2枚、絶妙なあやしさで(笑)混じってる。

西 ケガの功名っていうか、板にすると、そんなふうに包み紙で遊べるんですよ。粒だと、こうはいかなかったんです。外側のパッケージでも実は遊んでいて、7分の1の確率で、ハート型のバラが出てくるんです。あとは丸いバラなんですけど。

中野 佐藤 卓さんのクールミントガムのパッケージみたいですね。たまに手をあげているペンギンがまじっている、とか。

担当編集者マコトくん 100分の1の確率じゃないとこがいいですよね。7分の1というのが。気分的に、当たり。

西 気づいてもらえるかどうかは、わからないんですけど(笑)。

中野 気づくとぜったい周りに自慢したくなりますよね。これ知ってる? って。ネーミングにもなにか、いわくがありますか?

西 いわくってほどじゃないですけど……。「オトコ香る。」ていうと、なんかかっこいい。ちょっと雰囲気がある香りかな、と想像させるんじゃないでしょうか。

中野 男の下心もスパイスとして香ってくる気がしますし。

西 あ、それは「こっそり投入」しました(笑)。

中野 それにしても黒字に赤。高級チョコレートみたいな感じもします。これまでのガム売り場にはまったくない色。

西 フルーツの色やミントの色ばかりのあの売り場に黒ベースをもってくるのは大変なことだと思うんですけど、でも大きな宣伝費をかけられないなかで、いかにコンビニやスーパーのガム棚を切り裂くか、となるとやはり存在感が大切です。売り場にあるだけで、何か語ってもらわないと。

中野 ガム棚を切り裂く!?  ……はじめて聞いた表現です(笑)。業界用語ってなかなか新鮮です。ところで、粒と板って、どっちが売れるんですか?

西 粒のほうが、需要は多いですね。板は「クール」と「グリーン」があればいいよ、みたいなところもあって(笑)。あとフルーツのガムは板が多いかな。ジューシーな感じは、板の方が表現しやすいんですよ。パワーアップした板版の「オトコ香る。」では、味の持続性が高いとか、カプセルが練りこみやすい、という板の長所を最大限に生かしました。

中野 フルーツのガムもそうですが、こどもターゲットのものに板が多い気もしています。

西 ええ、大人がターゲットなら粒にしてほしい、とバイヤーからは言われてます。

中野 そんななかで板のリニューアル版も大成功でしたね。おめでとうございます。反響は予想してましたか?

西 バイヤーさんも半信半疑でした。化けるか化けないか。「オレ的にはオッケーだと思うけど、どうかな~」って言うバイヤーさんが多かったです。

中野 オレはいいと思うけど会社はどうかな。いかにも日本人的な対応ですね(笑)。

           
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