吉岡康子さんに教わる_2
photo by IDEGUCHI Keiko
わかりやすく香水を売るということ
吉田:香水の生産国の筆頭はやはりフランスですか?
吉岡:日本の最近の輸入統計ではフランスが一番でシェアが56%。次がイタリアで24、5%ですね。
吉田:香水を製造しているブランドは、天然香料を使っているのですか?
吉岡:すべて天然香料でつくったら、とても今の価格にはおさまりません。ほとんどの天然香料は100%合成香料で再現できるんですよ、化学的に言えば。
吉田:そうなんですか。でも天然香料にこだわっているところもあるわけですよね。
吉岡:香水ハウスで有名なのはゲランや、弊社で扱っている「パルファン・ロジーヌ パリ」のオードパルファンなどですね。ゲランは独自に花畑を所有していたり、シャネルもフランスの香水産業のメッカであるグラースにバラ園を持っていますが、それは非常に特別な例ですね。
吉田:それでも作り手の中には、天然香料で作りたいという人もいますよね?
吉岡:歴史と伝統のある小規模でファミリー経営のメゾンブランドは天然香料にこだわっていますが、いわゆるデザイナーズ香水やセレブリティ香水は、資本の論理から世界中で大規模な販売を目指すので、素材にこだわりたいというデザイナーの熱意はまず叶えられません。
吉田:それも寂しい話ですね。
吉岡:でもそれが世界の現状です。
吉田:前回、小林ひろ美さんとお話ししていて、香水はデリケートな嗜好品だなと改めて思いました。香りは目に見えないし、極論、あってもなくてもいいものだし。
吉岡:日本人が一番苦手なものですよね。欧米の香水の説明には必ず「sensuous(センシュアス)」とか「emotion(エモーション)」という言葉が出てきますが、どう考えても日本語に的確に訳せません。日本人の私たちにはない感覚・感情なんでしょうね。本来の香水は西洋人にとってはクラシック音楽で、クラシックな絵画なんです。そして贅沢なものです。私たち日本人は毎日クラシック音楽を聴きますか? ですから日本では本来のあり方とは違うレベルや方法で香りと接することが大事だと思います。そういう意味でも、香りを楽しもうとする雰囲気、ムードが出てきたのはうれしいことですね。
吉田:小林さんにもお話しましたが、特に男性には、その香りをつけるシチュエーションやTPOを先に想定してあげることが普及につながると思うんですね。
吉岡:えぇ、これも弊社で取り扱っている「モリナール オム」という大人の男性向けのメンズフレグランスですが、1から3まで3つの香りに分かれているんですね。それで、日本で売るために、1はプロヴァンスのラベンダーをトップノートにした天然植物の香りで「仕事」用、2は女性好みのウッディ調で「アフターファイブ」、3はタラゴンというハーブや杉の香りをベースに「レジャー、アウトドア」と目的別に設定しました。
吉田:それは吉岡さんが決めたんですか?
吉岡:そうですね。香りの説明だけでは誰もわからないから(笑)わかりやすく設定しました。機能や用途を先に言うとわかってくれますね、これでモテる(笑)とか。
吉田:まさにそうですね。朝・昼・夜に使い分けるとか。スーツにはこれ、ショーツならコレとか。
吉岡:私は、中価格帯でカジュアルに楽しめる、誰にでも使える男性用のフレグランスを普及させたいんですね。業界では加齢臭なんて言ってあおっていますが(笑)、男性への発信はやっとこれからでしょう。
吉田:男性に香水を日常的なものにするための方法ってありますか?
吉岡:男性ファッション誌を読んでいる意識が進んでいる方はもう既に香水は使っていると思うので、そういうものに興味がない人にいかに手に取らせるかですね。
吉田:吉岡さんの会社も売るために何か工夫をされているんですか?
吉岡:最近では、阪急大阪や伊勢丹京都店のメンズフロアにアプローチした結果、香水を置くようになってきていますね。デパートの1階に並んでいても男性は恥ずかしくて買えないですよ。また、東急ハンズやLOFTにもメンズコスメとフレグランスの棚を提案しています。
吉田:確かに、葉巻売場の横などに香水があると手に取りやすいですね。
吉岡:デパートもやっと少しずつ理解してきたようですね。