香道の魅力を探る_3
香道の魅力を探る ~稲坂良弘さんに訊く~
第3回 実際に香りを「聞く」
photo by FUKUDA Emiko
白檀と伽羅の香りを言葉にしてみる
吉田十紀人 稲坂さんからいただいた資料を見ると「聞香(もんこう)」とありますね。
稲坂良弘 そうです。香は聞くものなのです。嗅ぐとは言わないんですね。ですから「聞香」といいます。では実際に「白檀」から聞きましょう。
──白檀を焚いた聞香炉(もんこうろ)が出される
稲坂 お線香は火をつけて燃焼させるのですが、この聞香炉は、灰の中に熱した香炭団が埋め込まれていて、その灰に小さな穴を開け、その上に雲母の板=銀葉(ぎんよう)を置き、香木の切片を載せます。
吉田 その熱で香がたつわけですね。
稲坂 聞香炉を手の上にしっかり載せ、自然体で持って、手の人差し指と親指を「つ」の字にして、聞香炉にフタをするようにかぶせると、ほのかな香りが手の空洞の中にたまってきます。香道ではそれを「三息(さんそく)で聞く」というのですが、左右の鼻、両方の鼻で吸い込みます。と言っても、この順番にこだわることはありません。手が暖かく感じるまで貯めてみてください。
吉田 すごくいい香りですね、甘い。贅沢ですね。他にはない香りですね。
稲坂 この聞香炉で使う香木の切片は上質なもので、一般的なお香やお線香の材料にするものとは、少しランクが違います。
吉田 灰の盛り方がとてもきれいです。
──次に、伽羅を聞く
稲坂 では次に伽羅を聞きましょう。
吉田 白檀とは全く違う香りですね。複雑で‥‥、酸味というか‥‥。
稲坂 吉田さんはさすがですね。昔の人は香りの表現を考えたのですが、人間の味覚の表現に例えるとよくわかるということを知りました。甘い香り、酸っぱい匂いなどですね。この伽羅の香りは、とても複雑で、あるところに甘さが隠れていて、でもちょっと辛みや酸味もあるような、なんともいえない、五味(辛・甘・酸・鹹・苦)が渾然一体となった香りです。
吉田 確かにそうです。聞香炉を使っての聞き方が確立したのは?
稲坂 香木の鑑賞法として間接の熱でゆっくり香りを賞味するというのは、室町時代ですね。香道で使われる香木は「伽羅」や「沈香」などがあり、それらは6つの産地からの名称で分類されます。それを「六国(りっこく)」といいます。それを聞き分けるというのが愉しみとなりました。聞き分けることはある種の知的ゲームでもあり、香を順に聞いて、その違いを当てる「組香」というものがあり、その代表的なもののひとつが『源氏香』です。
吉田 先人は遊びにまで到達しているわけですね。すごいな。
稲坂 現代人とは比較できないほどの教養の持ち主が愉しまれたのでしょうね。
吉田 もう一度、伽羅を聞いていいですか?