香道の魅力を探る_4
香道の魅力を探る ~稲坂良弘さんに訊く~
第4回 和の香りの真髄に静かに酔う
photo by FUKUDA Emiko
香木の世界は、ヴィンテージワインに似て
吉田十紀人 やはり伽羅はなんとも表現のしづらい香りですね。いわゆる「和の香り」と言った場合はどんなものが挙げられるんですか?
稲坂良弘 日本のお香の原料は、まず、伽羅を頂点とする「沈香」があります。そしてインドネシア原産で、インドに最高のものがある「白檀」、以上が“香木”系ですね。そのほかに、薬・香辛料・香の原料となる“漢方生薬”があり、よく知られている桂皮、丁字、大茴香などを始め、何十種類もあります。あとは、「乳香」や「没薬(もつやく)」などアフリカ北東部アラビア半島の灌木の樹脂系などもありますね。
吉田 動物性香料はどうなんですか?
稲坂 麝香(じゃこう)や竜涎香(りゅうぜんこう)は、本当に微量の隠し味程度ですね、使っても。
吉田 そうなんですか。
稲坂 日本香堂から新しく発売された『青雲アモーレ』という商品は、イタリア人デザイナーを起用し、谷川俊太郎さんの「愛」という詩が入っているというユニークなものですが、心がやすらぐのと同時にときめき感を与えるための愛を感じる原料として竜涎香(アンバーグリス)を原料に加えています。形状はお線香ですが、ルームフレグランスとして焚いていただけるものです。
吉田 お線香の種類も実にいろいろありますね。いわゆるお線香は何年ぐらいからあるものなんですか?
稲坂 現在のお線香の形になったのは、意外に最近で江戸時代です。400年ほど前ですね。それ以前は刻んだ焼香や丸薬状の練香という形です。
吉田 形状の説明をしていただけますか?
稲坂 皆さんがお線香といわれる「スティック」は、燃焼効率が良くて、均一に香りが広がるという特長があります。円錐状のコーン型は、燃えるほど燃焼面積が増えるので、短い時間に広い空間を香らせるのに適しています。あと、渦巻きは長時間燃焼するタイプです。ちなみに、スティック1本の長さは全国ほぼ同じですが、これはお経1巻を読むときの長さから定まったと言われます。
吉田 なるほど、わかりやすい。
稲坂 私どもの店では、物を売っているわけではなく、物が心にもたらす作用やイメージをご説明しています。お線香では極端に安いものでは、2把入り38円というスーパーの商品から、香十で扱っている60本一束21万円という手作りの最高級品もあって、最終的にはお客様が何を求められるかということですね。
吉田 ヴィンテージワインとハウスワインに似ていますね。いい葉巻にも似ています。香らせ方も違うのでしょうか?
稲坂 お線香は、使っているときに香りが漂うようにできているのに対し、お香は、燃え尽きた後に香りが残ることを大切に調合されています。
吉田 それはもちろんプロがいらっしゃるわけですね。
稲坂 ええ、日本香堂(香十)の研究所の主任調香師は、香料メーカーの研究所の所長を務められた方で、「晩年はこれまで手がけたことのなかった和の香りを」と言われていました。若いときはフランスのグラスでパフューマーを経験されている方も多く、最後に和にたどり着いたわけです。和の香の世界で思いもかけない新しい世界をつくることができるのは、お線香の延長ではない人なんですね。
吉田 僕も、日本の良い香りというのを日常的にカラダに纏えれば素敵だろうなと思います。香りはもちろん、パッケージなども日本の美を意識したいですね。パフュームづくりがさらに具現化したときに、ぜひ調香師さんに香りの調合のことをお尋ねしたいと思います。よろしくお願いします。