「セブン バイ セブン」が提案する、ラグジュアリーホテルの新しいカタチ 仕掛人デイビット・ミスキン氏に訊く
LOUNGE / TRAVEL
2025年1月31日

「セブン バイ セブン」が提案する、ラグジュアリーホテルの新しいカタチ 仕掛人デイビット・ミスキン氏に訊く

seven x seven | セブン バイ セブン

ランボルギーニやサムスン、マリオットなど、世界的企業のクリエイティブをリードしてきたデイビット・ミスキン氏。近年は霞ヶ関キャピタルと組み、新業態のラグジュアリーホテル「セブン バイ セブン」を立ち上げた。自身が本格的にディレクションを手掛けた昨年10月にオープンした石垣島で、ラグジュアリーホテルの革新的なビジョンについて話を聞いた。

Text by KAWSE takuro  Photo by OPENERS

華々しいキャリアの出発点は意外にもアパレルファッションだった

「1992年、私はまだ駆け出しでニューヨークのGAPでアルバイトをしていました。当時のGAPは今とは違い、若者に人気の個性的なブティックでした。ある日、VMD(ビジュアルマーチャンダイザー)の担当者が欠勤して、代わりに私がショーウィンドウのディスプレイを任されることになったんです。基本的にはマニュアルどおりに陳列しただけでしたが、唯一マネキンのスタイリングだけ自分なりにアレンジしてみました。たまたまそれが当時のCEOの目に留まり、『これこそがブランディングだ!』と高く評価されたのです。その出来事がきっかけでVMDのリーダーに抜擢され、私のキャリアの第一歩を踏み出すことができました」

ファッション小売業から世界最大のマーケティング会社へ

その後、デイビット・ミスキンは大手マーケティング企業アイリスに職を移し、さまざまなプロジェクトに携わる中で、特に印象深かったのが「ランボルギーニ」のリブランディングだったという。「高級スポーツカーとしての確固たるポジションを保ちつつ、現代的なアプローチでブランドイメージを一新する必要がありました。イタリア生まれのブランドでありながら、親会社はドイツのフォルクスワーゲン。二つの異なる文化と伝統をどうマッチングさせ、ブランドとしての統一感を打ち出すのかに頭を悩ませました。最終的には、単なる自動車メーカーの殻を破り、ラグジュアリーブランドとしての揺るぎないアイデンティティを確立することに成功しました」。ブガッティやティファニー、サムスンなどのグローバルブランドでの経験も彼の糧となっている。

活動の拠点を日本へ移し、本格的にホテル事業のクリエイティブに

その後も有名ブランドのイメージ戦略にたずさわり、世界中から声がかかる。そんななか、デイビット・ミスキンは霞ヶ関キャピタルとタッグを組み、日本でのホテル事業に乗り出したのは3年前のこと。「日本の美意識には常に驚かされます。空港に降り立った瞬間から、街中が清潔で快適。そこには日本人特有の美意識が息づいている。それは海外の人間の目から見ても極めて稀有で価値あるもの。私は日本のそうした美学に心から敬意を払っています」
ホテル事業でも、土地の歴史や文化を理解し、一過性のものではなく、長年にわたって作品として続いていくために我々の経験してきた感性という新しい要素をプラスしていくことが私の仕事です」

神社仏閣から感じ取ったエネルギーがホテル名の決め手に

新しいホテルのネーミングについて、「7という文字に着目しました。この数字は世界的にラッキーナンバーとして知られています。さらに私は、日本の文化に触れる中で日本においても7が特別な数字として扱われていることを知りました。7日が1週間、7つの海、7つの音階、7色の虹、7つのチャクラ。偶然にも、私がこれまで手がけたプロジェクトにも7にまつわるものが多かった。そこで、縁起の良い7を二乗することで、ゲストにより多くの幸福を届けたいという思いを込めたのです」と語る。立地については、「糸島に続き、石垣島の自然美と独特の豊かな文化、純粋に育まれてきたこの島の人たち、そして観光地としての国内外からの人気の高まりに着目しました。島の方々の雇用も生まれ、ビジネスへも繋がるこの地で本当に特別なホテルが創れると確信したのです」

デイビット・ミスキンが提案するセルフホスピタリティとは?

デイビット・ミスキンがこのホテルに込めた思いは、「セルフホスピタリティ」という革新的なコンセプトに凝縮されている。「従来のホテルとの決定的な違いは、ゲストの主体性を究極的に尊重する点にあります。ゲストが自分だけの滞在スタイルをプロデュースできるよう、多くの選択肢を用意し、滞在をカスタマイズできるようにしました。
ローカルの方々おすすめのアクティビティや特別なアレンジメントから、島の絶景を堪能できる設計に加え、デザイナーズファニチャーやこれから注目されるアーティストのコンテポラリーな作品を配置することで、ホテル内のどこにいても、刺激はありつつもどことなく落ち着くという、独特の感覚を自然に体へと入ってくるようなホテル全体のデザイン、館内のユニークな施設の数々まで。DJブースを備えたナイトラウンジ、この地域で人気急上昇中のサウナ、インフィニティプールに海を望むプライベートジャグジーなど、年齢も時間帯も問わず思い思いの過ごし方ができるのです」
建築やインテリアのあらゆるディテールにも、彼のこだわりが反映されている。「現地の石材や木材をふんだんに使い、室内にいながら石垣島の自然を体感できるような設計を心がけました。『ここでしか味わえない何か』を感じてもらえる空間づくりに腐心しましたね。
おもてなしの形にも既成概念にとらわれない発想を取り入れています。老若男女問わず多彩な過ごし方ができることがとても重要で、スタッフが過剰に介入するのではなく、ゲストの欲求を見極めて、繊細かつ個別最適化されたサービスを提供する。それが私たちの目指す『セルフホスピタリティ』の真髄なのです」
彼が提唱するのは、ラグジュアリーの新しい定義だ。「現代のラグジュアリーに求められるのは、単なる豪華絢爛さではありません。オーセンティシティ、パーソナライゼーション、サステナビリティの3要素が不可欠です。そして何より、細部に至るまで徹底的に磨き上げられ、思慮深く計算し尽くされていること。従来のステイタスシンボル的なラグジュアリーから脱却し、より包括的で個人に最適化され、ローカルと環境に配慮したホスピタリティへと深化させていく。古いものを大切にしながら、新しい感性を吹き込んでいく。石垣島の比類なき自然美と文化、そこに根差した『セブン バイ セブン』だからこそ成し得る価値提案です」と力を込める。

地元の人々を巻き込みながらさらに魅力を高める

最後に、デイビット・ミスキンは石垣島の将来展望についてこう語った。「日本の美しい離島という稀有な立地は、私たちにとってラグジュアリーホテルの常識を覆すチャレンジの場であり、大きなビジネスチャンスでもあります。旅行者だけでなく、この土地で暮らし、誇りを持つ人々にも愛されるホテルになることで、地域社会に活力を与えていきたい。スタッフ一人一人とのフランクなコミュニケーションを大切にし、ゲストに心からの笑顔と安らぎを届けること。そのために一番大切なのは、些細なことにも目を配り、相手の心の機微に寄り添うことだと私は考えます。ここを訪れるすべてのゲストにとって終生忘れ得ぬ思い出となるような、かけがえのない時間と空間を提供する。それが私たちの使命であり、究極の目標なのです」
たしかに不思議と心地良く、また訪れてみたい滞在先が、ひとつ増えたのは否めない。
デイビット・ミスキン
Netflix、Bentley、IHG Hotelsなどをクライアントに持つロンドンのグローバルマーケティングエージェンシー アイリスワールドワイド ノースアメリカのカルチュアルアセッツCEO、Moxy Hotels、AC Hotels、EDITIONなどの代表的な施設の開発で知られるライトストーングループCMO、世界最大級の不動産デベロッパー、ジェネラル グロース プロパティーズ/ブルックフィールドプロパティーズのクリエイティブ&ブランド戦路担当VPなど要職を歴任。企業だけではなく、世界的に有名なブランド、著名人のブランディング、クリエイティブディレクションを手がける。2023年東京に拠点を移し、霞ヶ関キャピタル株式会社でチーフクリエイティブディレクターに就任。新たなラグジュアリーホテルの開発を主導している。
                      
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