穂積和夫の形拵え覚え書き

第2回 まずは浴衣を着てみよう(1)

第2回 まずは浴衣を着てみよう(1)

粋なキモノの着こなし方を、イラストレーターの穂積和夫さんが提案する本連載。2回目は、いよいよ実践編として浴衣をとりあげます。どこで手に入れるか、どうやって着るのか、そして粋なポイントは?文とイラストレーション=穂積和夫小さめの総模様がこなしやすい今回はいきなりキモノを着るところから実践しよう。まずはこれからの季節、いちばん簡単かつ基本としての「浴衣(ゆかた)」から始めることにする。とりあえずどこかの呉服屋へ飛び込む。浴衣の反物を見せてもらって、採寸して仕立てを頼む。反物と仕立賃それぞれ1万円くらい。デパートでもいい。浴衣は原則として木綿地で裏はない。洗いさらしてくると、だんだん柔らかくなってくる。散々着たあとは、むかしはほどいて赤ん坊のおムツにしたものだ。デパートでは既製品も売っているから、標準体型の人ならこれでも十分。仕立て上がりだから、買ってすぐ着ることができる。あまり派手じゃない小さめの総模様などの方がこなしやすい。最初から大柄なつなぎ模様などで粋がっても、着方がおかしければ...
第3回 まずは浴衣を着てみよう(2)

第3回 まずは浴衣を着てみよう(2)

イラストレーターの穂積和夫さんによる大人の男のキモノ入門。これからの季節にぴったりな浴衣の着方を伝授します。文とイラストレーション=穂積和夫浴衣の着方まず肩に羽織って(1)片方ずつ袖を通す(2)。袖先を指でつまんで左右にピンと引っ張り(3)、背縫いの線が背中の中心線にくるように揃える。つぎに両方の衿先を前で合わせ(4)、いちど左上前を広げておいて、右下前を左腰骨の位置に決める(5)。つづいて左上前を右腰骨の位置に引きつける(6)。ここで下締めの細紐で腰骨のあたりを締めて結んでおく(7)。ひと結びして左右にからめると帯をしたときにゴロゴロしない。帯の選び方、まわし方つぎは帯。簡単なのは兵児帯で、さっき締めた細紐の上からグルグル2回ほど巻いて後ろで蝶結びにする。材質は化繊もあるが、やっぱり絹がいい。縄みたいにヨレヨレにしないで、ある程度畳んでおいてから結ぼう。帯幅が太くなると子供っぽく見える。長さが短いようだったら(つまりお腹が太い場合)、片結びに結ぶ。帯は前で結んおいて後ろにまわして...
第5回 角帯の結び方(1)

第5回 角帯の結び方(1)

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」をイラストレーターの穂積和夫さんが解説します。その第5回は角帯の結び方。今回は前編、一般的な「貝の口」の結び方を学びます。文とイラストレーション=穂積和夫キモノの着こなしは、帯結びで決まる隅田川の花火を見に行った。地下鉄銀座線は、ゆかた姿の若い女性だらけで、連れの彼氏もゆかたを着ている若い衆が多い。ところが、どうもゆかたの着こなしがおかしいのだ。前回書いたように、ウエストに帯を締めて、スカート広がりになってるのが多かった。 わたしは初めてキモノを着たときも、あまり考えないで何とかうまいこと着ることが出来たが、キモノにイメージのない人は、なるほどこういうことも判ってないんだなあ、ということに気がついた。キモノの着こなしは、まず帯結びで90%が決まる。そこで今回は角帯の結び方について書くことにしよう。多少の違いはあるが、角帯には一定の長さがある。わたしの持っている帯は、3.8メートルから4.1メートルくらいである(幅はおよそ10...
第6回 角帯の結び方(2)

第6回 角帯の結び方(2)

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」をイラストレーターの穂積和夫さんが解説します。第6回も前回に引き続き、帯のはなし。結んだあとのちょっとしたコツを教えていただきます。文とイラストレーション=穂積和夫 前回の結びは、いちばん一般的な「貝の口」という結び方である。このほか「片挟み(かたばさみ)」というのがある。浪人が着流しの時にこの結び方をしたらしく、一名「浪人結び」ともいう。眠狂四郎の映画などでお馴染みである。これは貝の口をやや簡略化したようなものだが、結び目というより、挟んだ部分が平らで案外ほどけにくい。 わたしは最初に解説図を見ながら「貝の口」の結び方を覚えたので、いまだに前で結んでから後ろへ回すことにしている。慣れればはじめから後ろで結ぶことが出来るそうだ。前にも書いたが、帯を回すときは時計回りに回すのが原則。反対に回すと着崩れする。そのほかに、神田結びとか、袴を着けるときの結び方があるが、これはその都度解説することにしよう。帯はネクタイと同じ...
第7回 いよいよ袷のシーズン

第7回 いよいよ袷のシーズン

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」をイラストレーターの穂積和夫さんが解説します。第7回は袷のキモノのはなし。夏から秋に季節は移り、いよいよ本格的な和服へと衣替えです。文とイラストレーション=穂積和夫最初のキモノ秋十月、それまでの単衣(ひとえ)から、いよいよ袷(あわせ)に衣替えをすることになる。袷とは、つまり裏地のついたキモノで、秋、冬、春と長いシーズンを着ることになる。 夏は簡便な浴衣からはじまったが、袷となると本格的な和服そのもの。まず生地を選んで仕立てを頼むところから出発する。ほんとうは、もう少し早い時期、八月の半ば過ぎか、九月の頭くらいに注文しておくと、仕立てるほうもゆっくりと丁寧な仕事をしてくれるはずだ。生地はまず絹。色々種類がいっぱいあるが、どういう場所へ着て行くかで、選び方があると思う。つまり、洋服でいうと、比較的フォーマル用なのか、カジュアル向きなのか、ここのところをはっきり考えなくてはならない。フォーマル用としては黒羽二重の紋付き、なんていう...
第9回 キモノを畳む

第9回 キモノを畳む

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」をイラストレーターの穂積和夫さんが解説します。第9回はキモノの畳み方のはなし。他人まかせにせず、自分で後始末をするための、その方法についてお話しをうかがいます。文とイラストレーション=穂積和夫キモノに対する愛着も、これでなお深くキモノを着ようと思ったら、着た後の後始末も出来なくてはいけない。他人まかせではなく、必ず自分で始末するクセを身につけよう。その方がよりキモノに対する愛着も湧くし、汚れやほころびなども常にチェック出来る。 まず、キモノを着た後は必ず衣紋竿(衣紋竹ともいう、いうなればキモノ専用のハンガーだ)に掛けて一晩吊して湿気を乾かしておく。洋服のハンガーは撫で肩にできているから、うまく掛からない。衣紋竿はキモノの肩幅いっぱいの一本ものが使いやすく、一本は持っていたいものである。伸び縮みするものや半分に折れるものもあるが、これはどちらかというと旅行用として便利だ。 わたしは長襦袢、キモノ(長着)、羽織を重ねて掛けるこ...
第10回 和服のコート

第10回 和服のコート

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」を、イラストレーターの穂積和夫さんが解説します。 第10回は、和服のコートのはなし。その種類やこの季節の防寒対策についてお話しいただきます。文とイラストレーション=穂積和夫二種類の和服用コート冬の厳寒期はキモノだけでは寒い。どうしてもコートが必要になる。今回は、遅まきながらいちばん一般的な和服コートについて考えておこう。いちばん一般的なコートは「角袖(かくそで)」という和服専用のコートだろう。角袖は、衿もボタン合わせも洋服のレインコートと似ているが、袖も袖付けも和服の作りになっている。袖口は袖丈いっぱいに開いた広袖もあるが、キモノとおなじように袖開きは小さいものが多い。生地はそれこそいろいろあって、ウールでも厚地、薄地、色や柄物もある。デザインによってはグレーと黒のリバーシブルもある。どんな品物があるか、どれが自分の好みに合っているか、まずはデパートの和服コート売り場などへ行って自分の目で直接確かめて見るのがいいだろう。価格は10...
第11回 足袋を履いてみよう

第11回 足袋を履いてみよう

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」を、イラストレーターの穂積和夫さんが解説します。 第11回は、足袋のはなし。洋服のソックスとちがい、つねに人の目にさらされるものなので、その選択や履きどころなどをちゃんとわきまえて臨みたいもの。文と写真=穂積和夫コーディネイトのキモは足元に着物を着たときの足もとには、夏場の浴衣がけのとき以外はまず足袋を履くというのがキマリだ。年中、下駄や雪駄を履き慣れていないと、素足ではどうしても「鼻緒ずれ」が出来やすい。足袋は一年中を通して和服の必需品なのである。白足袋足袋には白足袋とそれ以外の色足袋がある。白足袋は冠婚葬祭のときとか、やや改まった場面に履くフォーマルな気分のものと思えばいいと思う。邦楽や舞踊の発表会の舞台では、たとえ「浴衣ざらい」のような場合でも白足袋を履くのが常識だし、お茶席に出席するときも白足袋だ。夏場なら白麻の足袋がいい。おかしいのはこの茶道の場合で、洋服で茶席に出る場合もキモノに準じて白いソックスを履くように指定されて...
第12回 履きもので差をつける

第12回 履きもので差をつける

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」を、イラストレーターの穂積和夫さんが解説します。 第12回では、下駄や雪駄などの履きものをとり上げます。坂本龍馬を気取るのもいいけれど、キモノにはやはり和風の履きものが似合うのではないでしょうか。文と写真=穂積和夫龍馬の革靴、女学生の編み上げキモノを着たときは、やっぱり和風の履きものを履くのが常識。といって別に靴を履いてはいけないという決まりがあるわけではない。坂本龍馬なんか紋付き袴に靴を履いて大小を差してチャンと銅像にもなっている。いわば当時の最先端のハイカラ・スタイルだ。女子大生の卒業式というと、むかしながらのキモノに袴というスタイルが多いが、これに靴を履いている子も多い。これは明治時代以来のスタイルで足首までの編み上げブーツが通り相場だった。下駄でカラコロ履きものでまずいちばん一般的なのが下駄。わたしも子供のころはもっぱら下駄だった。小学生になっても夏場は下駄履きで登校した。高校生になると朴歯(ほおば、桐の台座に朴の歯を挿し...
第4回 夏は単衣のキモノではじまる

第4回 夏は単衣のキモノではじまる

第4回 夏は単衣のキモノではじまる男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の基本のキをイラストレーターの穂積和夫さんが解説します。 その第4回は、夏もの=単衣のキモノのあれこれ──。文とイラストレーション=穂積和夫袷から単衣に──衣替え前回で、ひとまず浴衣を着ることが出来るようになったところで、次の段階に進みたいところだが、その前にまず、和服には「衣替え」というしきたりがあることを知らないといけない。和服というものは、本来季節にうるさいものなのだ。冬から春と、いままで「袷(あわせ、裏の付いたキモノ)」だったのが、6月1日を期していっせいに「夏もの」に変わる。キモノはこの日から単衣(ひとえ、裏を付けないキモノ)に着替えることになっている。戦前はこの日、小学生、中学生、女学生(いまの女子中、高生)お巡りさんなど、洋服でもみんな白っぽい夏服になるから、夏が来たのを目で確かめて実感できたものだ。いまは地球温暖化が進んで、そんなこともいってられなくなった。暑ければもっと早く単衣の夏物を着ても問...
第8回 羽織の周辺

第8回 羽織の周辺

第8回 羽織の周辺男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」をイラストレーターの穂積和夫さんが解説します。 第8回は羽織のはなし。羽織紐や羽裏の選び方など、羽織にまつわるあれこれについてお話しいただきます。文とイラストレーション=穂積和夫羽織紐羽織を着る場合には「羽織紐」が必要だ。絹の組紐だが、丸紐、平織り、太いのから細いのといろいろあって、羽織、キモノ(羽織に対して長着とも呼ぶ)との取り合わせが問題になる。とくに羽織紐の色をうまく合わせなければならないから、コーディネート感覚が要求されることになる。ここいらへんはネクタイとよく似ている。羽織の左右の衿には乳(ち)という小さな輪がついていて、ここに羽織紐をくぐらせて固定し、前で結ぶのだが、乳はごく小さいから、くぐらせるためには紐の方の一端の輪(ツボ)がある程度長めじゃないと固定することが出来ない。羽織紐が初めからキチンと結んであってほどかない場合には、そのために小さなS環で乳と紐を連結する。これがごく一般に行われている簡便...
大人の男こそキモノが似合う/第18回 「袴をはく」

大人の男こそキモノが似合う/第18回 「袴をはく」

第18回 袴をはく男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」を、イラストレーターの穂積和夫さんが解説します。 第12回では、下駄や雪駄などの履きものをとり上げます。坂本龍馬を気取るのもいいけれど、キモノにはやはり和風の履きものが似合うのではないでしょうか。文とイラスト=穂積和夫男の礼装は、一般に「羽織袴」と言われるように、「袴をはく」のが一つの常識になっている。礼装の場合でなくとも、袴をはくことによって男のキモノ姿は風格が上がり、見た目にも男らしくシャキッと恰好よく見える。現代の袴は、江戸時代の武士の略礼服ともいうべき裃(かみしも)の、ボトムとして着用されてきた「半袴」からきている。忠臣蔵の松の廊下などではいている長袴を簡略化したものだ。しかし袴をはくのは武士だけで、前回に書いたように、町人は苗字帯刀を許されたものしか着用できなかった。明治になってこの規制が緩和され、ようやく一般化されるようになったのである。着る者にとっては、袴をはくことによって気分が引き締まり、自然と姿...
第1回 キモノって何だ?

第1回 キモノって何だ?

第1回 キモノって何だ?オリンピックの開会式の入場行進で、アフリカや中近東の選手が民族衣装を誇らしく着ているのを見ると、日本選手団にはがっかりさせられる。「着物」という世界に誇る美しい衣裳があるのにと、奇妙きてれつなユニフォームを見て想う。これだけ優れたファッションショップや情報が身近に備わってなお超えられない壁、それが着物の世界。きっと一歩踏み出してしまえば、それはスーツより絶対愉しい。イラストレーターの穂積和夫さんが導く、大人の男 × きものワールド。まず心から“粋”に染めてみよう。文とイラストレーション=穂積和夫『市田ひろみ 京のきもの語り』市田ひろみ著 穂積和夫画(草思社刊)より転載キモノにはまったキッカケ「あなたは、なんでキモノを着るんですか?」という質問をされることがある。そういうときは「あなたは、なんでキモノを着ないんですか?」と逆に質問することにしている。質問と同時に答えにもなっているというわけだ。わたしはキモノが好きで、なにかあるとキモノで出かける。常々どうせ着る...
第13回 夏へ向けて衣替えの季節 および、キモノ一問一答

第13回 夏へ向けて衣替えの季節 および、キモノ一問一答

第13回 夏へ向けて衣替えの季節男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」を、イラストレーターの穂積和夫さんが解説します。 第13回は、衣替えのはなし。そして今回は特別に、これまでに寄せられたキモノに関する質問にお答えいただきます。文とイラストレーション=穂積和夫Photo by Jamandfix単衣の季節六月、いよいよ夏のシーズンがやって来た。六月は衣替え(ころもがえ)の季節、キモノはいっせいに九月いっぱいまで夏物を着ることになる。秋冬春と袷(あわせ)つまり裏地のついたキモノで過ごしてきたが、六月一日からは単衣(ひとえ)つまり裏地のつかないキモノを着るのが、むかしからの日本の習慣だ。とはいっても、最近は地球温暖化のせいか五月も半ばを過ぎると、気温が30度くらいに上がるような夏日が多くなったりするから、一概に習慣を守ってばかりもいられない。早めに夏物を着てもあまりとやかくいわれなくなった。また梅雨どきになると湿気っぽくてうすら寒い日などもあるが、こちらのほうは、いちど衣...
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