第12回 履きもので差をつける
Fashion
2015年5月21日

第12回 履きもので差をつける

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」を、イラストレーターの穂積和夫さんが解説します。

第12回では、下駄や雪駄などの履きものをとり上げます。坂本龍馬を気取るのもいいけれど、キモノにはやはり和風の履きものが似合うのではないでしょうか。

文と写真=穂積和夫

龍馬の革靴、女学生の編み上げ

キモノを着たときは、やっぱり和風の履きものを履くのが常識。といって別に靴を履いてはいけないという決まりがあるわけではない。
坂本龍馬なんか紋付き袴に靴を履いて大小を差してチャンと銅像にもなっている。いわば当時の最先端のハイカラ・スタイルだ。
女子大生の卒業式というと、むかしながらのキモノに袴というスタイルが多いが、これに靴を履いている子も多い。これは明治時代以来のスタイルで足首までの編み上げブーツが通り相場だった。

下駄でカラコロ

履きものでまずいちばん一般的なのが下駄。
わたしも子供のころはもっぱら下駄だった。小学生になっても夏場は下駄履きで登校した。高校生になると朴歯(ほおば、桐の台座に朴の歯を挿した高下駄)だ。

差歯(さしば)というのは足駄(あしだ)や日和下駄(ひよりげた)、吾妻下駄(あづまげた)のように、江戸時代からひろく一般に使われたもので、下駄の歯入れ屋というのが行商に来たものだが、いまでは板前さんの履く「利休」などのほか、ほとんど見ることがない。
台と歯(地面と接する部分)が今のようにひとつの材から刳り抜いた下駄は、薩摩下駄の様式で、明治時代から普及したようだ。

熱海の海岸散歩する「金色夜叉」の間貫一や、「伊豆の踊子」の主人公は朴歯を履いているが、むかしの高校生の典型的な風俗だった。

穂積和夫 Photo02

普通の大人の下駄はだいたい桐下駄で、上等品は柾目の無垢、いまでも会津桐が珍重されている。桐下駄は軽いのが特徴で、東京あたりでは5000円くらいだが、この値段だと「貼り柾(はりまさ)」といって台座の表面だけに柾目の薄板を貼りつけている。ちかごろは歯の部分まで台板に接着したのが多いが、会津の専門店ではそんな安物は売っていないそうだ。

桐下駄の歯は減りやすいので、杢目の数が多い方が高級品だ。会津では杢目が30本も入っているのが1万5000円くらいと、意外に安いらしい。どうせ履くのなら良いものを履かないと足下を見られてしまう。

下駄は日本人の生活と切り離せないはきものだったが、時代とともにいつの間にかあまり見られなくなった。わたしが下駄を履かなくなったのは学校を卒業してサラリーマンになってからで、このころからキモノを着る人も、下駄も陰が薄くなってしまった。

下駄で歩くとカラコロと音がする。これがいいのだ。いちどよその爺さんに呼び止められて「下駄の音が懐かしいですね」なんて言われたことがある。そのかわりホテルなどではイヤな顔をされる。大学などでも下駄履きは禁止だったが、かまわず履いていた記憶がある。いまは下駄の底にゴムみたいなのを貼っているのもあって、これなら音はしないから下駄を履いている気分が損なわれる。

ひさしぶりに下駄を履いたらなんとなく歩きにくいような気がしたが、2、3日で慣れて違和感がなくなった。この歩きにくさを解消するために草履型の「のめり」とか「右京」とかいわれる下駄もあるが、靴底のように踵のほうが高く傾斜しているので、文字通りノメリそうになってあまり快適な履き心地とはいえないようだ。まあ、靴に慣れた現代人には履きやすいかもしれない。

男の下駄にも幅がいろいろあって、広いもので12センチくらいから狭いもので9センチくらいある。むかしは雨の日には足駄を履いたものだが、いまは普通の下駄でもいいと思う。その際には、足袋が濡れないようにつま先を被う「爪革(ツマカワ)」というものを装着する。下駄の前に差しこんで、ゴム紐を後ろ歯に引っかけて履く。これは幅広の下駄だと入らないから幅の狭い下駄にセットしなくてはならない。ノメリの下駄には装着できない。

下駄は角をぶつけると欠けやすいので、角はやや丸く加工してあるが、それを承知でわざわざ角を丸めずに四角いままで履く「マッカク」という下町風の凝った下駄もある。下駄でも雪駄でも、鼻緒が大切だ。キモノや足袋に合わせてどんな色がマッチするか、コーディネートのポイントのひとつなのである。鼻緒の品質もピンからキリまであって、これひとつで値段が違ってくる。

穂積和夫 Photo03

雪駄チャラチャラ

雪駄(せった)は草履の一種だと思っていい。ちょっと大人の雰囲気が楽しめる。畳表に革底で裏に鋲が打ってあるから歩くとチャラチャラと音がする。正装の時には雪駄が用いられる。

雪駄も安物はいけない。値段は2万円以上と考えていただきたい。高級品は畳表の目がこまかく詰まっていて見た目にも恰好いいが、4、5万するものもある。安い雪駄の代表はビニール表だが、年に一度のお祭りの時などはこれでもいいかもしれない。神主や坊さんも白革鼻緒の雪駄を履くが、ビニール製なんか履いてる坊主は、あんまり有難くないね。

ちょっと凝ったものだと、表を薄黒く染めた「カラス」という粋なのもある。鼻緒は正絹、ビロード、印伝の革製などあって、ここに凝るのもキモノを着る楽しみのひとつだ。雪駄の鼻緒は緩すぎると爪先が前に飛び出して恰好が悪い。爪先がチヨイと鼻緒に引っかかるくらいに浅く履いて欲しい。したがって踵は後ろにはみ出してしまう。別にサイズが合わないのではない。これが雪駄の粋な履き方なのだ。雪駄は雨の日には禁物だ。

草履

雪駄より一段落ちるが、歩きやすいのがいい。藁草履、麻裏草履もあるが、減りやすい。今ではゴム底、コルク底などはスニーカーの履き心地で、値段もそこそこなので気軽に履くことができる。

           
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