第4回 夏は単衣のキモノではじまる
第4回 夏は単衣のキモノではじまる
男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の基本のキをイラストレーターの穂積和夫さんが解説します。
その第4回は、夏もの=単衣のキモノのあれこれ──。
文とイラストレーション=穂積和夫
袷から単衣に──衣替え
前回で、ひとまず浴衣を着ることが出来るようになったところで、次の段階に進みたいところだが、その前にまず、和服には「衣替え」というしきたりがあることを知らないといけない。
和服というものは、本来季節にうるさいものなのだ。
冬から春と、いままで「袷(あわせ、裏の付いたキモノ)」だったのが、6月1日を期していっせいに「夏もの」に変わる。
キモノはこの日から単衣(ひとえ、裏を付けないキモノ)に着替えることになっている。戦前はこの日、小学生、中学生、女学生(いまの女子中、高生)お巡りさんなど、洋服でもみんな白っぽい夏服になるから、夏が来たのを目で確かめて実感できたものだ。
いまは地球温暖化が進んで、そんなこともいってられなくなった。暑ければもっと早く単衣の夏物を着ても問題はない。早々に浴衣を着てもだれも変に思わなくなった。
7、8月の盛夏になると、麻の単衣や絽(ろ)や紗(しゃ)のキモノや羽織を着る。これも季節感が曖昧になってきたので早ばやと5月や6月から着ている人もいる。
男の夏のキモノというのは、まず浴衣に代表されるのだが、それ以外の薄手の紬や、粋な唐桟、麻なら上布や縮みなどは、やはりちゃんと夏襦袢を着ることになる。夏羽織まで着る人は少ないが、それだけになかなか格調が高い。
イラストは典型的な盛夏(7、8月)のよそ行き着。
白麻のこまかい絣(かすり)に、黒い紗の夏羽織。旦那風で、透けて見えるとろがオシャレだが、着ている当人は見た目ほど涼しいわけではない。
白足袋に雪駄(せった)。
品物の良さを知る練習
さて、夏ものから再び袷に衣替えするのは10月だから、それに合わせて次のキモノを考えたほうがよさそうだ。
キモノ道楽は金がかかるといわれるが、お洒落を楽しむつもりならある程度はやむを得ない。
わたしの場合は、だいたいお召しなり紬なり、袷のキモノ、羽織とも上限を20万円前後と考えている。両方で2、30万で上がれば、テーラーで良い仕立てのスーツを誂えるくらいの値段と対応するというわけだ。
店によっては反物の値段札に仕立て上がりの金額を表示してあるところもある。木綿、ウール、ポリエスターなどならもっと安い。
キモノの良いところはブランドがないことだ。いや、ないわけじゃなくて織物の産地自体がブランドになっている。無形文化財の職人さんの手織りなんかになると、やはりそれなりの値段がついているが、品物の良さを知っていなければそりゃ高く感じるに違いない。