第10回 和服のコート
Fashion
2015年5月21日

第10回 和服のコート

男のキモノ、その形拵え(なりごしらえ)の「基本のキ」を、イラストレーターの穂積和夫さんが解説します。
第10回は、和服のコートのはなし。その種類やこの季節の防寒対策についてお話しいただきます。

文とイラストレーション=穂積和夫

二種類の和服用コート

冬の厳寒期はキモノだけでは寒い。どうしてもコートが必要になる。今回は、遅まきながらいちばん一般的な和服コートについて考えておこう。

いちばん一般的なコートは「角袖(かくそで)」という和服専用のコートだろう。

角袖は、衿もボタン合わせも洋服のレインコートと似ているが、袖も袖付けも和服の作りになっている。
袖口は袖丈いっぱいに開いた広袖もあるが、キモノとおなじように袖開きは小さいものが多い。

生地はそれこそいろいろあって、ウールでも厚地、薄地、色や柄物もある。デザインによってはグレーと黒のリバーシブルもある。
どんな品物があるか、どれが自分の好みに合っているか、まずはデパートの和服コート売り場などへ行って自分の目で直接確かめて見るのがいいだろう。価格は10万円くらいから。

もうひとつ「二重回し」というコートがある。

明治以来、日本人が和服用コートとして愛用してきたアイテムだが、もともとは「インバネス・コート」としてイギリスが発生の地だ。かのシャーロック・ホームズがツイードのインバネスを着ているので、ご存じの方も多いと思う。
これを黒無地のコート地でそのまま和服のコートとして一般化したのが日本人の知恵なのである。日本では別名「トンビ」ともいう。

二重回しは、袖無しの外套の上にケープを羽織ったような形式で、ゆったりしたキモノの袖にも着ることが出来る。文字通り二重になっているから暖かい。
横溝正史モノの映画の主人公 金田一耕介役の石坂浩二が着ている、といえばおわかりのことと思う。

実は、私も一着持っているが、これは親父の形見で6、70年ほど昔の品だ。
暖かいのは有難いが、全体がちょっと重い。衿には着脱式のラッコの毛皮がついているが、どうも大袈裟なのであまり使ったことがない。

最近でも初詣や年始まわりなどによく見かけるが、近ごろの製品は軽い生地を使って軽快に出来ているようだ。価格は15万円くらいから。

角袖がやや下町風の雰囲気なのに対して、二重回しは山の手風とでもいえようか。
私は角袖のときはハンチングを、二重回しのときは中折れ帽(ソフト)をかぶることにしている。べつに決まりがあるわけではないが、そのほうが何となく気分にマッチするようだ。

角袖

二重回し

和服のコートは、和服の上から着るために袖を通さずに着ることが出来ればいいわけで、マントやケープなども役に立つ。両方とも釣り鐘型だが、丈の長いものをマント、短いのをケープというようだ。
現在はどちらかというと女性用に見かけることが多く、男性用は前記の角袖か二重回しのほうが多く見られる。

そのほかの冬仕度

キモノの襟元はV字合わせになっているから、マフラーは欠かせない。いきなり首にグルグル巻きつけてもよいし、衿に合わせて前で交叉させて羽織紐の下に垂らしてもいい。この時は羽織紐の取り付けにS環を用いると、毛糸編みに引っかかってほつれるから注意が必要だ。

私は寒がりなので、冬の外出時はなるべく暖かく着ることにしている。コートの代わりに毛皮の羽織下(チャンチャンコみたいなもの)を着ることもある。これだと重くないし、羽織を着てしまえば外からは毛皮が見えないのがいい。コートを着なくてもすむから、あまり寒がりでない人にお薦めだ。

家にいるときは、やっぱり「褞袍(ドテラ)」だろう。羽織の代わりに綿入れ半纏(はんてん)という手もある。私は普段はセーターやジーンズで通しているので、家のなかではまずキモノやドテラを着ることは滅多にない。

ただし、年がら年中毎日着ているわけではない。家にいるときはジーンズにセーターだ。それではいつどんなときにキモノを着るのか、つまりキモノを着ようと思ったら、着て行くべき場所が必要なのである。
私の場合は、パーティ、同窓会など、いわゆる「よそ行き」用である。小唄のおさらい会や観劇、和食のお座敷などは、もっぱらキモノである。こういうときに着なければキモノの出番がない。お茶会や邦楽などのイベントにはキモノが似合うし、気分も良い。
キモノを着ようと思ったら着て行く場所もじゅうぶん視野に入れておく必要がある。

           
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