プロダクトデザインの本質を探るトビラ

はじめまして

はじめまして

はじめまして「モノ」は我々にとって単なる道具ではありません。モノをもつことによって心地良さを感じたり、またそれをプレゼントすることによって相手が幸せを感じたり。会話のような直接のコミュニケーションをとらなくても、もつというそれだけで精神に作用する、不思議な力がモノには備わっていると僕は思います。世の中を見まわせば、「他人に見せるためのモノ」に価値を置く時流があります。それを否定はしませんが、自分が欲しいと思うもの、気持ちいいと思うものを身の回りに置くことこそ、モノの本質だと僕は思うのです。またインターネットの普及によって情報収集の効率は爆発的に上がりました。当然、モノの情報も膨大なわけで、だからなんとなく「知っている」というモノが僕にも、皆さんにもたくさんあると思います。しかし、モノというのはそんなに容易に知ることはできません。当たり前のことですが、実際に見て、触れて、使ってみないと良さはわかりませんよね。いろいろなモノを知る楽しさ。そこから実際に見て、使って本当の魅力に触れる楽し...
第1回 究極のデザインは自然?

第1回 究極のデザインは自然?

第1回 究極のデザインは自然?“SNOW FRAKE”(雪の結晶)究極のデザインとは? 連載第一回目からまるで最終回のような大層な見出しを立ててしまいましたが、最初にお断りしておきたいのが、そもそもいちプロダクトデザイナーである僕に、究極を語るなど大それた気持ちはないということです。だからこの連載では、意見を押しつけることのないよう、自分が好きなものについてのアレコレを自由に語らせていただこうと思います。僕が言ったことは僕が言っているだけで、それが正しいかどうかはまた別の話。ですから、読んでくださる皆様には、どうかお気軽にお付き合いいただければ幸いです。では、まずは僕が大好きな“SNOW FRAKE”(雪の結晶)について。同じカタチのものはひとつとてないという雪の結晶。温度と湿度の関係でその形が決まるらしいのですが、ではなぜ六角形になるのかといったことは現在でもわからないそうです。これってロマンがあると思いませんか? 僕は、究極のデザインとはこうした自然が創り出した造形物だと思って...
第2回 アートとデザインの違い

第2回 アートとデザインの違い

第2回 アートとデザインの違いデザインとは制約から生まれるカタチアートとデザインの違いとは何か。その決定的なものは、制約の有無にあると思います。芸術表現は自由であって、キャンバスに絵を描こうと、道ばたで全裸で踊ろうと表現者の勝手。一方でプロダクトデザイナーが皆、好き勝手なことをしていたら世の中がなりたちません。コップをデザインするのなら当然、穴の空いていないデザインを考えないといけませんし、ムダなく水が入った方がいい。スーパーで売ることを考えたらワガママを言って超高級素材を使うわけにはいきませんし、そこそこの価格に押さえなくてはいけない。このように、プロダクトデザインにはさまざまな制約があって、ある程度のカタチは最初から見えているのです。デザイナーはその制約をクリアした上で、心地良く使えるカタチを考えなければなりません。眼鏡に表れるプロダクトデザインのあれこれさて、なんだかマジメくさった話をしてしまいましたが、結局はまた僕の好きなモノについて好き放題語らせていただきますのでお付き合...
第3回 安心感のあるデザイン

第3回 安心感のあるデザイン

第3回 安心感のあるデザイン好きなデザインには「安心感」がある三角形より四角形、五角形より六角形と、僕は偶数からなる図形が好きです。雪の結晶も六角形ですね。なぜ好きかと言われるとこれも感覚的なものなので答えようがないのですが、強いて言うならば僕にとって「安心感がある」からでしょうか。そしてこの安心感という要素はプロダクトデザインにおいても大切なもののように感じます。写真は僕のブランド『M.Y.LABEL』のペンダントです。自分のプロダクトを自分で紹介するというのも小恥ずかしいのですが、スタッフから「好き放題書いてないで宣伝もしてください」とそろそろ突き上げられかねないので、ちゃっかり宣伝させていただきますね。シルバーアクセサリーには宗教的な意味合いでクロスデザインを扱うものが多いですが、僕は単純に図形として好きなので、これをよく使います。なぜ好きかと言われれば例の如く「安心感がある」からなのでしょう。じゃあどうして安心感があるんだよと突っ込まれると困ってしまいますが、無理にこじつけ...
第4回 職人の手仕事

第4回 職人の手仕事

第4回 職人の手仕事アール・デコ期のプロダクトあの頃のアレは良かった、なんて話をすると枯れかけたオヤジのようですが、僕は1920~30年代にかけての「アール・デコ」期のプロダクトが大好きです。この時代はちょうど産業の発展によって機械化が進み、プロダクトの大量生産が飛躍的に浸透した頃。アール・ヌーボー時代のデコラティブなデザインからは一転、当時は機械での大量生産が可能な、いわばデフォルメされたカタチが主流になったんですね。とはいえ今ほど精密な機械があったわけではなく、精度はマチマチ。そこで活躍したのはやはり「職人の手」だったわけです。生産効率を第一とする現在においては、こうした職人の手仕事を感じるプロダクトに出会えることが少なくなってしまいました。機械の精度が上がったのだからいいじゃない、という意見も一理あるでしょう。しかし、我々が職人の手仕事を心地よく感じるのには、人の手の温もりといった詩情的なもの以上に、人間の目の精度が機械のそれを上回っているという根本的な理由があるような気がし...
第5回 「食」にまつわる話 湯豆腐編

第5回 「食」にまつわる話 湯豆腐編

第5回 「食」にまつわる話 湯豆腐編photo by Yuichi Sugita (BIGHE)「椿」モチーフの風流な豆腐杓子冬といえば鍋、鍋がおいしい季節ですね。4回に渡る連載は概要的な意味合いもあったので多少お堅い内容だったかもしれませんが、今後はひとまず力を抜いて、ぼくのもっと身近にあるものを紹介させていただこうと思っています。というわけで、今回のテーマは鍋。その中でも、ちょっぴり雅な匂いのする湯豆腐にスポットを当てたいと思います。鍋グッズというとまさに道具といった庶民的なアイテムが多いですが、これが湯豆腐になると凝ったものがぐっと増える。写真の豆腐杓子も銀のアンティークものです。冬の食べ物だから、モチーフは「椿」。こんなところにも粋を感じますね。そうそう、湯豆腐を愉しむ上でいちばんの野暮は、具材の入れすぎ。小説家、池波正太郎さんも著書の中で小鍋立てには具材を二種類以上入れるものではないと書いていましたっけ。だからぼくは、湯豆腐には、ネギや、場合によっでは蛤を入れるくらいで我...
第6回 「食」にまつわる話 日本酒編

第6回 「食」にまつわる話 日本酒編

第6回 「食」にまつわる話 日本酒編photo by Yuichi Sugita (BIGHE)冬といえば鍋。鍋といえば酒。この時期に飲むお酒は本当においしいものですよね。ぼくは鍋には日本酒が一番だと思っています。和食ダイニングといったところではソムリエバッジをつけたオヤジにワインを勧められることもありますが、どう考えても日本酒の方が合うと思うので、ぼくは意地でも、和食屋のソムリエオヤジには屈しないようにしています(笑)。それはさておき、お酒関連の道具には、趣味性の高いものだけあって、有名無名問わずグッドデザインが数多くあります。シェイカーしかりソムリエナイフしかり。グラスやおちょこなど器も合わせれば、その総数は無限大ともいえるでしょう。「ちろり」、ボコボコの美学!?そんな中から今回取り上げるのは、写真の「ちろり」という道具。お燗をするために用いる錫(すず)製の器です。お燗したお酒はとっくりに移し替え、しかるべき杯と一緒にお客様へお出しするのが本来の姿なので、ちろりはいわば裏方的存...
第7回 「衣」にまつわる話 スキーウェア編

第7回 「衣」にまつわる話 スキーウェア編

第7回 「衣」にまつわる話 スキーウェア編photo by Yuichi Sugita (BIGHE)スキーヤーが着たっていいじゃない!?こんにちは。皆さんは冬を満喫しましたか? ぼくの断然好きな季節は冬です。理由はスキーができるから。次に好きな季節は秋です(冬が近いから)。今シーズンも何度か大好きなスキーを楽しむことができたので、ぼくはとても満足しています。ただ、春の息吹を感じるのはどこか淋しいような気もしますね。ところで、スキーをするときにぼくは、スノーボード用のウェアを着ています。体型に合うとか着心地がどうだとか、そんな深い理由はなく。これって街着をアウトドア用に機能化したようなウェアなので、ファッションの気分ともリンクしている気がするんですよ。スキーだからスキーウェアを、スノーボードだからスノーボード用のをと決めつけなくてもいいんじゃないかな。極限で生まれたディテールには説得力がある さて、このスノーボード用ウェア。パッと見ただけでは分からないと思いますが、防水透湿性に優れ...
第8回 「住」にまつわる話 自動販売機編

第8回 「住」にまつわる話 自動販売機編

第8回 「住」にまつわる話 自動販売機編photo by Yuichi Sugita (BIGHE)身近なグッドデザインというタイトルで連載をやっておりますが、今日はグッドでないゆえに不快な気持ちになってしまうものについて、あれこれ言いたいと思っています。皆さんもともに憤っていただければ幸いです(笑)。自販機統一規格、そろそろつくりませんか?まず憤りたいのは「自動販売機」のデザインについて、です。あると便利、実際、夏場はぼくもお世話になりますが、あの、街並みの何物にも馴染まない外観は何とかならないのでしょうか? 物販が目的だから、より目立たなくてはいけないというのも解ります。しかし、道ばたに置いてよしと許可されている以上、それは公共物。ピカピカ光ったり、ルーレット音が鳴ったり、もう好き放題というのはあんまりじゃありませんか。ぼくはビジュアルだけでも統一感のあるものにすべきだと思うのですが、いかがでしょう? それこそワンダーウォールの片山正通君あたりが手掛ければカッコいい自動販売機が...
第9回 「衣」にまつわる話 春先編

第9回 「衣」にまつわる話 春先編

第9回 「衣」にまつわる話 春先編photo by Yuichi Sugita (BIGHE)寒い日も暖かい日も、雨も晴れもこれ一着で。春。雪が溶け去り、スキーができなくなる季節がやってきました……というわけで自分自身あまり好きな季節ではないのですがそれはさておき、気温が上がるにつれ外出するのが楽しみになってきますよね。ただこの時期は暖かいと思ってたら急に寒くなったり、晴れていたのに小雨がパラついたりと、どうにも着るものに困ります。今回は、そんなときに重宝している一着を紹介したいと思います。写真のシャツブルゾンは『TOKITO 360』というブランドのもの(デザイナーの吉田十紀人は僕の実兄です)。素材がオイルドコットンなので少々の雨なら弾いてくれますし、ウィンドブレーカーとしても使えます。裏地はなく、とにかく軽く羽織れるというのがいい。ディテールに目を向けると衿裏にリフレクターが付いていたり、裾にバタつき防止のドローコードが付いていたりとバイカーズウェアらしい機能が満載ですが、実を...
第10回 「食」にまつわる話 タンブラー編

第10回 「食」にまつわる話 タンブラー編

第10回 「食」にまつわる話 タンブラー編photo by Yuichi Sugita (BIGHE)変える必要がないからデザインも変わらない「とりあえずビール!」と飲み屋で注文する声も、なんだか景気良くなってくるこの時期。同じビールのおいしい季節でも、夏場は何か耐えざる力に煽られて一気に飲み干すような感じがありますが、これが春先だとグラスに継いでしみじみ飲みたくなるような妙な気配の差がありますよね。すると生ビールをジョッキで飲むよりも、瓶ビールをちびちび継ぎながら飲む方が、春らしいし趣深い。そこでちびちびやっている時に、ふと今回のテーマが思い浮かんだのです。全国どの居酒屋、定食屋へ行ってもビールを頼めば出てくるこのタンブラー、一体いつから同じデザインなのでしょうか!? そういえばコイツの存在を気にしたこともなければ、ましてやデザインどうこうについて考えたこともありませんでした。でも、たしかに子供の頃から、大人の宴席には常にコイツがあった。もし誰もがそのプロダクトを必要とし、しかし...
第11回 「食」にまつわる話 タケノコ編

第11回 「食」にまつわる話 タケノコ編

第11回 「食」にまつわる話 タケノコ編photo by SEIJI NOMURAスタイリッシュ・タケノコビールの旨いこの季節(年中ですが……)、一緒につまみたい「旬」の食材といえばタケノコです。タケノコを漢字で書くと「筍」。まさに旬が命の食材というわけなんですね。なんでも暖冬だった今年はタケノコの当たり年らしく、アク抜きをしなくても食べられるほど柔らかく、美味。産地によっては5~6月ごろまで採れるとのことなので、それまで味わいつくさねば!ところでこのタケノコ、眺めれば眺めるほど実にスタイリッシュなカタチをしていると思いませんか? 過保護なまでに厚い皮が重なり合いながらも、どこか整然とした佇まい。そして明日にも天を突きそうな力強いフォルム……生存競争を生き抜くために、土を突き破って一気に成長するために得たであろうその合理的なカタチに僕らは、なにかとてつもなく大切な栄養を中に秘めていることを察しないわけにはいきません。初めて食したご先祖様もきっと、そのカタチからうまそうだと手にとった...
第12回 「住」にまつわる話 花瓶編

第12回 「住」にまつわる話 花瓶編

第12回 「住」にまつわる話 花瓶編photo by Yuichi Sugita (BIGHE)ガラス、透明の魔力道ばたを見やれば軒先のチューリップやガーベラが咲き乱れる、風景も賑やかな季節になってきました。ウィンタースポーツを愛するがゆえに春嫌いな僕ですが、それでも春の花を見れば気分は高揚します。部屋に一輪あるだけで雰囲気が和らぐ、そんな不思議な力が花にはありますよね。そんなわけで、僕は花を部屋に飾るのが好きですし、花を飾る器である花瓶も同じように好きです。自宅ではシャンパンフルートを花瓶の代わりに並べたりして楽しんでいます。細長い透明の器に一輪ずつ花がさされ顔を出している様が、何ともかわいらしく、綺麗なんですよね。写真のガラスオブジェもふだんから花瓶として使っているものです。クリアなガラスの中に、何か生き物のような浮遊物が浮かんでいるような不思議なカタチ。それをなぜ素敵だと思うのか、明確な言葉にすることはできませんが、僕はこの透明な塊に一目で惚れ込んでしまいました。鳥がキラキラ...
第13回 「食」にまつわる話 ソムリエナイフ編(1)

第13回 「食」にまつわる話 ソムリエナイフ編(1)

第13回「食」にまつわる話 ソムリエナイフ編(1)Photo by Jamandfix鳥がなにかをついばんでいるような……これほどお酒のネタが続くと「オマエはどれだけ飲んでるんだ」という話にもなりかねませんが、振り返ればほぼ毎日飲んでいるような気がしないでもない。そんなわけでお酒に関する道具も日増しに増えるばかり……、今回はその中でも大好きな「ソムリエナイフ」にフォーカスしようと思います。上の写真はソムリエナイフを使っていざコルクを抜こうという場面を撮影したものです。唐突ながらこのフォルム、鳥がなにかをついばんでいるところに似ていると思いませんか? 僕はそのコトに気づいた瞬間、ソムリエナイフをとても身近な愛すべきものに感じ、好きになってしまいました。気づけば手持ちがおよそ50個。でも、決してコレクターではありません。僕がソムリエナイフを集めるようになったのには理由があります。以前アパレルブランドの企画の仕事をしていたときに、オトコの粋な小道具であるソムリエナイフをウチもつくろうでは...
第14回 「食」にまつわる話 ソムリエナイフ編(2)

第14回 「食」にまつわる話 ソムリエナイフ編(2)

第14回「食」にまつわる話 ソムリエナイフ編(2)Photo by Jamandfix妙ちくりん。でもニクめないヤツどんな国に、街に行っても必ず金物屋というものがあって、僕はそんなローカルな金物屋を覗くのが好きです。小さな金物屋にはモノ好きなオヤジ店主が必ずといっていいほどいて、秘蔵品のようにお気に入りをストックしている。「コークスクリュー(ソムリエナイフ)ないの?」 と聞けば、嬉しそうにそれを出してくれるんですね。するとこちらも「おっ、こんなのもってないもんね」とついつい買ってしまう。まるで二度とない出会いのように思ってしまうからやっかいです。さておき、連載第二弾は僕の手持ちの中でもちょっぴり異色のタイプを紹介します。バッファローホーンをハンドル素材に用いたシャープなラインの一品 (左) は、フランス製。デコラティブなデザインでありながら、使ってみると意外や優れた操作性なので驚いています。通常、ブレードにはそれを出すためのつまみを刻むものなのですが、こちらのソムリエナイフではつま...
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