第6回 「食」にまつわる話 日本酒編
第6回 「食」にまつわる話 日本酒編
photo by Yuichi Sugita (BIGHE)
冬といえば鍋。鍋といえば酒。この時期に飲むお酒は本当においしいものですよね。ぼくは鍋には日本酒が一番だと思っています。和食ダイニングといったところではソムリエバッジをつけたオヤジにワインを勧められることもありますが、どう考えても日本酒の方が合うと思うので、ぼくは意地でも、和食屋のソムリエオヤジには屈しないようにしています(笑)。
それはさておき、お酒関連の道具には、趣味性の高いものだけあって、有名無名問わずグッドデザインが数多くあります。シェイカーしかりソムリエナイフしかり。グラスやおちょこなど器も合わせれば、その総数は無限大ともいえるでしょう。
「ちろり」、ボコボコの美学!?
そんな中から今回取り上げるのは、写真の「ちろり」という道具。お燗をするために用いる錫(すず)製の器です。お燗したお酒はとっくりに移し替え、しかるべき杯と一緒にお客様へお出しするのが本来の姿なので、ちろりはいわば裏方的存在。ただ、今こうして見ると、現代の食卓にマッチしているのはクラシックなとっくりよりも、ちろりのような気もします。だからぼくは、これをそのまま食卓へ持ち込み愉しんでいます。
写真の3本のうち奥のボコボコの1本は、ぼくが生まれる前から家にあったちろり。錫は手でぐにゃりと曲げられるほど柔らかい金属なので、使っていくうちにこうした凹凸がどうしても出てくるんですね。そもそも、ちろり=錫製であることには、錫が熱伝導率が高く、かつ錆びにくいという理由があります。銅鍋の内側にも錆び防止のために錫が引かれていますよね。つまり、ちろりの錫は完全に機能からなる素材であって、また本来はお客様の前にも出されないはずなので、ボコボコになろうと黒ずもうとそれもまた味なのです。「モノの貨幣価値は希少性に過ぎない」というのが持論なので、錫のこうした質感も素晴らしいものだとぼくは思います。適材適所。当たり前ながら良くできた言葉ですね。