第14回 「食」にまつわる話 ソムリエナイフ編(2)
第14回
「食」にまつわる話 ソムリエナイフ編(2)
Photo by Jamandfix
妙ちくりん。でもニクめないヤツ
どんな国に、街に行っても必ず金物屋というものがあって、僕はそんなローカルな金物屋を覗くのが好きです。小さな金物屋にはモノ好きなオヤジ店主が必ずといっていいほどいて、秘蔵品のようにお気に入りをストックしている。「コークスクリュー(ソムリエナイフ)ないの?」 と聞けば、嬉しそうにそれを出してくれるんですね。するとこちらも「おっ、こんなのもってないもんね」とついつい買ってしまう。まるで二度とない出会いのように思ってしまうからやっかいです。
さておき、連載第二弾は僕の手持ちの中でもちょっぴり異色のタイプを紹介します。バッファローホーンをハンドル素材に用いたシャープなラインの一品 (左) は、フランス製。デコラティブなデザインでありながら、使ってみると意外や優れた操作性なので驚いています。通常、ブレードにはそれを出すためのつまみを刻むものなのですが、こちらのソムリエナイフではつまみやすいようブレードの背を広くしてある。テーパーが強いのです。使いやすさを考慮しつつデザインを簡素にするという工夫が垣間見えます。
中央のソムリエナイフは、前項で紹介した 「ライヨール」 の刻印が見えますが、破格値だった上に質感も明らかにチャチということで、某国製のニセモノ説が濃厚です。写真 (右) はフランス製ですが、素材はおそらく京都で採られた根竹です。根竹とは文字通り根本の方の竹素材をいい、竹のくせに身が詰まっていて空洞がないのが特徴。使い勝手ではほかに座を譲りますが、珍しかったので買っちゃいました。
理に叶ったワザあり形状 “二段階式”
お次も変わりダネ。ソムリエナイフでコルクを空けようとすると、傾ければ傾けるほど、つまりコルクが抜ける瞬間に近くなるほど力が斜めにかかりコルクへ負担がかかります (割れることがある)。これが弱点といえば弱点なのですが、これらのソムリエナイフは支点が二段階式になっています。傾きに応じて支点を変えることで、ムリなくほぼ垂直方向に力を伝え、安全にコルクを抜くことができるアイデア品なのです。カタチはなんだか、南国のオウムのようですね。右列下段の一品などは完全に鳥を意識したフォルムにデザインされています。こういう妙なものを見ると、つい欲しくなってしまうのは悪いクセです。
ちょっと凝り過ぎ!? “ギア式”
二段階式よりもさらに手が込んでいるのがこちらのギア式。傾きに応じて車のジャッキのように無段階に支点を伸ばせるため、常時ほぼ垂直方向へコルクを引き抜いていくことができます。実に理に叶った作戦です。ただ、これらを本職のソムリエが使うことはないでしょう。考えてもみてください。淡いタングステン光に照らされた物静かなレストラン、美しい女性を前に思いきって高いワインを頼んだその横で、ソムリエにカリカリカリカリコルクを空けられたら? 胸のバッヂをむしりとってやりたくなるでしょう。
高機能は、ときとして野暮にもなるのです。