錯誤の経済学

第27章 学問として経済学誕生──国富論を知ることの重要性

第27章 学問として経済学誕生──国富論を知ることの重要性

第27章 学問として経済学誕生──国富論を知ることの重要性文=今 静行古典は生きている──カネ儲け最優先を憂えるいまほど実学的というか、実践的経済学が重宝がられる時代はないといっても決して言い過ぎではないのです。ようするにカネ儲けがすべてという経済が最優先しているのです。儲けるためにはなんでもありです。モラルも企業の社会性も二の次というのが実情です。ここで、もともと経済学という学問はどんなカタチで誕生したのか、出発点はどうであったのか、謙虚に振り返ってみましょう。あれもこれもではなく、私たちの生活にいちばん関わりの深い税金と税収の関係にマトを絞って展開します。いまも生きている、アダム・スミスの名著『国富論』と税金アダム・スミス(1723 - 1790年)はイギリス(スコットランド)生まれの経済学者、哲学者(倫理学者)で経済学の始祖といわれています。おそらく、世界中で日本ほどアダム・スミスの名が広く知られている国はないでしょう。スミスの名著『諸国民の富』が『国富論』という名で訳され出...
第28章 惨たんたる公共事業予算──批判が多いのも事実だが

第28章 惨たんたる公共事業予算──批判が多いのも事実だが

第28章 惨たんたる公共事業予算──批判が多いのも事実だが文=今 静行7年連続の削減景気浮揚策の常とう手段といえば、減税と公共事業を増やすこと。戦後の日本経済はこのふたつに絞って突き進んできました。減税をすれば、浮いたぶんを消費支出にまわすだろう。また心理的にも明るさをもたらすことになるだろう。GDP(国内総生産)の約6割、圧倒的なウェイトを占める個人消費支出が増大し好景気に結びつくという見方です。しかし現状はまったく逆の政策をとっています。これまでの減税措置をやめてモトに戻しています。増税そのものです。さらに消費税の大幅増税が待ち受けています。2、3年のうちに実施することが既定の事実となっています。景気が盛り上がらないのは当然でしょう。それもこれも国と地方あわせて約800兆円にのぼる膨大な財政赤字のせいです。とばっちりは公共事業にもうひとつの景気刺激策となる公共投資関連予算は、これも巨額な財政赤字のせいで毎年削減が当たり前となっています。たとえば平成20年度の公共事業予算は、ざっ...
第29章 罪深い超低金利政策の実態

第29章 罪深い超低金利政策の実態

第29章 罪深い超低金利政策の実態文=今 静行もうひとつのサブ・プライム住宅ローンタダで仕入れて、それにマージンをのせて商売する。売り手は損するはずがない、儲けで笑いがとまらないでしょう。これとおなじような状態が、いまの日本の金融政策です。超低金利が長くつづいています。景気を浮揚させるために、ゼロ同様の超低金利政策を日本政府がとっているためです。金利を低くして企業がおカネを借りやすいようにすれば、それを使って設備投資が増え、生産も上がるだろうという図式です。私たちが銀行、信金や郵便局に預けるさいの金利は普通預金、定期預金を含めて、すべて0%~0.3%台です。0.1%の金利水準なら、10万円を1年間銀行に預けて預金金利100円です。ここから20%の税金を引かれるので、手取り1年間で80円です。コーヒー一杯はおろか、100円ショップでも役に立たないのです。ゼロ金利といっても言いすぎではないでしょう。異常としかいいようのない超低金利ある私立大学の外国人教授(アメリカ人)は、私に向かって「...
第30章 家族意識を分断する──後期高齢者医療制度

第30章 家族意識を分断する──後期高齢者医療制度

第30章 家族意識を分断する──後期高齢者医療制度文=今 静行政府の意図するもの年金から保険料を天引する後期高齢者医療制度の第一回の特別徴収か4月15日から始まりました。極めて評判が悪い。理由は数え切れないほどあります。保険料の引き上げ、医療の低下、国民への周知徹底がないままのスタートに伴う混乱、世界に例を見ない年齢差による医療制度の二分化など、上げればきりがない。ここで大切なのは、政府の意図です。一口でいえば急ぎ足で押し寄せてきている少子高齢化は確実に医療費増大をもたらすので、政府の社会保障費を抑制するために、今回の制度を創設したのです。これが本音です。見落とせないのは“家族意識の分断”考えてほしい。これまでは世帯主が年老いた両親や妻、子供達を扶養家族としてまとめ、健康保険料など支払ってきました。それが75歳以上を後期高齢者と名づけ、家族から切り離した形にして独自の保険証を作成したのです。おじいちゃん、おばあちゃんは、もううちの扶養家族ではないのですという医療制度になったのです。...
第31章 お年寄り泣かせのもうひとつの側面

第31章 お年寄り泣かせのもうひとつの側面

第31章 お年寄り泣かせのもうひとつの側面文=今 静行国民皆保険の誇りはどこへ……日本は国民皆保険の国ということで国民ひとりひとりは誇りを持ち、諸外国からはうらやましがれてきました。しかしここにきて、つまり後期高齢者医療制度の発足でがらり様相が変わってしまいました。後期高齢者の保険料は全国平均で月ざっと6000円、それに介護保険料4000円加わり合計1万円の支出になります。年金収入が月数万円の老人にとっては大きな重荷になります。かつては老人天国といわれたほど、手厚く扱われたのが夢のようです。ここ数年の間に老人医療負担金は入院も外来も増え続けてきております。さらに扶養家族から引き離された75歳以上の老人は200万人もいるのです。なにも後期高齢者ばかりではない。65歳~74歳の「前期高齢者」と呼ばれる人たちも国民健康保険料の天引きが始まるのです。保険料値上げの背景こまったことに65歳前後で定年を迎えた層が急増し、すべての人たちが会社を退職した後、健康保険から国民健康保険に集中してきます...
第32章 円高の正しい見方

第32章 円高の正しい見方

第32章 円高の正しい見方文=今 静行英語では“ストロング円”強いことはプラスに傾く円高で“大変だ、大変だ”という声が政府経済界からことあるごとに流れています。外国為替レートは2007年夏ごろの1ドル=120円台からずっと円高傾向を続け、今年(2008)3月中旬には100円を切り上げ95円台となり、現在は1ドル=100円前後に定着しています。難しい金融用語や外国為替相場用語を英語に置き換えてみると意外に分りやすい。円高はストロング円(強い円)と表現します。円安はその反対ですからウィーク円(弱い円)またはチープ円(安い円)です。いちど聞いたらもう忘れることはないでしょう。“強い”のと“弱い”のとでは、どちらがいいでしょうか。誰もが弱いより強い方に手をあげるでしょう。ごく当然のことです。円高=強い円はつかい手がある円ということです。よく例にされるのですが、アメリカ製のボールペンが1ドルとします。為替相場が1ドル=150円なら、1本につき150円を支払ってアメリカのボールペンを購入できま...
第33章 外貨準備高100兆円超の表の顔と裏の顔

第33章 外貨準備高100兆円超の表の顔と裏の顔

第33章 外貨準備高100兆円超の表の顔と裏の顔文=今 静行外貨準備高の正しい意味を知ろう日本の外貨準備高が現在1兆80億ドル(約106兆円)と過去最高を更新中です。1兆ドル超は中国に次いで世界第2位の水準です。ここでしっかり知ってほしいのは、外貨準備高の正確な意味です。英語で表現すると分かりやすい。[gold and] foreign currency reserveといいます。フォーリン カレンシー リザーブ。リザーブは保有する、残しておくという意味です。したがって“外貨保有高”といい代えたほうが、親しみ易いのです。フォーリン カレン シー=外国通貨のほとんどはアメリカのドルです。より具体的には米国債で日本政府と日本銀行で保有しております。公的資産です。一部ですがユーロ(欧州通貨)とかゴールド(金の地金)なども含まれています。外貨準備高は国が輸入代金の決済を海外からの借金の返済など対外支払いにあてます。これほど外貨準備高(外貨保有高)が激増したのは、政府・日銀が過去におきた円高...
第34章 在日米軍とその家族の日本に寄せる思い

第34章 在日米軍とその家族の日本に寄せる思い

第34章 在日米軍とその家族の日本に寄せる思い文=今 静行在日米軍司令官の本音去る4月中旬、日本記者クラブ(ジャパンナショナル・プレスクラブ)に在日米軍司令官エドワード・ライス(Edward A.Rice Jr.)を招いて昼食会を開きました。生粋の黒人司令官(中将)で、ハーバード大学行政学に留学もしており、その経歴をみるとジェット機の操縦時間も3000時間を多岐にわたっている最優秀の米国軍人です。ことし2月に日本に赴任したばかりです。なぜここでライス司令官を取り上げたのかと疑問に思う人もいるでしょうが、ふたつの面で非常に興味あるお話を聞くことができたからです。ひとつは昼食後の冒頭でライス司令官は「在日米軍とその家族は心から日本に勤務することを喜んでいる。ながい歴史のある日本の文化、風習を学ぶことができ嬉しく思う」と日本で働くことに喜びをあらわしていました。米軍は世界各地に駐留していますがその中にはロケット砲が飛びかったり、テロの恐怖にさらされている地域が多くあります。その点、日本は...
第35章 トヨタ式経営学の再確認

第35章 トヨタ式経営学の再確認

第35章 トヨタ式経営学の再確認文=今 静行従業員教育を最優先トヨタ自動車は自動車生産台数世界一の大企業です。日本を代表するというより世界中に影響力を持つインターナショナルな優良会社です。生産工場はアメリカ、欧州を始め、中国、インドなど、先進国から新興国まで世界中で操業しています。その経営最高責任者である渡辺捷昭社長を囲んで質疑応答する機会が最近ありました。テーマは「グローバル化と再生、循環型社会への対応」です。急激な事業拡大と兵站線が伸びることもあって、リコールに見舞われることもありましたが一件ごとに徹底した原因究明にあたり、販売とサービス部門との連携を深めて対応していることなどをフランクに話してくれました。トヨタ経営を一口で言えば下請けを含めた従業員の“教育”に全力投球していることといい切れます。即戦力、成果実績主義などアメリカ式短期収益型最優先の経営の違いをうかがいしることができました。社員だけでなく下請け企業も一体化したチームワークの大切さに力を注いでいるのです。「愚直、地...
第36章 私のおカネがあり余るほどあってなぜ悪いの?

第36章 私のおカネがあり余るほどあってなぜ悪いの?

第36章 私のおカネがあり余るほどあってなぜ悪いの?──15年振りの消費者物価上昇の受け止め方──文=今 静行やっかいな海外要因によるインフレ総務省の最新発表によりますと、去る5月の全国消費者物価は前年同月より(一年前に比べ)1.5%上昇しました。じつに15年ぶりの上昇になりました。物価の持続的上昇がインフレーションですが、今回の大幅上昇も8ヵ月連続上昇しつづけ1.5%という数字を記録したのです。インフレが生ずる原因は需要超過によるもの、要するに景気が過熱して「品不足」現象が起きるデマンド・ブル(需要)型インフレや大幅な賃上げや原材料高騰が引き金になるコスト・プッシュによるインフレなどいろいろあります。いま起きているインフレは「海外要因」によるものだけに日本のような無資源国にとっては手の打ちようがないというのが実情です。困ったものです。原油100%輸入、食料も60%輸入の日本原油は産業界にとっても私たちの暮らしにとっても最重要ですが、すべて海外に依存しています。日本経済が海外にがっ...
第37章 ピストルが歩いている国「アメリカ」の後進性

第37章 ピストルが歩いている国「アメリカ」の後進性

第37章 ピストルが歩いている国「アメリカ」の後進性──個人が武器で身を守る姿勢に、世界各国は違和感を強める──文=今 静行アメリカは異種な国の極まりといえるアメリカは国家誕生のいきさつもあって、憲法で個人がピストル(鉄砲も含めて)を所有することを認めている唯一の国家です。経済面では成果主義、実績主義が徹底しております。平たくいえば、先輩は後輩のいいとこ取りし、後輩は先輩を出し抜いて成績を上げるということです。日本もこのようなアメリカ型資本主義に影響を受けてきましたが、ここへきて終身雇用制の大事さを改めて認識する企業が増えてきており、心のある日本型経営の良さが真剣に見直されています。気がつくのが遅かったくらいです。日米社会の最大の違いは、個人が武器を持つか持たないかの一点につきます。徹底した自己本位、個人主義のアメリカは、自分の命を守る為にピストルを所持することを認めているのです。アメリカの良識層は政府に押さえこまれているもちろんアメリカにもカバンにピストルを入れて身を守るという後...
第38章 インフレーションの本質と恐さ

第38章 インフレーションの本質と恐さ

第38章 インフレーションの本質と恐さ――蓄えたおカネも確実に目減りする――文=今 静行“よくないこと”という言葉の響き「インフレーション」という言葉の響きを、ひとりひとりがどう受け止めるかということは、大変重要なことです。恐らく全部といっていいほど、多くのひとたちは“よくないこと”と理解し、認識していると思います。インフレと聞いただけで、第一次オイルショック(1973年10月、1バレル当たりの石油価格が3ドルから11.7ドルに値上げ)、続いて1979年~80年の第二次オイルショック時には約36ドルになりました。あのいまわしい狂乱物価を生み出しました。別稿で取上げますが、現在(2008年7月)は1バレル当たり140ドル台にはね上がり、世界経済をゆるがしています。確かにインフレは「不安と苦しみ」の代名詞です。インフレの本質を身近に理解させるために、何はともあれ次の話を紹介しておきましょう。牛に無理やり水を飲ませて市場へ──インフレの原点昔、イギリスの牧畜業者が牛をせりに出すとき、その...
第39章 社名変更は安易すぎないか?

第39章 社名変更は安易すぎないか?

第39章 社名変更は安易すぎないか?――松下電器産業の場合――文=今 静行社名は姓名ほどに重いもの日本を代表する家電メーカーの松下電器産業は今秋(08年)10月から社名を「パナソニック」に社名変更することになりました。現在でも「経営の神様」としてしたわれている、故・松下幸之助氏が松下電気器具産業製作所を設立して、今年で90周年になります。「松下」と長く言われてきた創業者の名前が社名から姿を消すことになったのです。現在の経営陣は、一丸となってパナソニックの名前の下に結集して、さらに強いブランド力を世界市場に築いていこうと宣言しています。社名の重さ、軽さ「松下」の名が消えることに違和感を持つ人も多いはずです。創業以来1世紀近くも続いた社名は消費者の間にも浸透しています。それだけではないと思います。社名は個人の姓名と同じようなものという捉え方ができます。創業100年、200年と続いている企業はまだかなり存在し、うちの「のれん」を守ろうと労使一丸となって頑張っているのです。姓名を変更するこ...
第40章 アメリカの隣国「カナダ」の見識

第40章 アメリカの隣国「カナダ」の見識

第40章 アメリカの隣国「カナダ」の見識――国家の意思決定は国民の意見がすべてである――文=今 静行イラクに一兵も派兵しないカナダの姿勢カナダは陸続きのアメリカを隣国としています。ヒト、モノ、おカネなど、政治・経済・文化などあらゆる面で古くからアメリカと協力関係を築いている国です。カナダの対米関係は、このような地理的な環境もあって、とりわけ貿易面では両国間で特別な取り決めをし、緊密を深めています。意外に思うかもしれませんが、そのカナダは泥沼化に喘いでいるアメリカのイラク戦争に対して、一兵も派兵していないのです。たまたま長い歴史のあるアジア調査会(毎日新聞社)は、去る6月帝国ホテルに駐日カナダ大使ジョゼフ・キャロン氏を招いて「日本・カナダ関係のこれから」というテーマで講演会を開きました。当然、イラク戦争についての質疑も出ました。隣国アメリカに対するカナダの姿勢出席した私(筆者)は“カナダはアメリカと大変親密な関係にあるが、イラクには一兵を送り出していない。そのことでアメリカとギクシャ...
第41章 家計・企業にとっての最優先事項は“ヤル気”

第41章 家計・企業にとっての最優先事項は“ヤル気”

第41章 家計・企業にとっての最優先事項は“ヤル気”――その理論的背景を改めて知る――文=今 静行鉄鋼も自動車も“賭け”だった経済理論に「比較生産費の法則」と呼ばれる大変有力な学説があります。これはイギリスの経済学者デヴィッド・リカード(David Ricardo,1772年-1823年)が比較優位という概念を用いて初めて説明したものです。このリカードの理論は、要するに、それぞれの国が他の国に比べ、相対的に生産費の安い商品だけを生産し、高い商品は輸入する方が、お互いに有利だという学説です。有利な商品(サービスも含む)に特化(専門家)し、不利な商品の生産をやめる、国際分業の効果を説いているのです。この理論はいつまでも第一線で生きています。これまでいく回となく各国間の貿易摩擦が表面化したとき、それぞれの品目について比較優位が真剣に訂正されてきました。どこから見てももっともな話であり、肯定の立場を取らざるを得ないでしょう。各国は比較優位の産業に集中するはずです。文字通り理論と現実が一致す...
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