連載|温室の「あたらしい仕事」

連載・塚田有一│みどりの触知学 第14回 旧暦の七夕をはさんで、九州を旅した

連載・塚田有一│みどりの触知学 第14回 旧暦の七夕をはさんで、九州を旅した

火の国、水の国、緑の国第14回 旧暦の七夕をはさんで、九州を旅した(1)おもに熊本県をさして「火の国」と呼ばれるが、九州全体に火山が多い。「火の国」の象徴である阿蘇をはじめ、桜島や雲仙、不知火、霧島、久住山、由布岳などなど、火山だらけだ。でも、行ってみると、火とおなじくらい「水の国」でもあった。同時にそれは「緑の国」のことでもある。文・写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)【ながす】震災から5ヵ月。青森のねぶたも、仙台の七夕も、秋田の竿燈まつりも斎行された。ねぶたも、竿燈まつりも、七夕とおなじルーツをもつ。音楽や踊りがくわわり、なにかに肖(あやか)り、習合され、風土や気質や時代がそれらを独自のものにしていく。風流(ふりゅう)になる。大きな災禍があればその穢れを祓い、流す。潔斎(けっさい)をし、供犠(くぎ)をし、その荒魂をどうかどうかとなだめる。哀しみが大きいぶん、暮らしがきつければそれだけ過剰に、派手になっていくものだったのかもしれない。磨崖仏祭りは大切だ。コミュニティとしての絆も...
連載・塚田有一│みどりの触知学 第9回:温室企画のイベント「月夜の読書室」へのお誘い

連載・塚田有一│みどりの触知学 第9回:温室企画のイベント「月夜の読書室」へのお誘い

塚田有一│みどりの触知学空にちょっと近い屋上の 「温室」 で開催第9回:温室企画のイベント 「月夜の読書室 」へのお誘い10月21日は、後の月見。冬に向けて月はますます冴えます。僕は2007年より、11月の新月から満月までの15日間、毎晩月に向かって花を生けることをつづけてきました。また、満月の夜には朗読と即興ダンスの会を非公開でおこないました。文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)月明かりで読んでみたい本をご持参ください月夜の読書室期日|2010年10月23日(土)、24日(日)時間|日没~22時まで(荒天の場合は中止)会場|屋上の温室東京都渋谷区猿楽町30-2 ヒルサイドテラス・アネックスB棟屋上入場料|500円(飲みものつき)連絡先|温室(090-3420-3514 塚田)企画|温室協力|赤羽卓美(写真家) リムグリーン今年は、10月23日(土)24日(日)に「月夜の読書室」をひらきます。ビルの屋上にある「温室」はこの季節、そろそろ紅葉がはじまる欅(けやき)や椋(むく)の...
連載・塚田有一│みどりの触知学 第15回 山の冬

連載・塚田有一│みどりの触知学 第15回 山の冬

「振ゆ」とも「殖ゆ」「増ゆ」ともつながる「ふゆ」第15回 山の冬空が青くて、光がきれいで、このまばゆさは、冬のものだ。縁あって、この冬は立てつづけに「山」へ行くことになった。冬の冷え枯れた美しさを、あらためて見つけられたように思う。それは指先や足の裏、呼吸から、山を感じることでもあった。Photo & Text by TSUKADA Yuichi(ONSHITSU)軽さ冬、多くの植物は枯れる。真夏は音がするほど揚げていた水を手放し、あるものは冬芽をつくり、あるものは種となり、またあるものは根を残し、じっとうずくまる。それぞれ葉が落ち、花が終り、茎や枝が枯れ落ちたその横であたらしい命の小さな突起となって、目覚める時を待つ。「枯れる」ということは、水分を失って魂が「離(か)れる」ことだともいう。そうして水分が無くなると「軽く」なり、あらたな命の場所になる。冬芽の布団にくるまり、殻に守られ、母なる大地に抱かれながら。冬空の美しさはだから、乾燥して澄んだ美しさであると同時にその軽さ...
連載・塚田有一│みどりの触知学 第16回 「雨水」の日曜日

連載・塚田有一│みどりの触知学 第16回 「雨水」の日曜日

氷も溶けるし、雪も雨になる。雨水は「木の芽うごかし」という名前ももっている第16回 「雨水」の日曜日「雨水」の日曜日だった。あまりにも明るい日射しに誘われて、散歩にでかけた。「雨水」は、雪が雨にかわるという日。空は青くて、光が散りばめられたようだ。こんな日は見慣れていたはずの景色がいつもとちがう懐かしさをもつ。Photographs & Text by TSUKADA Yuichi(ONSHITSU)それにしても高層の建築群はいまだに増えつづけている氏神の赤坂氷川神社を抜けると、朝には霜柱が立っていた土が、ふかふかとしていた。境内にずっと住みついていた茶トラの猫の消息を書いたメモがあって、ペットボトルには赤と白の椿が供えられている。南部坂を降りて行くと、毎年、蔓薔薇が見事に咲く民家の庭先で紅梅が咲いていた。一対の白梅はまだ硬くて、メジロが二羽、いつ咲くの、というように、うすく桃色が滲んだ丸い莟(つぼみ)のあいだを飛び回っていた。アークヒルズの脇を上がって、スペイン大使館の横...
連載・塚田有一│みどりの触知学<特別編・2012夏> 朱夏~都会の山中~

連載・塚田有一│みどりの触知学<特別編・2012夏> 朱夏~都会の山中~

全部のスケールが大きく見えた。見たことのない大きさだった<特別編・2012夏> 朱夏~都会の山中~一年、たった一年だけだったが、かつて禅宗のお寺で過ごした。大学生のころ、いくつか偶然が重なって、そのお寺の門を叩いた。それ以来、その場所は僕にとって、帰ることができる場所なのだ。先日、久しぶりに訪ねてみたものの、お世話になった和尚はお施餓鬼で留守だった。お寺に近づくと蝉の声がシャワーのように降って来た。が、山門をくぐって、水が打たれた敷石に立った途端、懐かしさと有難さに蝉の声は遠のいた。何度も何度も歩いた石畳は、しっとりとみどりいろに光っていた。Photographs & Text by TSUKADA Yuichi(ONSHITSU)とにかくその門を、僕は思い切ってくぐった「拝観謝絶」の看板は変わらない。学生のころ、その文字というか字面を見ては、踵を返した。なにせ、まったく縁がなかった。学生時代、とにかく茶道をやってみたいと思い立ち、いい先生を紹介して欲しいと、好きだった「芸...
連載・塚田有一│みどりの触知学<特別編・2012秋 パリ> 谺する森 声の 登る

連載・塚田有一│みどりの触知学<特別編・2012秋 パリ> 谺する森 声の 登る

「旅」は「賜(た)べ」。旅に憧れ、恋して旅に出れば、何か賜る<特別編・2012秋 パリ> 谺する森 声の 登る着いた翌日、パリの空は曇り。セーヌ川を渡って、ノートルダム大聖堂を見上げていた。壁に彫られた聖人たちや、ガーゴイルなど森の精霊たちに守られたゴシックの聖堂を目の前にして感じたのは、これは石でできた杜、切り出された古代の森なのではないかということだ。Photographs & Text by TSUKADA Yuichi(ONSHITSU)目を閉じて聴いていたら、いつか深い森の中に、立っていた中に入るとはっきりとわかる。薄暗がりの内部空間は森に入った感じそのものだし、同時に懐かしい胎内でもある。ステンドグラスの光は木漏れ陽といったところか。聳え立つ列柱は、巨大な森の樹々そのもの。太い幹から枝を広げ、空を支える。天蓋にはフレスコ画で満天の星が瞬く。祭壇は、かつて祈りの儀式がおこなわれていた森の奥の巨石を彷彿とさせる。「ノートルダム」とは、フランス語で「我らが貴婦人」。つ...
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