Fragrance Gymnasium
「Fragrance Gymnasium」に関する記事
穂積和夫×中野香織 日本男児のダンディズムとは?(1)
穂積和夫先生に聞く(1)日本男児のダンディズムとは?今、ダンディズムについての本を執筆中です。私が書くとどうもイギリス男子の話に偏ってしまうのですが、担当編集者から「日本男児についても考えなさい」とのおことばあり。吉田健一に伊丹十三、永井荷風に池波正太郎、白洲次郎に生田耕作……と手当たり次第に読んでみるのですが、できれば、現代を生きている男性の意見に耳を傾けてみたい…と思い、OPENERS 発行人Oさんに「日本男児のダンディズムを語れる方は?」と相談したところ、「穂積和夫先生をおいていないでしょう」との即答をいただきました。イラストレーターでもあり、男のファッションに関しても多くの記事を書いていらっしゃる穂積和夫先生は、OPENERS においても「大人の男こそキモノが似合う」という連載をおもちです。さっそくインタビューをお願いし、日本の男のおしゃれ、現代日本の世相、贅沢について、などなど、ダンディズムということばにとらわれず、幅広くお話をうかがうことができました。「フレグランス道場...
穂積和夫×中野香織 日本男児のダンディズムとは?(2)
穂積和夫先生に聞く(2)日本男児のダンディズムとは?文=中野香織Photo by Jamandfixコスプレ感覚のキモノでシーンが広がる中野 スーツには特有のダンディズムが語られるものですよね。抑制のなかに個としての華を表現する、というような。キモノにおける美的価値観って、どんなものですか?穂積 僕はスーツを着るときと同じような感覚で選び、着てるつもり。中野 そもそも穂積先生がキモノを着ようと思われたのは?穂積 きっかけはつまんないことで、新聞小説の挿絵で江戸ものをやることになった。キモノを描くことになったんです。洋服の感覚でキモノは書けない。じゃあ、ということで自分で着るようになったんです。中野 女性でもファッションを楽しみつくした人は、キモノのほうに走っています。穂積 僕の場合はそういうことも踏まえてますが、コスプレ感覚もありますね。誰も着ていないから着てやろう、と。中野 誰も着ていないから着方がわからない、っていうのが今の若い人の中にはあると思うのですが。穂積 結局、僕なんか...
穂積和夫×中野香織 日本男児のダンディズムとは?(3)
穂積和夫先生に聞く(3)日本男児のダンディズムとは?文=中野香織Photo by Jamandfixアイビー魂、健在なり中野 穂積先生ご自身が花婿になられたときの装いは?穂積 45年前ですが、紋付袴です。途中からお色直しでブレザーを着ました。赤いブレザー。お婿さんのお色直しなんて当時は珍しかったですよ。中野 赤いブレザーって……。穂積 アイビークラブですよ。僕が結婚したときの仲人は石津謙介先生でした。中野 あのアイビーっていうのも日本独特の文化なんですよね?穂積 僕やくろすとしゆきはVANができる前からきゃあきゃあ言っていて。どこにも売ってないから、洋服屋にああだこうだと作らせた。そのうちVANができたんで、ああ助かったって感じでした。中野 いまでもアイビー魂は?穂積 団塊の世代で、みゆき族をやってた連中が、今60歳ぐらいですが、いまだにそういうのに夢中になっていますよ。この前も名古屋でアイビークラブのパーティがあったんですが、もうみんなボタンダウンとか。中野 60歳でボタンダウン...
穂積和夫×中野香織 日本男児のダンディズムとは?(4)
穂積和夫先生に聞く(4)日本男児のダンディズムとは?文=中野香織Photo by Jamandfix日本男児にはなぜスーツが似合わない?穂積 幕末に背広が入ってきたでしょう? あの形式は、日本人も西洋人と同じ年月を着てるはずなのに、なぜ似合わないのか? 体格はよくなっているから、似合わないわけがない。それが問題だと思っています。中野 着るものに対する考え方が根本的に違うからじゃないでしょうかね?穂積 やはりファッションというのは教養としてとらえなきゃいけないと思っているのだが、日本にはそういうとらえ方がない。表面的なものにお金を使うのは、不良の始まりだ、とか思われてしまう。中野 着るものに気を使うのは、軽薄で恥ずかしいことだという考え方が根強いんです。穂積 江戸時代は、お金のある人がお金を使う、それで社会が成り立っていた。洋服を着るようになってから、そういう発想がなくなって、みんな平等でなければという思想になっちゃったんだね。変わったものを着ると、「なんだあれは」となる。中野 スー...
中野香織|第17回 東京大学の「蓮香」(3)
コーポレート・フレグランスの可能性を考える東京大学の「蓮香」 その3(番外編)一ヵ所、パズルのようにピースが欠けたみたいに穴があいている香料をつくって、その穴のなかに、消したいにおいの成分がはいると、よい香りとして完成するという“ハーモナイズ効果(Harmonious Effect)”というものがあるのを初めて聞きました。「蓮香」の最終回は、香りのビジネスのトレンドについて。文=中野香織Photo by Jamandfixアタマがよくなる香水!?中野香織 今日は実はオフスクリーンに(笑)、資生堂アメニティグッズ株式会社マーケティング部の諸星英雄さんにも来ていただいています。せっかくの機会なので、香りのビジネスのトレンドについてもうかがいたいと思うのですが? フレグランスの需要じたいは、どうなんでしょう、伸びているのでしょうか?諸星英雄さん いや、女性で1割どまりというところです。香水をもっていても、人からもらったもので、使わないとか。男が悪いんですよ(笑)。香水をつけても、何もほめ...
中野香織|第15回 東京大学の「蓮香」(1)
コーポレート・フレグランスの可能性を考える東京大学の「蓮香」 その1東京大学コミュニケーションセンターが、今年4月、大賀蓮の香りをテーマにしたオードパルファム「蓮香(れんか)」を発売しました。大学も法人化し、積極的に大学のイメージを外部にアピールしていかなくてはならない時代。コーポレート・イメージを伝えるためのロゴマークには各大学・企業は力を入れているようですが、フレグランス開発とはあまり聞いたことのない試みです。「蓮香」はいかなる経緯で、どのような目的で開発されたのか? 共同で開発に関わった資生堂の意図は? また、発売後の反応は? そんなお話からはじめてフレグランス文化を幅広く語り合えたらと期待しつつ、本郷三丁目の東京大学コミュニケーションセンターを訪れ、同店長の吉岡亜野さん、資生堂アメニティグッズ株式会社の平山文子さんにお話を伺いました。文=中野香織Photo by Jamandfix研究成果が、身近なおみやげグッズに中野香織 こんにちは。このコミュニケーションセンター、すてき...
中野香織|第16回 東京大学の「蓮香」(2)
コーポレート・フレグランスの可能性を考える東京大学の「蓮香」 その2久しぶりに赤門をくぐれば、東大の売店はすっかりモダンに。その変貌に戸惑いながら、オードパルファム「蓮香(れんか)」の完成度の高さにも驚かされます。第2回目は、蓮の香りのつくりかたに迫ります。文=中野香織Photo by Jamandfix「蓮香」ができるまで中野香織 ではいよいよ「蓮香」そのものに迫るお話をうかがいます。香りの成分は蓮が主体かと思うのですが、たいへん恥ずかしながら私、蓮じたいがどういう香りの特徴をもっているのか、いまいちピンとこないのですが?平山文子さん やや涼しげな、ちょっと薬っぽい甘さのある香りなので、一般的に受け容れられる香りではないかもしれません。あまり香水のメインの香りとしては使われません。中野 英語ではロータス(lotus)? たしかにロータスをメインにした香水なんてあまり聞いたことがないですねえ……。お香は見た記憶がありますが。どうやって香りを採るんですか?平山 ヘッドスペース法といっ...
第5回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 1
第5回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 1雑誌にコラムなどを書き始めて、今年で25周年、四半世紀になります。20代の頃は、おもに映画の話を書いていました。硬派映画専門誌の女王、「キネマ旬報」にも、場違いながら、一昨年まで、4年間近く連載させていただいておりました。そんなこともあって、香水を主役にした映画、「パフューム」を観て、ぜひ語り合ってみたい、と思ったのが、ほかならぬこの人。「キネマ旬報」編集長の関口裕子さんです。text by NAKANO Kaoriphoto by TATSUNO RinSPECIAL THANKS:GAGA COMMUNICATIONS INC.GAGA本社にて好奇心のインターネット、読み込みの雑誌中野香織 関口編集長、またお会いできてうれしいです。関口裕子 どうも、お久しぶりです。連載中はありがとうございました。中野 こちらこそ。「キネ旬」に連載を始めた当初と連載を終える頃では、映画についてなにかを書くことの意味が、がらりと変わ...
はじめまして
はじめまして2006年の初夏、香水ビジネスのエキスパートとお話をする機会に、たてつづけに二度、恵まれました。高砂香料の調香師さんと、伊勢丹デパートの香水バイヤー。それぞれ、別々の媒体での取材、対談だったのですが、このお二人の専門的なお話をうかがうことが、奥行きはてしないフレグランス文化の扉を開くきっかけになりました。フレグランスの専門家から見れば、わたくしなど、たんなる香水好きの、どしろうとです。が、ここでは、そのしろうと目線を忘れずに、大切にしたいと思っています。調香師さん、香水バイヤーの、専門家ならではのボキャブラリーのシャワーを浴びながら感じたことのひとつに、「香水の専門家と、一般消費者の間には、ことばのギャップがよこたわる」ということがありました。一般の消費者の香水評を聞いてみると「好き」「くさい」「マダムっぽい」「もてそう」「ギャルっぽい」などの感性語のオンパレード。もちろん、香水は個人的な感覚に訴えるものでもあるので、それはそれでよいとは思っていますが。一方、プレスリリ...
第1回 においをあらわすことば
第1回 ウォーミングアップ「においをあらわすことば」フレグランス、ということばをタイトルに使いましたが、それは、香水ビジネス業界に携わるかたがたのことばづかいの慣例(と見えたもの)に従ってみたまでです。香水売り場にまいりますと、「パルファム(parfum)」「オー・ド・トワレ(eau de toilette)」にはじまり、固体の練り香水や乳液状のボディクリームなど、ありとあらゆるよいにおいの製品が並んでおりますが、それらをひっくるめてなにか語るとき、バイヤーさんたちは、アバウトに、「フレグランス」と呼んでいます。photo by IDEGUCHI Keiko「香水」には女性用というイメージが濃厚につきまとうけれど、「フレグランス」ならば男性でも抵抗がない、という事情もあるようです。それはそれで流通していることばとして、尊重したいと思います。<Perfume, Fragrance, and Aroma>とはいえ、本道場では、まず基本として、「よいにおい」を表すいくつかのことばの、本来...
第2回 伊勢丹メンズ館フレグランス売り場にて
第2回 伊勢丹メンズ館フレグランス売り場にてフレグランス学徒の聖地とも呼びたい場所のひとつが、ここ。東京・新宿の伊勢丹メンズ館である。セルジュ・ルタンス、ロレンゾ・ヴィロレッツィ、メートル・パフュメール・エ・ガンティエ、アクア・ディ・パルマ…などなど、およそ香水好きならば思わず背筋がのびてしまう、アーティスティックなブランドがさほど広くない売り場のなかに、すべて、すっきりと、無駄なくそろう。文/中野香織「フレデリック・マル」コーナーにて。photo by IDEGUCHI Keikoフレグランス学徒の虎の穴、「フレデリック・マル」コーナーなかでも、入り口から足を踏み入れて左側にある、濃密な空間。冷蔵庫、2本の巨大な円筒、そして壁にかけられた9人の外国人の肖像写真が視界に入る。いったい、ここは何を売るところなのか?photo by IDEGUCHI Keikoほかならぬ、「フレデリック・マル」の売り場である。正式には、「エディション・ドゥ・パルファム・フレデリック・マル」。「パルファ...
第3回 「人間用」フレグランス
第3回 「人間用」フレグランス伊勢丹メンズ館フレグランスセクションのカリスマバイヤー、田代直子さんが買いつけてくるのは、 「メンズ的発想のフレグランス」であって、「男性用フレグランス」ではない。もちろん、「女性用」でもない。「トランスジェンダー」といってしまえば、そんなくくりに入れてもよいのかもしれないが、 それは田代さんが考える方向とは、少しニュアンスを異にするようである。文/中野香織「男らしい香り」「女らしい香り」は人工的につくられたもの田代 「最近は、男性用・女性用と明確に分けるのではなく、人間にとってよいもの、人間が共有できるもの…というふうに、男女の区別を分けないほうへ流れています」中野 「ジェンダーの区別を明確にすることじたい、じつは、自然なことではなくて、かなり人為的なことなのですよね。しかも、比較的最近の。じつは高砂香料の鈴木隆さんという調香師のかたに教えていただいたのですが、合成香料がはじめて用いられるのは、1882年のことなんだそうです。その後、どんどん<男らし...
第4回 調香師系フレグランスの楽しみ方:実践編
第4回調香師系フレグランスの楽しみ方:実践編伊勢丹メンズ館フレグランス売り場にて。photo by IDEGUCHI Keiko倫理的なモテ中野 「においたつような人……って思わずわたくしのなかの<おやじ>が反応して出てきてしまったのですが(笑)。あたりを輝かせるような、という暗喩的な意味での<においたち方>は歓迎されますが、香水そのものがプンプンにおいたってる人はちょっと敬遠ものですよね」田代 「ええ、フレグランスはつけ方によってずいぶん変わります。外に向かってプンプンさせるのはどうかと……。香りは人によって好き嫌いが分かれますから」中野 「それが人工ムスクたっぷりのものだったら……おそろしい(笑)。ちなみに田代さんは、フレグランスをどこにおつけになりますか?」田代 「おなかです」担当編集者マコトくん 「ええっ!? おなか?」中野 「ああ、わかります。わたくしも、乳間につけますから(笑)」田代 「体の前面、要は、自分が香りを楽しむため、ですよね?」中野 「そうそう、まさしく、自分...
第6回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 2
第6回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 2text by NAKANO Kaoriphoto by TATSUNO RinSPECIAL THANKS:GAGA COMMUNICATIONS INC.「パフューム ある人殺しの物語」より香りを、美女を、集めたい。 男の願望にも応える天才の仕業関口裕子 生物から、というか、肉体から、あんなふうに、香りを抽出するなんてこと、ほんとにできるんでしょうか?中野香織 う~ん。原作を読んだときやってみようと思いましたけど、獣脂ってねっとりしてそうで(笑)。GAGAトキムラくん あ、ぼくやってみましたよ。一同 えーっ!?GAGAトキムラくん けっこう、いいにおいなんですよね、自分のにおい(笑)。中野 おそれいりました…。それはそうと、映画ではいろんな抽出のしかたを試していて、美しい女性をどーんとまるごとぐつぐつしたりもしてましたよね。担当編集者マコトくん 男としては、ああいう願望、あります。処女願望というか。関口 「コレクタ...
第7回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 3
第7回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 3text by NAKANO Kaoriphoto by TATSUNO RinSPECIAL THANKS:GAGA COMMUNICATIONS INC.「パフューム ある人殺しの物語」より香りと記憶中野 関口さんは、なにか香水にまつわる思い出をお持ちですか?関口 この前、タクシーに乗ったら、運転手さんが「半年前、ここからここまで、乗ったでしょ?」っていうんですよ。どうして覚えてるのかって聞いたら、「その香り」って。バックミラー越しに(笑)。中野 何をお使いだったんですか?関口 「ロー・ド・イッセイ」です。多くの人が使ってるポピュラーな香水でしょう? だからわたしがよほどなにか運転手さんの印象に残るようなことをしたのかなって、ただただ、おそろしくって(笑)。中野 うしろも見ないで、「その香り」(笑)。たしかに、ことばなんかだと、細部を忘れてしまうことも多いけど、においは、時間がたっても、そっくりそのまま情報が再現され...