中野香織|第15回 東京大学の「蓮香」(1)
Beauty
2015年3月18日

中野香織|第15回 東京大学の「蓮香」(1)

コーポレート・フレグランスの可能性を考える
東京大学の「蓮香」 その1

東京大学コミュニケーションセンターが、今年4月、大賀蓮の香りをテーマにしたオードパルファム「蓮香(れんか)」を発売しました。
大学も法人化し、積極的に大学のイメージを外部にアピールしていかなくてはならない時代。コーポレート・イメージを伝えるためのロゴマークには各大学・企業は力を入れているようですが、フレグランス開発とはあまり聞いたことのない試みです。
「蓮香」はいかなる経緯で、どのような目的で開発されたのか? 共同で開発に関わった資生堂の意図は? また、発売後の反応は? そんなお話からはじめてフレグランス文化を幅広く語り合えたらと期待しつつ、本郷三丁目の東京大学コミュニケーションセンターを訪れ、同店長の吉岡亜野さん、資生堂アメニティグッズ株式会社の平山文子さんにお話を伺いました。

文=中野香織Photo by Jamandfix

研究成果が、身近なおみやげグッズに

中野香織 こんにちは。このコミュニケーションセンター、すてきな建物ですね。外がレンガで古い感じを残しているのに、中がぴっかぴかでモダン。トイレが広くてきれいなのにちょっと感動しました。

吉岡亜野さん 法人化してから、2004年にできたんです。もとは人力車の倉庫で、レンガで全部覆われていました。東大で2番目に古い建物だったんですよ。窓は古いものをそのまま残しています。

中野 売っているおみやげも、高級で洗練されていて、びっくりしました。ティーカップは大倉陶園と、革小物は和光とコラボ!?

吉岡 ええ、大倉陶園も和光も、ふつうはあまりコラボすることのない老舗なんですが。

中野 25年前は東大の売店みやげといえば、すし屋の湯飲み風の「東大湯のみ」だったのに、このあかぬけぶりは…(絶句)。

吉岡 湯飲みはないの? と探しにいらっしゃるお客さまは今もいらっしゃいますが(笑)。湯飲みは東京大学の生協で今も販売しています。

中野 このモダンなマークは? いちょうのマークはなくなったんですか?

吉岡 いちょうはコーポレートマークです。こちらはコミュニケーションマークで、オリジナルグッズや広報活動に使われます。もちろん、オフィシャルマークですよ。日本デザインセンターに監修をお願いして、時代の雰囲気に合うように作っていただきました。

中野 笑顔のイメージ、ですね。ロゴマーク商品はじめ、ほんとうにたくさんのグッズが並んでるんですが、人気商品はどれですか?

吉岡 まずは泡盛の「御酒(うさき)」ですね。戦争で滅びてしまったと思われていた「黒麹菌」がまだ東大研究室で生き残っていて、それを使って復活させた泡盛です。それからアミノ酸研究を生かしたサプリメント、そして「連香」でしょうか。やはり、大学の研究成果を商品化したものが売れてます。

中野 駒場にはこの売店はないのですか?

吉岡 本郷だけです。駒場には1、2年生が、未成年がいますから、お酒を扱いにくいってこともありますし(笑)。

中野 それにしても、研究成果が身近な商品になるってわくわくしますよね。センセイ方の研究成果が本ばっかりじゃつまんないですもんね。

吉岡亜野店長の説明を受けます

研究成果にして東大の花+ご当地限定フレグランス=蓮花

中野 「蓮香」も研究成果を商品化したグッズという位置づけなんですね。

吉岡 ええ、大賀蓮(おおがはす)という、東大の花ともいわれている蓮がありまして。

中野 (リーフレットを読みながら)…1951年、東京大学検見川厚生農場で、2000年以上前の、3粒の古代蓮の実が発掘された。大賀一郎博士がそのうちの1粒を発芽させることに成功し、翌年、美しい淡紅色の花が咲く。博士の名をとってこの花は「大賀蓮」と名づけられる……。

吉岡 その大賀蓮の商品をなにか作れないかと以前から考えていました。そんな折に、大賀蓮の研究をしている「検見川緑地植物実験所」の方から、以前、資生堂さんと大賀蓮の香りの共同研究をしていたというお話をお聞きしたんです。そこで資生堂さんにご連絡させていただきました。

平山文子さん 資生堂はもともと「ご当地限定フレグランス」を手がけていましたので…。

中野 長野のNYOZE(如是)とか。

平山 そうです! すでに12のエリアで発売しています。

左が資生堂アメニティグッズの平山文子さん

中野 これも本郷ご当地フレグランスという枠におさまるんですね(笑)。じゃあ、東大的には、研究成果を資生堂と共同で商品化するという形で蓮香が世に出ることになった…というわけですか。でも、そもそもご当地香水っていう発想じたいは、どこから?

平山 2004年に広島県尾道市の桜の香りをつくったのが最初だったんです。美術館グッズの開発依頼をいただいて、桜が有名なので、じゃあ桜の香水をと。「尾道市のおみやげ」として3日間で完売するほどの好評を博したので、ほかの市でからもお声がけをいただくようになりました。

中野 尾道のほかには?

平山 尾道のお隣の竹原市の竹の香り、秋田の角館町のしだれ桜の香り、飛騨高山のコバノミツバツツジの香り、会津若松のタチアオイの香り、遠野市のホップの香り、金沢市の梅の香り、そして高知のよさこいの香り…。長野もそうですし、5月には草津のしゃくなげをテーマにした香りも。

中野 資生堂のカウンターでは時折、見かけてたんですが、それほど種類があったとは! 「蓮香」も資生堂のカウンターに並ぶんですか?

平山 いいえ、これはあくまで東大の商品として、ここだけで。

中野 「蓮香」のあぶらとり紙まで出してるんですね。これ、かなり大判で使い手がいいし、香りつきなんてめずらしい。これも資生堂製ですか?

平山 ええ、もともと資生堂では、毎年、東京ドームで開催されている「世界らん展」のオリジナルグッズとして、蘭の香りがついたあぶらとり紙を作っていたんです。香りつきのあぶらとり紙というのは珍しいですし、お化粧直しが気持ちよくできうるということで、ご好評いただいています。

中野 これには蘭の香りの代わりに「蓮香」がついてるんですね。美容雑誌に載れば評判になると思うんですが、あまりメジャーになりすぎてもイヤかな。さりげなくポーチからとりだして希少性をいばりたいという複雑な心境でもあります(笑)。

東京大学
コミュニケーションセンター

東京都文京区本郷7-3-1
本郷キャンパス内 赤門北隣
OPEN:
月曜~土曜 10:30~18:30
CLOSE:日曜・祝日
TEL.03-5841-1039
http://shop.utcc.pr.u-tokyo.ac.jp/

           
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