COLOR of LIFE : Essay and a story

藤原美智子の「色」ものがたり第12回 “高貴な紫”を目指して

藤原美智子の「色」ものがたり第12回 “高貴な紫”を目指して

2009.05  「“高貴な紫”を目指して」ヘアメイクアップアーティストとして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。色を自在に扱うことから生まれる新しい表情はつねに注目を浴びて、だからこそその視覚を刺激する「色」は、彼女に雄弁に語りかける。 連載1年を迎える5月のテーマは「紫」。藤原さんが「目指す紫」とは──。文=藤原美智子Photo by Jamandfix紫という、特別な色ある取材で、こんなふうに答えている自分がいた。「紫色の服を着るには、自分はまだまだです」と。これは、“紫の服も似合いそうですが”という記者に対してのコメントである。そんな言葉が出たのは、紫色に対して“高貴”“品格”というイメージを抱いているからであり、事実、ローマ帝国時代でも日本でも古代より高位を表す色とされている。私はそんな色を身につけられるほど人間的にまだまだ成熟していない、と無意識にも自覚しているから咄嗟(とっさ)に“まだまだ”という言葉が出たのだ。ところが、その夜...
藤原美智子の「色」ものがたり第8回 2009年1月 黒の器

藤原美智子の「色」ものがたり第8回 2009年1月 黒の器

2009.01  「黒の器」ヘアメイクアップアーティストとして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。色を自在に扱うことから生まれる新しい表情はつねに注目を浴びて、だからこそその視覚を刺激する「色」は、彼女に雄弁に語りかける。2009年1月のテーマは「黒」。自作の2つの陶器が、いま思い出させることとは──。文=藤原美智子Photo by Jamandfix私が作ったのは茶碗や皿、花瓶などすべてが黒のほっこりとしたような形だった26,7歳のころ、陶芸家に憧れて陶芸教室に通ったことがある。土から器ができあがるまで自分一人の手で創り上げることができる、そんなところに惹かれたからだ。撮影の仕事は、もちろん自分一人では成り立たない。雑誌であればモデルや女優、カメラマン、スタイリスト、編集、ライターなど10名弱のチームで。CMの撮影となると監督に照明、美術、車両部、テクニカルの人たちなども加わり、30名ほどのスタッフ数になる。皆が歯車の一つとなって、一つの作...
藤原美智子の「色」ものがたり第9回 珊瑚色の着物

藤原美智子の「色」ものがたり第9回 珊瑚色の着物

2009.02  「珊瑚色の着物」ヘアメイクアップアーティストとして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。色を自在に扱うことから生まれる新しい表情はつねに注目を浴びて、だからこそその視覚を刺激する「色」は、彼女に雄弁に語りかける。2009年2月のテーマは「珊瑚色」。母の着物姿、膝枕の感触、遺伝子──。文=藤原美智子Photo by Jamandfixほほに触れる絹の柔らかくひんやりとした気持ち良い感触と、はんなりと優しい珊瑚色の美しさあれは小学1、2年生のころだったろうか。美容師をしている母が着物に凝った時期があった。母は着付けの仕事もしていたし花嫁衣装も扱っていたので、着物は身近なものだったにちがいないが、彼女自身が着物を着ることは年に数回のことだったように思う。それが、ある日を境に日常も仕事中も着物を着るようになったのだ。着物を着たうえに白の割烹着を付けて美容室で立ち働いている母に理由を聞いてみたのだが、「ちょっと、ね」とふくみ笑いをしただ...
藤原美智子の「色」ものがたり第11回 生命力あふれる緑に惹かれて

藤原美智子の「色」ものがたり第11回 生命力あふれる緑に惹かれて

2009.04  「生命力あふれる緑に惹かれて」ヘアメイクアップアーティストとして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。色を自在に扱うことから生まれる新しい表情はつねに注目を浴びて、だからこそその視覚を刺激する「色」は、彼女に雄弁に語りかける。2009年4月のテーマは「緑」。元気な緑を見ていると──。文=藤原美智子Photo by Jamandfix生命力あふれる緑が、細胞の隅々までしみわたる心地よさ2年ほど前から静岡県の下田の町が気に入り、しょっちゅう遊びに出かけるようになった。そして好きが高じて、とうとうセカンドハウスまで建ててしまった。家の近くには、日本でも5本の指に入るほどの透明度を誇る浜がある。サーフィンのメッカでもあるようだ。それを話すと、大概のひとに“サーフィンでもするの?”と聞かれるのだが、残念ながら、その趣味はもちあわせていない。ただただ、白い砂浜の明るく開放的な気持ち良さにボーッと浸っているだけである。そんな海の存在が居を構...
藤原美智子の「色」ものがたり第10回 再び巡ってきた、永遠のピンク色

藤原美智子の「色」ものがたり第10回 再び巡ってきた、永遠のピンク色

2009.03  「再び巡ってきた、永遠のピンク色」ヘアメイクアップアーティストとして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。色を自在に扱うことから生まれる新しい表情はつねに注目を浴びて、だからこそその視覚を刺激する「色」は、彼女に雄弁に語りかける。2009年3月のテーマは「ピンク色」。ピンクは私にとって心の自由度を表す色──。文=藤原美智子Photo by Jamandfix一巡して、またもどってきた自分のなかの「わぁ、かわいい」感覚世の中には女性は好きでも、男性にとっては「どこがいいの?」と、首を傾げるものは数多く存在する。たとえば、花やスパンコールをつけた長い付け爪とかキラキラと光る派手色の小物類とか、ぬいぐるみとか……。もちろん、それらを好まない女性もいるし、好きな男性もいる。または、年齢によって好き嫌いも大いに分かれることだろう。私が歳を重ねてから好きになったもののひとつに、「ピンク色」がある。とはいっても、生まれてはじめて好きになった...
藤原美智子の「色」ものがたり第7回 12月 フェルメールの絵から考察する、ウエディングドレスが“白”の理由

藤原美智子の「色」ものがたり第7回 12月 フェルメールの絵から考察する、ウエディングドレスが“白”の理由

2008.12  「フェルメールの絵から考察する、ウエディングドレスが“白”の理由」ヘアメイクアップアーティストとして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。シックスセンスのうち、“視覚”はどれだけのドラマを日々紡ぎ出しているのだろうか──目に映る彩を心で感じ、味わうことで、そこにいみじくもドラマが生まれる。こんかいのテーマは「白」。“白”も光りそのものになることをいま再び……。文=藤原美智子Photo by Jamandfix凛とした強さと慈悲深さを兼ね備えている大人の女性のような“白”映画『真珠の耳飾りの少女』は、オランダの画家・フェルメールの半生を描いたもの。ストーリーも興味深い作品なのだが、なんといっても強く印象に残ったのはフェルメールの絵と同様に、“光り”の使い方だ。窓から差し込む光の繊細な美しさ。光の移動によって、あらゆる物が命を吹き込まれたように存在を現わしていったり、闇に同化していったり。とくに、微(かす)かな光のもとで耳もとにつ...
藤原美智子の「色」ものがたり第6回 11月 いま、必要なのはグレィッシュ感!?

藤原美智子の「色」ものがたり第6回 11月 いま、必要なのはグレィッシュ感!?

2008.11  「いま、必要なのはグレィッシュ感!?」ヘアメイクアップアーティストととして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。シックスセンスのうち、“視覚”はどれだけのドラマを日々紡ぎ出しているのだろうか──目に映る彩を心で感じ、味わうことで、そこにいみじくもドラマが生まれる。こんかいのテーマは「グレィッシュ」。春夏コレクションから政治にまで思いが及んで……。文=藤原美智子Photo by Jamandfixファッションは世の中の“気分”を色濃く反映するもの'09春夏コレクションで心魅かれる色がある。それはピンクやパープル、イエロー、ペパーミント、あるいはグレーなどに透明感のある明るいグレーをミックスしたような色、グレィッシュがかったペールトーンである。そんな優しく柔らかな色合いに魅かれるのはなぜだろう? 理由をあえて挙げるとしたら、政治・経済の先行きの見えない不安感を優しい色合いで包み込んでもらいたいという心の表れだろうか。それとも、ただ...
藤原美智子の「色」ものがたり第5回 10月 薄紫色の夕陽

藤原美智子の「色」ものがたり第5回 10月 薄紫色の夕陽

2008.10  薄紫色の夕陽ヘアメイクアップアーティストととして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。シックスセンスのうち、“視覚”はどれだけのドラマを日々生み出しているのだろうか──目に映る彩を心で感じ、味わうことで、そこにいみじくもドラマを生み出す。こんかいのテーマは「薄紫」。夕陽ショーに心躍って……。文=藤原美智子Photo by Jamandfix薄紫色の夕陽夕陽を眺める習慣が身についたのは、9年前にいまの家に引っ越ししてきてからだろうか。家中の窓が南西を向いていることと、まわりに夕陽を遮る高い建物が建っていないので刻々と変化していく様を心ゆくまで堪能できる環境のおかげである。あるときなど、夕方に帰ってきて玄関のドアを開けたら家中がオレンジ色に染まっていて、「わっ、火事!」と間違えてしまったほど、わが家は夕陽を観るには絶好のロケーションなのだ。 それにしても、夕陽ほど見事なショーはない。季節や毎日の天候によっても、また一瞬ごとに...
藤原美智子の「色」ものがたり第4回 9月 赤いコート

藤原美智子の「色」ものがたり第4回 9月 赤いコート

2008.09  赤いコートヘアメイクアップアーティストととして第一線で活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。シックスセンスのうち、“視覚”はどれだけのドラマを日々生み出しているのだろうか──目に映る彩を心で感じ、味わうことで、そこにいみじくもドラマを生み出す。こんかいのテーマは「赤」。彼女の赤の物語です。文=藤原美智子Photo by Jamandfix赤いコート「あらっ、黒い色の服ばっかり!」これは30代半ばのころ、私のクローゼットの中を見た知人の一言。確かに、それまでの私のスタイルといえば、黒のタートルに黒のパンツが定番。つまり年中、“黒”ばかり着ていたのだ。たくさんの化粧品を触る撮影の現場で汚れても気にならないからというのが大きな理由だが、その他に「黒」という色が当時の私のストイックな性格に合っていて、居心地の良さを感じていたからなのだ。 そんな、ある日、ショップで洋服を探しているときにパッと目に飛び込んできた色があった。クリアな...
藤原美智子の「色」ものがたり第3回 8月 アフリカの大地 テラコッタ色

藤原美智子の「色」ものがたり第3回 8月 アフリカの大地 テラコッタ色

2008.08  アフリカの大地 テラコッタ色文=藤原美智子photo by Jamandfixアフリカの大地 テラコッタ色世界最古の砂漠、南アフリカ・ナミビアのナミブ砂漠。そのなかで、もっとも稜線が美しいと言われている300メートル級の砂丘、“Dune45”に登ったことがある。太陽が昇りはじめる直前の、まだ空気が青く感じられる時間帯に見たその砂丘は、まるでテラコッタ色のピラミッドのよう。いや、人の手ではこうも完璧な雄大さと優美さを兼ね備えたラインは作れない。もしかしたら、太古の昔、この美しさを真似してピラミッドは作られたのではないだろうか、などと推測してしまうほどだ。 そんな自然に畏敬の念を感じながら一歩一歩、そして足裏に砂の一粒一粒を感じながら登ってみた。稜線を隔てた片側は昇り始めた太陽の光を受けて砂がキラキラと輝き始め、テラコッタ色が赤みを帯びたアプリコット色に変化し始めている。テラコッタが“母なる大地”といった、どっしりとした落ち着きを感じさせてくれる色だとしたら、明るく...
藤原美智子の「色」ものがたり第2回 7月 マティスの黄色

藤原美智子の「色」ものがたり第2回 7月 マティスの黄色

2008.07  マティスの黄色文=藤原美智子photo by Jamandfixマティスの黄色7月の花、向日葵を見ていると連鎖的にマティスの絵が思い浮ぶ。向日葵の黄色と同様、マティスが描く黄色も観る者を明るく元気な気分にさせてくれるからなのだろう。マティスの代表的な絵画である「生きる喜び」、あるいは「青い静物」「赤い食卓:赤い調和」「黒地の上の読書する女」など、多くの彼の絵には黄色が重要なアクセントとして用いられている。また「ミモザ」や「千夜一夜物語」といった、晩年の手法である切り紙絵の作品にも黄色は多く使われている。それらの、どの黄色にも「幸せ」が宿っていると感じるのは私だけではないはず。彼のクリーンで温かみのある黄色は、人に「生きる喜び」を感じさせる色なのだ。『マティス 画家のノート』(みすず書房)で彼は語っている。「私が夢みるのは疲れを癒す(文中省略)よい肘掛け椅子に匹敵する何かであるような芸術である」と。20代の終わりごろ、この本に出会い「人が幸せを感じられるようなメイク...
藤原美智子の「色」ものがたり第1回 6月 朝明けの青

藤原美智子の「色」ものがたり第1回 6月 朝明けの青

2008.06  朝明けの青オウプナーズで色にまつわる連載を始めることになりました。色は、ヘアメイクアップアーティストの私にとってとても大切なものです。微細な色のニュアンスを見分けながら、繊細に色とかかわってきました。だからこそ色にかんしては自分なりにさまざまな思いがあります。そうしたお話をオウプナーズでできることは、自分にとってもとても楽しみです。連載第1回は、夏を前にして……。明日、早く起きてみませんか。いつもより。文=藤原美智子photo by Jamandfix朝明けの青20代のころ、『ディーバ』という映画を見て、あることに感動したことがあった。それは主人公の郵便配達人である少年と、彼のディーバ的存在であるオペラ歌手が早朝の公園を散歩していたときの、空気感の美しさだ。透明感があり瑞々(みずみず)しさを湛(たた)えた「青」の、なんと美しいこと。“日常”が動きだす直前の空気感には特別な何かが宿っている──。そんなことを感じたワンシーンだった。数年前、この映画を観直したときに、そ...
12 件