藤原美智子の「色」ものがたり第5回 10月 薄紫色の夕陽
2008.10 薄紫色の夕陽
ヘアメイクアップアーティストととして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。
シックスセンスのうち、“視覚”はどれだけのドラマを日々生み出しているのだろうか──目に映る彩を心で感じ、味わうことで、そこにいみじくもドラマを生み出す。
こんかいのテーマは「薄紫」。夕陽ショーに心躍って……。
文=藤原美智子Photo by Jamandfix
薄紫色の夕陽
夕陽を眺める習慣が身についたのは、9年前にいまの家に引っ越ししてきてからだろうか。
家中の窓が南西を向いていることと、まわりに夕陽を遮る高い建物が建っていないので刻々と変化していく様を心ゆくまで堪能できる環境のおかげである。
あるときなど、夕方に帰ってきて玄関のドアを開けたら家中がオレンジ色に染まっていて、「わっ、火事!」と間違えてしまったほど、わが家は夕陽を観るには絶好のロケーションなのだ。
それにしても、夕陽ほど見事なショーはない。季節や毎日の天候によっても、また一瞬ごとに変化していくので見飽きることはないし、その様は圧巻の一言に尽きるのだから。ドラマティックな赤、郷愁を覚えるような浅黄色、吸い込まれそうな藍色、気高さが感じられる薄紫色……。夕陽ショーは、まさに色の華麗なる競演だ。
とくに、私が好きな夕陽色を挙げるとしたら赤と薄紫色だろうか。
赤い夕陽には「おー」というワクワクとする高揚感があるし、薄紫色には今日という日を静かに、そして崇高な気分で終えさせてくれるような沈静効果がある。女性にたとえていうなら、赤い夕陽は情熱的なラテン系の美女であり、薄紫色の夕陽ははんなりとした京美人といったところか。
男の人にどちらかを選んでもらったら、“たまにはご馳走もいいけど、毎日だとちょっと飽きるな~。やっぱり、さっぱりとしたお家ご飯がいいな”などという感じで、薄紫色の夕陽に軍配があがるかも。……あくまでも希望的推測なんですけれど!
ところで、私が薄紫色の夕陽でいちばん感動したのはハワイ島・マウナケアの雲海の上から眺めたもの。
気高さと人を包み込むような慈悲深い優しさにあふれていて、思わず涙があふれてくるほどの美しさだった。帰り道、まるで瞑想した後のように心がシンと穏やかに静まり返っていたことを思い出す。もし毎日、そんなふうに気持ちを改められたら、人はどんなに成長できるだろう。
でも、わかっていても、なかなかそうはいかないのが人間の愚かさと可愛さというものだ。せめてわが家から見える夕陽を堪能して、感動の気持ちを枯らさないことにしようと思う凡人の私である。