藤原美智子の「色」ものがたり第4回 9月 赤いコート
BEAUTY / THE EXPERTS
2015年5月11日

藤原美智子の「色」ものがたり第4回 9月 赤いコート

2008.09  赤いコート

ヘアメイクアップアーティストととして第一線で活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。
シックスセンスのうち、“視覚”はどれだけのドラマを日々生み出しているのだろうか──目に映る彩を心で感じ、味わうことで、そこにいみじくもドラマを生み出す。
こんかいのテーマは「赤」。彼女の赤の物語です。

文=藤原美智子Photo by Jamandfix

赤いコート

「あらっ、黒い色の服ばっかり!」
これは30代半ばのころ、私のクローゼットの中を見た知人の一言。確かに、それまでの私のスタイルといえば、黒のタートルに黒のパンツが定番。つまり年中、“黒”ばかり着ていたのだ。たくさんの化粧品を触る撮影の現場で汚れても気にならないからというのが大きな理由だが、その他に「黒」という色が当時の私のストイックな性格に合っていて、居心地の良さを感じていたからなのだ。

2008.09  赤いコート

そんな、ある日、ショップで洋服を探しているときにパッと目に飛び込んできた色があった。クリアな真っ赤な色のコートだった。「あっ、見つけた……」、それを目にした瞬間、何か捜し求めていたものに出会えたように感じた。今から思うと、そのころ、今までとは違う自分を求めていたように思うし、ストイックなだけの装いが自分とずれてきていると感じていた。今の自分にぴったりの色を纏(まと)いたい――、そんなふうに無意識にも思っていたのだ。

服選びには流行っているからという理由や、あるいは自分らしさを表現したい、人から“こう”観られたいという心理が働くものだが、色に関してはその時々の深層心理が大きく影響しているように思う。たとえば、元気がないときには暗い色を、恋愛をしているときにはやさしい色や可愛い色、エネルギーが満ちているときはビビッドな色を選びがちである。

そう考えると、そのころの私はストィックな“静”からエネルギーが躍動する“動”への変換期だったといっていいだろう。または、そうなりたいという願望が芽生えた時期だったともいえる。“赤”に芽生えた私は、それからビビッドなピンクやブルーなどパッと気持ちが元気になるような色にも躊躇なく挑戦できるようになった。そして、少ししてから事務所を立ち上げることを思いついた。やはり、「赤いコート」を選んだ時期は私の変換期だったといえるし、その前兆だったのである。

選ぶ色には深層心理が表れる。だとしたら今、どんな色を好んでいるかを客観的に探ってみるものもおもしろいのではないだろうか。その時々の自分を簡単に自己分析できるのだから。

           
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