藤原美智子の「色」ものがたり第8回 2009年1月 黒の器
2009.01 「黒の器」
ヘアメイクアップアーティストとして活躍される藤原美智子さんに、「色」にまつわるエピソードを語っていただく連載。
色を自在に扱うことから生まれる新しい表情はつねに注目を浴びて、だからこそその視覚を刺激する「色」は、彼女に雄弁に語りかける。
2009年1月のテーマは「黒」。自作の2つの陶器が、いま思い出させることとは──。
文=藤原美智子Photo by Jamandfix
私が作ったのは茶碗や皿、花瓶などすべてが黒のほっこりとしたような形だった
26,7歳のころ、陶芸家に憧れて陶芸教室に通ったことがある。
土から器ができあがるまで自分一人の手で創り上げることができる、そんなところに惹かれたからだ。
撮影の仕事は、もちろん自分一人では成り立たない。雑誌であればモデルや女優、カメラマン、スタイリスト、編集、ライターなど10名弱のチームで。CMの撮影となると監督に照明、美術、車両部、テクニカルの人たちなども加わり、30名ほどのスタッフ数になる。皆が歯車の一つとなって、一つの作品を創り上げていく――。
今では一緒に創り上げる撮影という仕事に喜びを感じているが、20代のそのころは「自分一人で好きなように創れる仕事がしたい!」という欲求が溜まっていた。傍から見て、陶芸は私の条件に合っていたし、手を使って創るということもヘア・メイクという仕事に通じているような気がして、陶芸家に憧れたというわけである。
もちろん、陶芸教室に通ったものの長続きせずに終わったので、今もヘア・メイクという仕事をしている私である(もちろん、続けていても陶芸家になれたわけではないのだが)。だからといって、この経験が無駄になったかというと、そうではない。いくつか作った作品を通して、改めて自分がどんなものが好きなのかをハッキリと知ることができた。それが、当時の私にとって大きな収穫となったのだ。
自由課題の教室であったのに関わらず、私が作ったのは茶碗や皿、花瓶などすべてが黒のほっこりとしたような形だった。奇をてらわずノーブル、だけれども存在感が感じられるもの、円やかさが感じられるもの……。意図したわけではなく、そうしたものを作ることしか思い浮かばなかったし、作り上げるとすべてがそのような印象のものだった。また、黒という色で作ったからこそ輪郭が際立ち、そうした自分の好みをハッキリと知ることができたのだろう。
想い起こすと、そのころちょうど、“ヘア・メイクとしての自分の個性とは何だろう”と悩んでいた時期だった。だから、もしかしたら、それから逃がれたいために他の職業に目が向いたのかもしれない。でも、そのお陰で“自分の好き”をハッキリと知ることができたし、だからこそ今もヘア・メイクという職業を続けられているのだと思う。人生、何がきっかけとなったり、どうなっていったりするかわからないものである。この体験は、未知なことには躊躇しないで飛び込んでいく勇気と、自分の要求に素直に従える柔軟な心が大切ということも教えてくれたように思う。今も二つだけ残っている黒の器は、そのことを思い出させてくれる存在でもある。