みどりの触知学~旅する庭~
「みどりの触知学~旅する庭~」に関する記事
連載・塚田有一│みどりの触知学 第10回 『月夜の読書室』、『真冬の読書室』、そして……
お茶室よりも空に近くて、大きな木の梢に近い場所第10回 『月夜の読書室』、『真冬の読書室』、そして……(1)お茶会は、界を限って調度を整え、気分をさっと盛り込み、主客でその場の振る舞いを楽しみ、遊ぶ。僕たちがやった2回の読書室では、お茶会をやるようなつもりで、選本をお願いし、書物を置いて、植物やインテリアも配置した。文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)仕切り、限り屋上にあるガラスの箱で、お茶室よりも空に近くて、大きな木の梢に近い場所。さしずめ、屋上にいたる狭い螺旋階段が露地で、躙(にじ)り口をくぐったその先に広がる空間がガラスの箱。異空間という意味ではおなじだ。好みだって、とおしている。あるもので申し訳ないが、これがいまの全部ですということでは、侘び茶だってそうだった。こうした「引き寄せ」や「縮景」は、日本人が得意だといわれていること。花も庭も。仕切る、区切る、限ることで、広がるものなのだたとえば『真冬の読書室』のように、季節を「冬」に限って、その冬に、冬空の下や冬の夜長に読...
連載・塚田有一│みどりの触知学 第11回 花を生けた。活けた。埋けた
呑みこまれたたくさんの命と風景に。ちぎれ飛んだ記憶の断片に第11回 花を生けた。活けた。埋けたむきだしの、すさまじい力。海は昨日まで穏やかにおぼろな春に霞んでいた。波は今日だってきらきらと、光に揺れている。文・写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)花だけ抱えて、屋上にあるいつもの温室にむかう津波は多くの命を攫ってしまった。風景という記憶は海の底に引きずり込まれた。写真も、ノートも、楽器も、丹精した盆栽も、手紙も、携帯も、待ち合わせのあの場所も、バス停も、おばあちゃんのそろばんも。11日の揺れのあと、津波の威力が日々あきらかになって、なにかが裂けて、底が抜けて、僕の身体は真空状態だった。呑みこまれたたくさんの命と風景に。ちぎれ飛んだ記憶の断片に。逝ってしまった魂を偲んで、花を生けたいと、思った。十日経って、できたことはこれだけだ。花を生けるのは不思議だ。生けるまで、どうなるかわからない。花だけ抱えて、屋上にあるいつもの温室にむかう。うつわとみずと、はなとからだが、そこで出会い、そのあ...
連載・塚田有一│みどりの触知学 第12回 ゆく春の読書室
過ぎゆく春を、書物を手に、屋上で第12回 ゆく春の読書室温室を囲む欅や椋の木は、みるみる水をあげ、やわらかい葉がさわさわと音を立てています。延期していました「春おぼろの読書室」は「ゆく春の読書室」として開催されます。過ぎゆく春を、書物を手に、屋上で。そして「花綵(はなづな)」がvol.0としてはじまります。文・写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)いつまでも僕たちがきれいだねと言える世界がありますように三時の休みに、あの子に電話しよう。桜のつぼみもだいぶ膨らんだぁ。お雛様を片づけないと、お嫁に行けないっていうよね……。あったはずの、ちょっと先の未来。あったはずの、どきどきの待ち合わせ。あったはずの、ぬくもり。一瞬の真空。その後は、もう覚えていないんだ。鳥はやがてさえずって、花は頭をもたげるだろう。ひともまた笑うだろう。いつまでも僕たちがきれいだねと言える世界がありますように。白山吹選本|原田マハ(小説家)赤羽卓美(写真家)永田健二(税理士)温室企画|温室協力|リムグリーン、松山誠、...
連載・塚田有一│みどりの触知学 第13回 「リムグリーン」リスタート
リムグリーン的東方学「その1 七夕」開催第13回 「リムグリーン」リスタート2011年真夏──2007年に活動を開始した「リムグリーン」が神保町に移転しました。そのお披露目をかねて、あたらしいスタイリングのリムグリーンのプロダクトと、新作としてリムグリーン的鉢カバーのほか、Tシャツ3タイプを発表します。文・写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)「リムグリーン」のあらたな旅がはじまります拠点となる『東方學會』は、大正時代に学校として建てられたもの。懐かしい匂いでいっぱいです。名前のとおり、アジア研究の由緒ある財団が運営をし、多くの研究者、研究論文が出入りしています。入居者は出版関係がもっとも多く、ほかにも音楽関係や、日中交流の団体などなど。この界隈は、神田明神をはじめ、湯島聖堂やニコライ堂、大学も多く、また、たくさんのご飯屋さん、いろいろな本屋さん、楽器屋さんなどがある賑々しくも情緒と浪漫溢れる街。“東”とは、日の出の場所でもあり、みずみずしい緑があたらしく生まれ、すくすくと育つ場所...
塚田有一│新連載『みどりの触知学』のスタートにあたって
新連載『みどりの触知学』のスタートにあたって秋が深まりつつあります。はじめまして。「温室」の塚田有一です。僕は大きく4つの柱で、仕事をしています。「庭のデザイン」「活け花」「節供や手仕事のワークショップ」そして代官山にある「温室」の運営です。これらが入り交じって仕事のかたちをつくっています。文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)ただいま進行中プロジェクトは、下記をご覧ください僕の仕事で一番多いのは、個人邸の庭のデザインと施工・管理です。都心ではバルコニーや屋上の庭がやはり多いです。活け花は、定期の活け込みやウエディング、展示会や撮影などの装飾が中心。節供や手仕事のワークショップは「世田谷ものづくり学校」「赤坂氷川神社」「東京大学駒場IIキャンパス」で行っています。「温室」は代官山のビルの屋上にある古いガラスの温室を活かし、パフォーマンスや展覧会、撮影の場所として使っています。また、もうひとつの会社である「limbgreen(リムグリーン)」は、室内用の“indoor garde...
塚田有一│みどりの触知学 第2回:藍の焦げあと
塚田有一│みどりの触知学第2回:藍の焦げあと藍の花育てているのは蓼藍で、徳島などが産地として有名です。この時期に咲く薄いピンクと白が混じった米粒のような花は、少女のような慎ましさをもっています。このあと秋から冬にかけて、葉は黄色く染まり、クリスマスのころになると藍にひそむ赤が湿潤してきて、茎が真っ赤になります。真っ赤といっても紺色から赤が生まれたような風情の色です。そのころには種も熟します。文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)この夏も――合わせて4、5回、畑のある「世田谷ものづくり学校」と「赤坂氷川神社」にてワークショップを行いました。僕たちがやっているのは藍の「生葉染め」です。夏の暑い時期に、大きくなった藍の葉を摘み、葉をもぎり、水を適量加えてミキサーでジュースにします。次にそれを濾し布で絞ります。絞ると「とろり」とした感触があり、この柔らかい泥のような触感から、なにか大事なものをいただいているんだなぁと実感します。摘む直前の藍の葉そうやってできた染液に絹や麻の布を浸し、染...
塚田有一│みどりの触知学 第3回:紅花 艶紅 うつし紅 そして笹紅(ささべに)
塚田有一│みどりの触知学第3回:紅花 艶紅 うつし紅 そして笹紅(ささべに)七五三。三歳になった男女を祝う行事。女の子は初めてお化粧をする。お母さんが娘さんに小筆でそっと紅をさしてあげたのだそうです。この秋、本紅の美しさに触れる機会がありました。藍につづいて今回は紅のこと。文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)錦秋と玉虫色の紅空気がさらっとして、寒い日が多くなりました。「時雨(しぐれ)」と呼ばれる冷たい雨が、紅葉を濃くしていくと、昔の人は想っていたようです。もみじの語源は「もみいずる」。赤や黄色が葉からもみ出されてくるように見えていたのでしょうか。「紅葉狩り」といえば、やや呪術的な印象さえ受けます。いただきから裾野へ降りてくる紅葉は、山の女神が織る錦とも言われ、こうしたむかしの人の身体感覚が伝わってくる言葉に懐かしさを覚え、言葉は噛みしめれば、味や香りが立つものなのだと改めて思います。楓や蔦の紅葉ももちろん美しいのですが、僕は道ばたに生えているエノコロ草(ねこじゃらし)や、蓼(...
塚田有一│みどりの触知学 第4回:冬の太陽へ
塚田有一│みどりの触知学第4回:冬の太陽へ朝露をたくわえ、冬の朝日に輝く花をみると、やはり「菊」のことは書いておきたいと思う。いまごろの菊は残菊とか、晩菊とか呼ばれ、野性味ある小菊がほとんどだ。寒空を耐える真冬の枯れ菊も風情があって好きだ。文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)寒空にかがやく黄色漢字では「菊」。細かいものをかがんで集める、もしくはそれをくくってまとめるという象形文字に草冠がついた。同じように「鞠(まり)」や「麹(こうじ)」や「掬(すく)う」などの文字がある。「くくる」とか「くるむ」も関係ありそうだ。菊は平安時代に薬用として中国から入ってきたとされる。漢語の音が“kiuk”で、やがて「くく」とか「きく」となった。深まる寒さに耐え咲く放射状の花は太陽のメタファーともされ、花色は陰陽五行でも中央に配される黄色のものが多い。また香りも高く、そうした理由から、もっとも高貴な花とされたのだろう。「仏花」のイメージが強く辛気くさいとおもわれがちだが、高貴な花を亡くなった方に手...
塚田有一│みどりの触知学 第5回:温室について
塚田有一│みどりの触知学第5回:温室について温室。そこはいつも異国の香りに満ちていた。足を踏み入れた途端、みどりの波にくるまれる。植物の濃密な息づかい。水があって、鳥や蝶が飛んでいて、猿や小動物の啼き声でも響いていたら、ここは楽園かと錯覚するかもしれない。文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)「ここではないどこか」への憧れが温室を生んだ「大航海時代」と呼ばれた時代の終わりごろに、温室の原形である「オランジェリー」が生まれた。そもそも冬の間、寒さから柑橘類を守るための囲いが「オランジェリー」のはじまりであり、やがて暖かい日だまりをもつその室には人々が集うようにもなっていった。冬の厳しい欧州で、濃い緑の葉叢にひときわ光るオレンジやレモンなどの柑橘類は、まさに太陽や火のシンボルであった。日本でもふいご祭りのみかん、冬至の柚子、お正月の橙(だいだい)など、冬にはやはり暖かい色彩のこの果実にいろんな意味を象徴させてきた。洋の東西を問わず、あたたかな春を待ち望む気持ちは変わらない。そして、...
塚田有一│みどりの触知学 第6回:BMW Studio ONE=温室について
塚田有一│みどりの触知学第6回:BMW Studio ONE=温室について今回グリーンのデザイン監修をさせていただいた“BMW Studio ONE”は「温室」である。表参道からちょっと入ったところに出現した温室。そこでは何が結ばれ、そこから何がはじまるのだろう。文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)自然を「引き寄せ」て観賞するという文化のひとつ温室というとガラス張りで鉄骨の大きなグラスハウスとかグリーンハウス、またはビニールハウスをイメージするひともいるだろうか。「温かい室(むろ)」と書くように、食べ物を寒さから守り、保存する「室(むろ)」のようなものがおそらく最初の最初。温室のアーキタイプではないだろうか。ヨーロッパでは「オランジェリー」といって、大航海時代のあと、オレンジやレモンなど柑橘系の木々を冬の寒さから守る囲いが「温室」のはじまりだといわれている。(←BMW Studio Oneにレモンがあるわけ。黄色く色づいています)国内の閉塞状況から海外へ海外へと向って行った植...
塚田有一│みどりの触知学~空野原篇~ 第7回:「みどりの触知学」のワークショップが動きはじめます
塚田有一│みどりの触知学~空野原篇~第7回:「みどりの触知学」 のワークショップが動きはじめます「世田谷ものづくり学校(IID)」で4年つづけているワークショップは「学校園」という。その名の通り、もと学級菜園だったところをお借りしている。そこでは藍を中心に育てているわけだが、そもそもどうして藍だったのかと考えると、これが「好み」と「縁」でしかなかった。結局これがいちばん長つづきするのかもしれないけど。ただ、「ものづくり」と名のつく学校であれば、土づくりからはじまって年間を通して観察したり、作業などによって、自然の恵み(藍であれば青)をいただくということを、「身体」を通して知るということが大事なのではないか、という思いはあった。その想いはますます強くなっている。東京大学先端科学技術研究センターと赤坂氷川神社一昨年前から、ほかの場所でもワークショップを企画し、そこの方々とともに場所をつくっている。そのひとつは駒場にある「東京大学先端科学技術研究センター」である。ここでは庭をリフォームし...
塚田有一|塚田有一個展[Faka はか] 開催
ヒルサイドテラスアネックスB棟・屋上の 「温室」 で開催塚田有一個展 [Faka はか]花をあつかってダイブ(dive!)経ちますが、夜とか水とか灰とか、太陽とか鳥の声とか、黒い土とか、藤棚、公園、歓声……。一瞬の多層多重多情におののき、あきれてしまうことが増えました。細胞が花をいけたいと、今回は言うのです。「色は匂えど散りぬるを……」。文と写真=温室そう言われてみれば、生け花は「墓」かもしれないFaka(はか)は仕事量のことだという。「はかばかしい、はかどる」という言葉がある一方で、日本人は「はかない」ものにもことよせてきた。生け花は、はかなくて同時にはかばかしいものであり、切られた花の「はか」であり、「秤り」なのだ。植物はいつも、またたきの速さと深さを教えてくれる。過去、現在、未来。いまの重さ──。時間が日によってばらばらになっていますので、ご確認のうえ、お運びください。屋上の温室でお待ちしています。塚田有一個展[Fake はか] 会場|温室東京都渋谷区猿楽町30-2ヒルサイド...
連載・塚田有一│みどりの触知学 第8回:うつ うつろひ うつつ
塚田有一│みどりの触知学第8回:うつ うつろひ うつつ今年は京都で梅雨と真夏の交代劇に立ち合えた。この日、午後には雷がとどろき、豪雨がまたたくまにアスファルトを濡らした。でもやがて、厚い雲が切れ切れになって、雨は弱まった。雲間から陽が射し込み、東の空には雨を抱えて急ぐ梅雨の後ろ姿が見えた。文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)みちのきおく雨が降り出したとき、僕たちは、染め物工場を改装したギャラリーの2階にいた。『taka ishii gallery』といって、東京の清澄と京都のここにスペースをもっている。どちらの空間もかつての「記憶」が活かされたものになっているので、その分「いま」が「未知の記憶」を呼び興す場所になりうる。トタンの屋根を叩く雨音、雷は遠くで大気を揺らしている。そんななかで作品を見た。空間ごとだ。しろ田村尚子さんの写真を見るのははじめてだった。医学雑誌『精神看護』医学書院刊で連載する「ソローニュの森・ラ・ボルド精神病院」という写真シリーズ。囲われた白塗装の壁に、も...
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