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2015年5月29日
連載・塚田有一│みどりの触知学 第11回 花を生けた。活けた。埋けた
呑みこまれたたくさんの命と風景に。ちぎれ飛んだ記憶の断片に
第11回 花を生けた。活けた。埋けた
むきだしの、すさまじい力。
海は昨日まで穏やかにおぼろな春に霞んでいた。
波は今日だってきらきらと、光に揺れている。
文・写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)
花だけ抱えて、屋上にあるいつもの温室にむかう
津波は多くの命を攫ってしまった。
風景という記憶は海の底に引きずり込まれた。
写真も、ノートも、楽器も、丹精した盆栽も、手紙も、携帯も、
待ち合わせのあの場所も、バス停も、おばあちゃんのそろばんも。
11日の揺れのあと、津波の威力が日々あきらかになって、
なにかが裂けて、底が抜けて、僕の身体は真空状態だった。
呑みこまれたたくさんの命と風景に。ちぎれ飛んだ記憶の断片に。
逝ってしまった魂を偲んで、花を生けたいと、思った。
十日経って、できたことはこれだけだ。
花を生けるのは不思議だ。
生けるまで、どうなるかわからない。
花だけ抱えて、屋上にあるいつもの温室にむかう。
うつわとみずと、はなとからだが、そこで出会い、
そのあいだでおこること。
めにみえないものはいつでもみえる世界に接している。
うつわとみずと、はなとからだの間で
あたらしく生まれてくるものがある。
足りなければほかのなにかを引き寄せる。
……そうか、磁場がここにできているのか。
花を生けた。
活けた。
埋けた。
あたらしく生まれてくるように。
僕はしばらくこのことをつづけたいとおもっている。
温室
塚田有一