連載・塚田有一│みどりの触知学 第10回 『月夜の読書室』、『真冬の読書室』、そして……
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2015年5月29日

連載・塚田有一│みどりの触知学 第10回 『月夜の読書室』、『真冬の読書室』、そして……

お茶室よりも空に近くて、大きな木の梢に近い場所

第10回 『月夜の読書室』、『真冬の読書室』、そして……(1)

お茶会は、界を限って調度を整え、気分をさっと盛り込み、主客でその場の振る舞いを楽しみ、遊ぶ。僕たちがやった2回の読書室では、お茶会をやるようなつもりで、選本をお願いし、書物を置いて、植物やインテリアも配置した。

文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)

仕切り、限り

屋上にあるガラスの箱で、お茶室よりも空に近くて、大きな木の梢に近い場所。さしずめ、屋上にいたる狭い螺旋階段が露地で、躙(にじ)り口をくぐったその先に広がる空間がガラスの箱。異空間という意味ではおなじだ。好みだって、とおしている。あるもので申し訳ないが、これがいまの全部ですということでは、侘び茶だってそうだった。こうした「引き寄せ」や「縮景」は、日本人が得意だといわれていること。花も庭も。

仕切る、区切る、限ることで、広がるものなのだ

たとえば『真冬の読書室』のように、季節を「冬」に限って、その冬に、冬空の下や冬の夜長に読みたい、読んでほしい本を選ぶとき、それぞれが書物に託したいろんな「冬の気分」がある。

初冬や晩冬と真冬はちがうだろうし、「冬といえば、◯◯だよね」という連想も、わりと普遍的な寒さとか雪とか暗いとか、人生にたとえると老人だとか、色なら黒かなとか、植物なら枯れてるなどなど。寒いからちょっと春をイメージできる本を選ぶこともある。寒い冬に暖かいお布団に潜り込んで、お父さんに読んでほしい本とか、冬の語源をたどっていくような本や、雪の結晶の本、冬の星空や、うさぎや熊の本だっていい。冬の音の本もあるし、冬っぽい作品をつくるひとたちの作品集だっていい、冬っぽいひとの伝記でも、冬に起きた事件のなまなましさだっていい。際限なく広がっていく冬をどこで限るかが、大事なのだ。

温室|春おぼろの読書室 03

『真冬の読書室』の絵本

温室|春おぼろの読書室 07

『真冬の読書室』の夕方のようす

月に照らされて 月的な

区切ることで、またそれぞれの区切り方がみえることで、自分の区切りも増殖する。『月夜の読書室』では、浪漫派の書物もあれば、鉱物の本、月の女神の本、月の写真集や、月のもつ夜や海や水や、妖しい世界や、異界の本など、小さいころの記憶に触れてくる絵本や漫画など、さまざまな切り口があった。たくさんの月的なものが、月明かりに照らされてならぶ。気になる本を手に取るとき、そこにはきっと月が関与している。

ちょうど初日が満月で、やがてビルのあいだから月が顔を出した。温室の照明を消すと、月明かりが落ちて、影ができるくらい。書物の世界のなかの月的な気分と、本物の月景色が、行ったり来たり。

書物に印刷された言葉と、空にうかんだ実物の天体とのあいだにあるこの場所での「こと」は、なにか痕跡となって残されていく。「羊歯は月明かりで銀の鋼になる」と書いた宮沢賢治はこう言った。「いまここにあるでこぼこ道だけが未来そのもの」。

季節と読書、植物と書物、自然と本、その季節その場所でその本を、手に取る、そのこと。

春おぼろの読書室』は、3月20日(日)と21日(春分の日)に開催

第10回 『月夜の読書室』、『真冬の読書室』、そして……(2)

『真冬の読書室』でかいま見た

場所が「温室」でもあるし、僕の仕事がそうであるので、読書室には自然と植物が入ってくる。今回は本のあいだに植物を置いてみたりした。これは通常本屋さんや、図書館などではご法度になっているようだ。水は紙でできた書物には天敵であろうし、湿気や汚れなどの原因になりそうだ。けれど、ここは温室だし、半分くらい外、日にも焼ける。よほどの貴重本や、お借りしているもの以外は多少は平気と思っている。

はっきりしたのは、植物と書物は、相性抜群。しかも生きている植物が横にあるだけで書物も生き生きとして見えた。まるで話しをしているかのように。

「言葉」と書くように、ことばは植物の葉に見立てられる。それが文字として書物に定着されている。葉の形状は書物に似ている。いや、書物がそれを真似ているといっていいのではないか。葉を閉じて、開いて、それが重なって閉じられて、一冊の書物になる。古代インドでは、「タラヨウ」という樹の葉に文字を書いていたという。紙の原料も多くは植物だ。仲が良いのも当たり前か。

あまりにも自然で、植物が書物に見えてくる。そうだ。彼らもまた一冊の書物なのかもしれない。開けば開くほど、めくればめくるほど、物語や情報が書き込まれている。彼らはそのままで待っている。まだ記述されていない物語をもっている。あとはこちらが聞けるかどうか、言葉を、声を、表情を、触感を。それだけなのかもしれない。

鉢植えになった植物は、ポータブルという点からも書物に近づいている。土に植えられたものとちがって、こうすれば僕らはそれをもっていける。本ほどではないが、おかげで僕たちは旅ができる。

温室|春おぼろの読書室 09

『月夜の読書室』のようす

温室|春おぼろの読書室 10

『月夜の読書室』の花

『春おぼろの読書室』
次回は3月20日(日)と21日(春分の日)に開かれます。
タイトルは『春おぼろの読書室』。本を選ぶのは原田マハさん(小説家)、赤羽卓美さん(写真家)、永田健二さん(税理士)、そして塚田有一ほか温室のスタッフです。

桜前線が日本列島を駆け上がってくるとき。おぼろ月夜になにがおこるでしょう?

春おぼろの読書室
三月二十日は十六夜の月。
二一日は春分で、彼岸入り。
昼と夜の長さがおなじだって、ほんとかな?
あちらとこちら、出入り自由。
桜ももうすぐ咲くしね。
春は朧の読書室。
おぼつかない、おもかげの読書室。

『春おぼろの読書室』
期日|2011年3月21日(月)15:00~21:00
3月22日(火・祝)15:00~21:00
場所|渋谷区猿楽町30-2ヒルサイドテラスアネックスB棟屋上
選本|原田マハ(小説家)、赤羽卓美(写真家)、永田健二(税理士)、温室
料金|500円
企画|温室
協力|リムグリーン、天神堂小島印房
問い合わせ|090-3420-3514(塚田)

           
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