塚田有一│みどりの触知学 第6回:BMW Studio ONE=温室について
Design
2015年5月29日

塚田有一│みどりの触知学 第6回:BMW Studio ONE=温室について

塚田有一│みどりの触知学

第6回:BMW Studio ONE=温室について

今回グリーンのデザイン監修をさせていただいた“BMW Studio ONE”は「温室」である。表参道からちょっと入ったところに出現した温室。そこでは何が結ばれ、そこから何がはじまるのだろう。

文と写真=塚田有一(有限会社 温室 代表)

自然を「引き寄せ」て観賞するという文化のひとつ

温室というとガラス張りで鉄骨の大きなグラスハウスとかグリーンハウス、またはビニールハウスをイメージするひともいるだろうか。「温かい室(むろ)」と書くように、食べ物を寒さから守り、保存する「室(むろ)」のようなものがおそらく最初の最初。温室のアーキタイプではないだろうか。

ヨーロッパでは「オランジェリー」といって、大航海時代のあと、オレンジやレモンなど柑橘系の木々を冬の寒さから守る囲いが「温室」のはじまりだといわれている。(←BMW Studio Oneにレモンがあるわけ。黄色く色づいています)

国内の閉塞状況から海外へ海外へと向って行った植民地時代。植民地となった地域はたまったものではなかっただろうが、海の果てへの好奇心は尽きることなく、たくさんの動植物も集められた。それらを保存できる場所として、温室の技術は発展していった。貴族たちはこぞって大きな温室をつくり、珍しい植物を集めたそうだ。(←BMW Studio Oneにいろんな植物が置かれているわけ)

自然を「引き寄せ」て観賞するという文化のひとつとして、温室の意味は現代にも引き継がれている。いや、現代こそもう一度温室の意味をとらえ直す機会なのかもしれない。

327_03_bmw

327_05_bmw

町家に見られるような坪庭的みどり

ここでの挑戦は、クライアントであるBMWさんの「サスティナブル」とか「フューチャープルーフ」というコンセプトと、日本の「森」を、都心に忽然と姿を現した「温室」という場所で、どう結び合わせるかということだった。

森といってもサスティナブルということであれば、人々の暮らしと身近な「里山」のイメージが近いだろう。山と里の間にあるのが里山だ。しかし、あとからリクエストがあった竹とともに、日本の「雑木林」にある木々は温室ではもたないし、時節柄落葉しているものも多い。観葉植物で枝振りや柔らかな葉をもつもの、常緑で葉の大きくないものを探して組み合わせていく方法がいいだろうと思った。

そのため今回コラボレーションをさせていただくことになったグリーンワイズさんの温室で、コンセプトに合いそうな観葉植物をピックアップさせていただいた。マメ科のエバーフレッシュやカリアンドラは日本の山野に自生し、夢のような淡いピンクの花を咲かせるネムノキの仲間、シマトネリコは同じく自生するタモと同じ仲間、これらは立派な木があった。椿に見立てることもできるテリハバンジロウやイチジク科のゴムの木の仲間、ヤツデなどと同じ仲間のウコギ科の植物もたくさんある。灌木にはシェフレラの細葉のものなど。芭蕉やヤシの木などの大きな葉のもの、もしくはゴムの幹のように気根がたくさんぶら下がっているものなどいかにも「熱帯ジャングル」を外していくと意外と雑木林のようになるのだ。あとは高木、中低木、地被植物をなるべく自然な感じで組み合わせていくとそれらしくなっていくだろう。グリーンワイズさんは、いい木を大事に管理されていて、歴史のある会社だということを実感した。

リクエストの竹はそのなかに混ぜて植えるとごちゃごちゃしてしまいそうな気がしたので、相談の上「仕切り」的に使うようにした。つまり、カフェスペースやラウンジがリビング的なイメージであるならば、町家に見られるような坪庭的にみどりがみずみずしくあって、その境界として竹を使うイメージ。よしずや簾のような。垣根のような。

327_09_bmw

327_11_bmw

都市の真ん中にある「温室」の意味とは

住まいでいえば「リビング」的なカフェやラウンジの周りにはプランターを配した。こちらもサスティナブルという観点から選んだものばかりだ。リムグリーンという僕のもうひとつの会社でデザインしたプランターが2種類。いずれも「排水」をどう楽しもうか、植物や土や水とかかわりをもてるようにデザインを工夫したものだ。「引き出し」で排水ができる「drawer」や、水勾配がついていてその先につけられたバルブやコルクで排水できる「slope」を置いた。日本の庭は、水をとても上手に使う。多様な流れや掛樋など水音や波紋の美しさを聴くなど、水から受ける情緒をプロダクトのデザインに反映させたいと思って製作している。そこにはベンケイ草科のカランコエ、ユリ科のハオルチアなどの多肉植物、同じくユリ科のユッカなど、坪庭にあたる場所でたくさん使用したのはモンスーンアジアが原産地だったが、原産地の異なる植物を使った。プランターはほかにも車とつなげて古タイヤを使った鉢カバーなどを選んだ。

カフェカウンターの上に棚を設え、そこにも来歴が多様ないろんな植物を置いてある。サトイモ科、ガガイモ科、パイナップル科、ラン科などなど。来歴を辿ってみると、ちょっとした世界の縮図がここにあるわけだ。世界中からこうして植物が集まってくる。それも現代の都市のおもしろさだろう。都市の真ん中にある「温室」の意味もそこにあるのかもしれない。それはそのまま都市生活でのことでもある。

327_13_bmw

327_16_bmw

いろんなワクワクが詰まっている「温室」と「車」の相性

「BMW Studio ONE」にはオーガニックな素材で作られた料理を食べることができるカフェもあり、マルシェも開かれている。ゲストの皆さんに合わせて選ばれた書物もある。自然の中では食べることはそのまま循環であるはず。排泄したものは必ずほかの生命を養うからだ。使われている野菜や果物は人間が長い間かけて改良を重ねてきた文化財ともいえる。そこにはどんな道のりがあったのか。いろいろと想像をめぐらせることだってできる。植物も同じだ。食材に植物とかかわらないものはないはずだし、実際に温室内にある植物のことをよく観察すると不思議なことがたくさんみつかるだろう。また、ゲストの方が象徴的に選んだものにもいろんなストーリーがあって、そこに一緒に置かれた書物はまさに「旅行器」である。本を開けば一気にその場から旅がはじまる。かつての温室がそうだったように、知的好奇心や冒険心がくすぐられたら、やはり人は旅に出たくなる。そうしたら現代の都市の冒険者たちはさっと車に乗り込むのだろうか。リアルな体験としての旅へ。見知らぬ土地に身を置くこと、道行きを自分の身体で感じることでしかわからないことがたくさんあるのだろう。

車はプライベートな空間である。楽しく気の合う仲間と出かけるのもいいし、ひとりで知らない何処かへ行く、懐かしい誰かに会いに行く、その「あいだ」でいろんなことを感じる移動空間である。

いろんなワクワクが詰まっている「温室」と「車」の相性って、結構良かったんじゃないかと思っている。

           
Photo Gallery