OPENERS CAR Selection 2013 大谷達也 篇
OPENERS読者におくる2013年の5台
OPENERS CAR Selection 2013 大谷達也 篇
2013の自動車業界を大谷達也氏が振り返る。いま“OPENERS読者が注目すべきクルマ”とはなにか。そして、ことしのクルマ業界についても総括していただいた。
Text by OTANI Tatsuya
エコは当然、その先のクルマの本質が問われはじめた
ハイブリッド技術ではまだいくぶんのバラツキがあるものの、ダウンサイジング コンセプトなどによる省エネ技術がひと段落したいま、エコというキーワードはどのメーカーでも当たり前のように使われるようになってきました。もちろん、CO2排出量削減に向けた努力は今後もつづけられるでしょうが、そうした環境性能だけでクルマを評価するのはやや時代遅れになってきたような気がします。つまり、エコであるのはもはや当然。そのうえで、どんな付加価値があたえられているかが、各自動車メーカーの腕の見せどころになっているように思うのです。
そのひとつが快適性やクォリティであり、もうひとつが走りのよさであることはまちがいありませんが、どちらの領域でも、マジメに頑張っているブランドとそうでないブランドの差がつきはじめているような気がします。いや、頑張っていないというと語弊がありますね。持てる力をうまく出し切っているメーカーと、何らかの理由でそれがスムーズにできていないメーカーに分かれているような気がするのです。この辺は、出遅れ感のあるメーカーにはいまのうちに追い上げていただかないと、この差は今後広がる一方になると思われるので要注意ですね。
とはいえ、エコのために我慢するだけのクルマではなく、走りや快適性などといったクルマの本質にかかわる部分に改良の手がおよんでいることは、われわれクルマ好きにとっては本当に喜ばしいことです。気がつけば、最高出力300ps台のクルマはもはや珍しくなく、500psを越えているのに日常的に無理なく使えるなんてモデルも増えてきました。快適性でいえばよりスムーズな乗り心地、ノイズレベルの低いクルマが増えています。そのうえで、ドライバーの気持ちがぱっと明るくなるような仕掛けや、スペースユーティリティ、さらには4WDによる優れた走破性をそなえたクルマなども続々登場しています。言い換えれば、クルマを選ぶ楽しみはより深く、より幅が広がっているのです。
今後はハイブリッドカーのシェアが一層高まるほか、2015年には日本国内でも燃料電池車の量産がはじまります。つまり、自動車の本格的な電動化はもう目前まで迫っているわけです。私は自動車の電動化にたいしてはまったく悲観的ではなく、「運転して楽しい別の種類のクルマが増えるだけ」だと予想しているので、選ぶ楽しみという面では選択肢がより広がって益々楽しいクルマ社会になるんじゃないかと期待しているところです。
大谷達也がOPENERS読者にオススメする2013年の5選
Porsche Cayman
ポルシェ ケイマン(2.7リッター、6MT)
インプレッション記事でも書きましたが、運転操作にこれほど素直に反応してくれるクルマは滅多にありません。このことは、いかにケイマンが基本に忠実に、そしてクォリティ高く作られているかの証明ともいえます。エンジンの回りかた、PDKの滑らかな作動感、フリクションの少ない足回りなどは、どれも本当にうっとりさせられますね。正直、自然吸気2.7リッターのエンジンは“腰を抜かす”ほどパワフルじゃありませんが、限られたエンジンパワーのなかでいかにスムーズに、いかに無駄なく走らせるかというのも、知的なドライビングの楽しみという面では相当味わい深いものがあると思います。正直、私もおサイフに余裕があったらぜひ欲しい1台です。
Volkswagen Golf TSI Trendline
フォルクスワーゲン ゴルフ TSI トレンドライン
このクルマにかんしてはすべて語り尽くされた感もありますが、私自身が改めておもうのは、ゴルフにはフォルクスワーゲンのクルマ作りにたいする熱い思いが込められているということですね。正直、もはや自動車界の巨人といっても過言ではないフォルクスワーゲンですから、その気になれば、世界一のコンパクトカーをつくるのはそれほど難しくはないとおもうんですよ。でも、この7世代目のゴルフには手抜きが一切感じられません。それどころか、「これでもか! これでもか!」と畳みかけるようにクルマのよさが磨き上げられていて、そこには「ライバルをちょっとしのげばいい」とか「売れるクルマを作ってやろう」とか、そんな“よこしま”な気持ちは一切なく、「自分たちがいま持っている技術を結集したらどこまでいいクルマがつくれるのか?」 という、とても崇高なおもいが込められているようにおもいます。格好良くいえば「フォルクスワーゲンが自分自身に挑戦した結果」がゴルフだったような気がするのです。だから、買って絶対に損のないクルマですよ、本当に──。
BMW 320d BluePerformance Touring
ビー・エム・ダブリュー 320d ブルーパフォーマンス ツーリング
もともとディーゼル好きの私ですが、このBMWの4気筒は特にいいですね。低回転域でも、スロットルペダルを踏んだ瞬間にクルマがぐいと前に押し出される感覚がある。しかも、ディーゼルなのにエンジンを回していってもスムーズ。高速巡航でのパワフルな走りを見せてくれるし、もちろん燃費もいい。そしてまた、このパワートレーンと組み合わされるシャシーが素晴らしい。路面からのショックを優しくカバーするしなやかさと、山道をぐいぐい駆け上っていく力強さをあわせ持っている。Dセグメントで質の高いステーションワゴンをお探しの方にはお勧めの1台です。
いくらドイツが良質なクルマをこころがけたところで、ドライバーをいかに興奮させるかという面では、イタリアの“跳ね馬”には到底かないません。まあ、情熱の国“イタリア”をそのままクルマにしたのがフェラーリだから、それも当然ですよね。その点はこのF12もまったくおなじで、6.3リッター V12エンジンはバイクのエンジンみたいに軽々と回るうえ、8,250rpm(!)という超高回転で740psという途方もないパワーを生み出してくれます。ちなみに私め、某ワインディングロードにてエンジンのもたらす快感に浸りきっていたところ、2速トップエンドで進入した最初のコーナーで早くもお尻がむずがゆくなってそのままオーバーステアになった、という経験をもっています。でも、そんなときにも抜群のボディ剛性(これが本当の驚き)とスムーズな足回りにより、まったく危なげなくコントロールできちゃうところに、最新フェラーリのエンジニアリング レベルの高さがあらわれているような気がしました。ただエモーショナルなだけではない、ハードウェアの完成度の高さでも注目したいフェラーリの誕生といえそうです。
OPENERSの自動車情報は輸入車中心ですが、最近のマツダの走りは、これまでヨーロッパ車を何台も乗り継いだ方にもきっと満足していただけるくらい質の高いものになっています。マツダと言えばエンジン、ギアボックス、シャシーなどの技術を全面的に見直したSKYACTIV TECHNOLOGYで注目されていますが、おなじくSKYACTIV TECHNOLOGYを全面採用したアクセラではさらに乗り心地が改善されており、特に16インチタイヤを履く1.5リッターモデルは上質なヨーロッパ車とくらべても見劣りしない快適さが実現されています。それとともに特筆したいのが、ドライビングポジションを徹底的に見つめ直した点。右足をまっすぐ伸ばしたその先にスロットルペダルがあり、身体の真っ正面にステアリングがあるという実にあたり前なことが実現されているのですが、アクセラに乗ると、このあたり前のことがしっかりできていないクルマがいかに多いかを痛感させられます。あたらしさと質の高さを感じさせるエクステリア デザインも文句なし。あとは、インテリアのクォリティがもう1段上がれば、ヨーロッパ市場でも高く評価されることになるでしょう。