ポルシェ ケイマンに試乗|Porsche
Porsche Cayman|ポルシェ ケイマン
Porsche Cayman S|ポルシェ ケイマン S
ポルシェ ケイマンに国内で試乗
第3世代の「ボクスター」登場に遅れること8カ月。2代目「ケイマン」がいよいよ日本に上陸を果たした。すでにOPENERSではポルトガルでの試乗をお伝えしたが、今回は富士山麓で試乗の機会を得た。2シータースポーツカーの大本命を大谷達也氏がリポート!
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by MOCHIZUKI Hirohiko
ポルシェ家の一人前のスポーツカーとして認められた
ボクスターがモデルチェンジした段階であきらかになっていたとはいえ、新型ケイマンの全方位的な質感の向上には本当に目を見張らされる。
エクステリアではボディパネルにより張りが出てプレミアム感を強調するいっぽう、エッジの効いたキャラクターラインは工作精度の精緻さを印象づけている。また、ホイールベースを先代より60mm延長するとともに、全高を10mm低くすることで手に入れたプロポーションの良さも特筆すべきだろう。このため、機構的にはミドシップながら、フロントエンジンの古典的なスポーツカーにも通じる伸びやかなクーペフォルムを手に入れた。
そうした印象はインテリアにも引き継がれている。ステアリング、メーターやレバー類、ダッシュボードまわりなど、どこをとっても安普請な印象は受けない。こうした扱いは「ケイマンがポルシェ家の一人前のスポーツカーとして認められた」ことを裏付けているようにもおもえる。
“ケイマンシリーズ”には、これまでどおり“素”の「ケイマン」と、「ケイマンS」の2タイプが用意される。
ケイマンは202kW(275ps)と290Nmを発する水平対向6気筒 2.7リッターエンジンを搭載。いっぽう、ケイマンSではエンジンが239kW(325ps)と370Nmを生み出す3.4リッターに置き換えられ、サスペンションの設定はよりスポーティになり、ブレーキは911カレラとおなじものにグレードアップされる。
ちなみに、ギアボックスはいずれも6段MTと7段PDKが用意されるが、販売的に大多数を占めるPDKモデルで両車の最高速度と0-100km/h加速を比較すると、ケイマンの264km/h / 5.6秒にたいし、ケイマンSでは281km/h / 4.9秒となる。
価格はケイマンが612 / 659万円でケイマンSは773 / 820万円(いずれも前者が6MTで後者がPDK)。
「お、ケイマンSのPDKだったら911と近いじゃん!」とおもわれるかもしれないが、“素”の「911 カレラ」(7MT仕様)はいまや1,145万円で、ケイマンSとは300万円を越す開きがある。
この価格差は、911の異次元ともいえる完成度の高さを知ればたちどころにして納得できるもので、実にポルシェらしい絶妙な価格設定だ。
ただし、911の話題はまた別の機会に譲り、ここではケイマンに絞って話を進めていこう。
スポーツカーとしての資質の高さ
品質感の向上とともに特筆すべきは、大幅な軽量化が図られたことだ。車体の44パーセントにアルミを使用することにより、ボディシェル単体で先代より47kgも軽くなった。ただし、ただ軽くするだけではなく、ボディの捻り剛性を先代より40パーセントも向上させるなど、ポルシェらしいこだわりも見える。
ちなみに前後の重量バランスは前:後=46:54。この結果、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムはケイマンS(PDK)で実に7分55秒をマークするという。ちなみに911 カレラのラップタイムは7分58秒。ケイマンのスポーツカーとしての資質の高さは、こういった部分からも裏付けることができる。
Porsche Cayman|ポルシェ ケイマン
Porsche Cayman S|ポルシェ ケイマン S
ポルシェ ケイマンに国内で試乗 (2)
ケイマンに乗れば自分の腕前を知ることができる
富士山の麓でおこなわれた試乗会では、はじめにケイマン(6MT)に、つづいてケイマンS(PDK)に試乗した。
“素”のケイマンに乗ってまず気づくのは、その乗り心地の良さである。路面の凹凸にあわせてタイヤが滑らかに上下するので、ゴツゴツした印象が残らない。
サスペンションの動きがスムーズなのは、ちょっとした段差だけに限らず、スピードを上げていったときに大きなうねりに遭遇したときも同様で、ふわりと衝撃をかわして乗員に不快なおもいをさせない。その軽やかな印象は、まるでよくできたスポーツセダンのようである。
実際、ケイマンの“足”は本当によく動く。
たとえばコーナーに進入するとき、もしくは加減速をおこなったとき、サスペンションは素直にロールやピッチングを起こすので、クルマにどのような入力がかかっているのかが手に取るようにわかる。
もちろん、ストロークの量はスポーツカーとして適正な範囲なので、ハードなコーナリングをおこなってもグラリと傾くことはない。
それでも、クルマにかかるGとサスペンションのストローク量がきれいに正比例しているので、コーナリングスピードが限界の何割程度なのか、もしくは前後の荷重バランスがどのくらいなのかが正確に把握できる。
言い換えれば、自分のドライビングをチェックするのに、これほど好都合なクルマはないといえる。だから、ケイマンのロールやピッチングをいつでも自分の狙いどおりコントロールできるようになったら、そのときはアナタの腕前も相当のものとおもって間違いない。
ところで、この手のサスペンションをもつクルマは、往々にしてコーナー進入時にしっかりとフロントに荷重かけないとアンダーステアに陥るものだが、ケイマンは例外で、無造作にステアリングを切り込んでもノーズはすっとインを向いてくれる。
だから、実をいうと正確に荷重移動をさせなくてもおもい通りに走らせることはできるのだが、せっかくケイマンに乗るのなら、前述のとおりクルマの姿勢をコントロールするテクニックをしっかり身につけて欲しいとおもう。
2.7リッターのエンジンはスムーズで、トルクの山や谷がないのでスピードのコントロールは容易。これもスポーツドライビングの腕を磨くにはもってこいの特性といえる。
ただし、“素”のケイマンに爆発的な加速力を期待すると、きっと失望する。それよりも、エンジンパワーを効率よく使う知的なドライビングのほうがこのクルマにはよく似合う。その意味で言えば、重厚長大なハイパワーカーよりも、軽快ですばしっこいライトウェイトスポーツカーに近いドライビングフィールである。
6MTはストロークがやや大きめながらシフトレバーの動きは軽くスムーズなうえ、ゲートの感触もしっかりしているので、ギアチェンジの楽しさをたっぷり味わえる。ヒール&トゥーを無理なくできるペダルレイアウトも魅力的で、この点からもスポーツドライビングの“教則本”としてはうってつけといえる。
Porsche Cayman|ポルシェ ケイマン
Porsche Cayman S|ポルシェ ケイマン S
ポルシェ ケイマンに国内で試乗(3)
ケイマンSは実戦向き
つづいてケイマンSに乗り込む。
PDKの動作は流れるようにスムーズ。ちょっとイレギュラーな操作をしてもボディがガクガクすることはないので、トルコン式ATから乗り換えても違和感は感じないはず。それでいてシフトは俊敏そのもの。この仕上がりであれば「セールスの9割ほどがPDK」という話も頷ける。
排気量が700cc大きく、50psと80Nmが上乗せされたケイマンSのエンジンは、トップエンドのパワフル感では“素”のケイマンを大幅に凌ぐが、中低速域では「少しトルクが厚盛りになったかな?」くらいの印象にとどまる。
いっぽう、サスペンションの感触は“素”のケイマンにくらべてはっきりと硬い。もっとも、これより硬いスポーツカーはいくらでもあるし、スポーツセダンであってもこれより“ガッシリ”した印象を与えるモデルは少なくない。そういったクルマにくらべれば、ケイマンSの乗り心地ははるかにスムーズで快適に感じられる。
ただし、“素”のケイマンのようにクルマの動きをチェックするのが容易かと問われれば、引き締まった足回りをもつぶん、乗り手にはより高い感度のセンサーが要求される。
この差は初心者にとっては意外と決定的で、「ケイマンならわかるけど、ケイマンSだとちょっとわかりにくい」と指摘されたとしても不思議ではない。
もっとも、このソリッドなサスペンションはフロント 235/35ZR20、リア 255/35ZR20サイズのピレリ「Pゼロ」がもつポテンシャルを存分に引き出し、優れたコーナリング性能を発揮してくれる。
そうしたキャラクターは「良質なトレーニング素材」というべき“素”のケイマンにくらべるとはるかに実戦向きで、それなりに腕のあるドライバーでないと本当の実力を確かめるのは難しいかもしれない。
目立ったちがいはサスペンションの味付けだけなのに、2モデルの位置づけというか役割ががらりと変わっていることは実に興味深い。
Porsche Cayman|ポルシェ ケイマン
Porsche Cayman S|ポルシェ ケイマン S
ポルシェ ケイマンに国内で試乗 (4)
ケイマンは911の廉価版でもなければ代用品でもない
私だったらケイマンとケイマンSのどちらを買うだろうか? 率直にいって、手元に置いておきたいとおもったのは、自分のドライビングのリファレンスとしても役立つケイマンのほうである。
これと、新型「ゴルフ」のトレンドラインの2台持ちという、シンプルでありながら良質なドイツ車のコンビネーションが、いまの私にはとても清々しく映る。
別の言いかたをすれば、乗り手の知性をしめす組みあわせともいえるだろう。
いっぽうで、ケイマンSのパフォーマンスの高さはもちろん魅力的だ。そのことは充分に理解できるのだが、どうせここまでいくのなら、ちょっと無理をしてでも911を狙ったほうがいいような気もする。まあ、この話題も機会を改めてじっくり取り上げたいところではある。
いずれにせよ、あたらしいケイマンは911の廉価版でもなければ代用品でもなく、1台のスポーツカーとして明確なキャラクターと優れた完成度を手に入れていた。
本物のスポーツカーが600万円台で買えるなんて、本当に素晴らしいことだ。
ボディサイズ|全長4,380×全幅1,800×全高1,295 mm
ホイールベース|2,475 mm
重量|1,360 kg[1,340kg]
エンジン|2,706cc 水平対向6気筒
最高出力| 202kW(275ps)/ 7,400 rpm
最大トルク|290Nm / 4,500-6,500 rpm
トランスミッション|6段マニュアル
駆動方式|MR
タイヤ 前/後|235/45R18 / 265/45R18
0-100km/h加速|5.7 秒
最高速度|266km/h
燃費|8.2 ℓ/100km
CO2排出量|192 g/km
価格|612万円
Porsche Cayman S|ポルシェ ケイマン S
ボディサイズ|全長4,380×全幅1,800×全高1,295 mm
ホイールベース|2,475 mm
重量|1,400 kg
エンジン|3,436cc 水平対向6気筒
最高出力| 239kW(325ps)/ 7,400 rpm
最大トルク|370Nm / 4,500-5,800 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(PDK)
駆動方式|MR
タイヤ 前/後|235/40R19 / 265/40R19
0-100km/h加速|4.9 秒
最高速度|281km/h
燃費|8.0ℓ/100km
CO2排出量|188g/km
価格|820万円