フォードフォーカスに試乗|Ford
CAR / IMPRESSION
2014年12月4日

フォードフォーカスに試乗|Ford

Ford Focus|フォード フォーカス

フォード フォーカスに試乗

いまやCセグメントのFFハッチバックは、メルセデス・ベンツ「Aクラス」ボルボ「V40」などの強豪がひしめきあい、なおかつこれからフォルクスワーゲン「ゴルフ7」も国内導入される激戦区になっている。そんななか、このCセグメントに属すフォード「フォーカス」が6年ぶりに日本市場へ再参入。2007年以降、輸入が途絶えているあいだに3代めへと進化した新型フォーカスに、大谷達也氏が試乗した。

Text by OTANI Tatsuya
Photographs by ARAKAWA Masayuki

ファン待望の再導入

「やっぱりフォーカスに乗りつづけたい!」

そんなフォードファンの数はどうやら少なくないらしい。

初代フォーカスのデビューは1998年。最初はその奇抜なデザインに驚かされたけれど、乗ってみると2度めの驚きがあった。なにしろ運転して楽しいのだ。最大のライバルであるフォルクスワーゲン ゴルフがどっしりした重厚感を売り物としていたのにたいし、フォーカスは機敏で軽快。特別パワフルなわけじゃないけれど、レスポンスのいいハンドリングのおかげで山道をスイスイ走ることができた。

2代めのデビューは2005年。デザインは少し大人びたものの軽快な走りはそのままで、初代につづくヒット作になることが期待された。けれども、2007年にフォード・ジャパンは方針を転換し、フォーカス、フィエスタ、モンデオなどの、いわゆるヨーロッパフォードの取り扱いを一時休止してしまう。

これは一種の経営の合理化で、その後はエクスプローラーやマスタングといったアメリカフォードに注力してビジネスの立て直しに成功するのだけれど、ここで困ったのがフォーカスに乗りつづけてきたファンたち。

Ford Focus|フォード フォーカス

彼らは、フォーカスの乗り味に心底惚れ込んでいるのに、これにかわるモデルが入ってこない。なかには「仕方ないか……」といってライバル車に乗りかえる人もいたそうだが、多くは「やっぱりフォーカスがいい!」といって愛車を大切に乗りつづけていたと聞く。しかし、取り扱い休止から6年が過ぎ、彼らの我慢も限界に近づきつつあった……。

Ford Focus|フォード フォーカス

Ford Focus|フォード フォーカス

いっぽう、時の流れはフォード・ジャパンの内部にも変化をもたらしていた。前述のとおり、アメリカフォードを軸に据えたフォード・ジャパンの戦略は図に当たり、ビジネスは堅調に成長をつづけた。

「そろそろ次の一手を打って、ビジネスをさらに拡大すべきではないか?」

そんな声がどこからともなく挙がったのは当然のこと。そこで、モデルレンジを拡大し、これを一層の販売増に結びつけるとの方針がかたまったのである。

では、何を入れるか? 国内輸入車マーケットのメインストリームであるCセグメントに属し、多くのファンが新型の導入を望むフォーカスに白羽の矢が立ったのは、決して不思議なことではなかった。そもそもフォーカスは世界120ヶ国以上で販売され、通算で1,000万台以上がファンの元に届けられたメガヒット作。アメリカとヨーロッパの垣根を越えたグローバルプロダクトであることも、アメリカフォード一辺倒からの脱却を狙うフォード・ジャパンにとって好都合だったことだろう。こうして、国外では2011年に3代目へと切り替わっていたフォーカスの日本導入が決まったのである。

Ford Focus|フォード フォーカス

フォード フォーカスに試乗(2)

「おお、スポーティだね」

というわけで、去る2月に日本でも発売されたフォーカスは、フォード・ジャパンの今後を占うパイロット的な使命を帯びていることもあり、やや控えめなデビューを飾った。エンジンは2.0リッター直噴4気筒エンジン、そしてギアボックスはデュアルクラッチ式の6段ATのみ。グレードもスポーツと呼ばれる比較的高価なモデルに絞られた。価格は293万円。台数が読み切れない状況での価格設定としては、かなり頑張った結果だろう。

エクステリアデザインは強いウェッジシェイプを描く躍動感の強いものだ。フロントの造形はやや単調かもしれないが、リアは彫りの深い立体的なデザインで高級感が漂う。全体的な質感がぐんと上がったインテリアでは中央に大型のダイアルを配置した幅広なセンターコンソールが存在感を放っている。「ちょっと大きすぎか?」という気がしなくもないが、だからといって足下が狭くなっているわけでもない。まあ、ちょっとした視覚的アクセントといったところである。

Ford Focus|フォード フォーカス

Ford Focus|フォード フォーカス

サスペンションは走りはじめてすぐ「おお、スポーティだね」とわかるくらいソリッドな設定。道が荒れているとドスンというショックが伝わってくるし、ゴツゴツ感だってないわけじゃない。でも、そうした印象は、ワインディングロードに足を踏み入れた瞬間、吹き飛んだ。やっぱりフォーカスはフォーカス。山道を飛ばしてこそ、足まわりの真価は発揮されるようだ。

もっとも、コーナーを速く走れることは初代、2代めとかわりないが、先代まではヒラリヒラリと俊敏に向きをかえるのが得意だったのにたいして、3代めは強いダンピングを武器にした高速コーナーでの安定性に最良の一面があらわれている。つまり、乗り味は軽快感からドッシリ感へと大きく様変わりしたのである。

いずれにしても、剛性感の高いボディに支えられたコーナーリングフォームは極めて安定しており、最高出力170psのエンジンでドラマを起こすことは至難の業。これだったら、あと100psパワーがあってもシャシーが破綻することはないのではないか? ……と、おもわずそんなことを考えたくなるほど、エンジンよりもシャシーが優ったクルマつくりになっている。

Ford Focus|フォード フォーカス

フォード フォーカスに試乗(3)

愚直なまでに真面目なクルマづくり

路面のフィーリングがダイレクトに伝わってくる電動パワステにもフォードのこだわりが強く感じられた。たしか先代はステアリングフィールを優先して電動油圧パワステをつかっていたはず。おそらく、その後コンポーネンツが進化し、純粋な電動パワステでも彼らの期待を満たすものが登場したのだろう。おかげで、タイヤの滑りはじめる様子が手に取るように伝わってくるし、コントロールも容易。もっとも、その領域に足を踏み入れるには、相当ペースを上げなければいけないことを申し添えておく。

2リッターNAというスペックを考えれば、エンジンの出来も悪くない。いや、このエンジンを物足りなく感じるのは、シャシーのポテンシャルが高すぎるからにちがいない。公平な目で観察すれば中低速のトルクだってそれなりに太い。唯一の弱点は2,000~3,000rpmの常用域で少しガサついたノイズを発することだが、これもすぐに慣れそうな気がする。

Ford Focus|フォード フォーカス

Ford Focus|フォード フォーカス

際立って豪華な装備があるわけでもなければ、ひと目をひく最新テクノロジーが搭載されているわけでもない。だから、一見しただけでは地味なモデルと映るかもしれない。ただし、質実剛健を旨とするフォードは、走りを徹底的に磨きあげた。そして安全で使い勝手のいい実用車をつくりあげた。フォーカスは、そんなクルマだ。

愚直なまでに真面目なフォードのクルマつくりは、ひょっとすると時代に逆行するものかもしれない。けれども、その良さは乗れば乗るほどジワジワと身体に染みこんできて、やがて離れがたくなる。言い換えれば、彼らは表面的な時代の流れに背を向けることで、時代を超えた存在になり得たのである。新型フォーカスの導入はまちがいなく旧来からのファンを喜ばせるだろう。そして、初代や2代めとおなじように、3代めも時を超えて愛される1台となるだろう。

spec

FORD FOCUS Sport|フォード・フォーカス・スポーツ
ボディサイズ|全長4,370×全幅1,810×全高1,480 mm
ホイールベース|2,650 mm
トレッド 前/後|1,555 / 1,545 mm
最低地上高|130 mm
最小回転半径|6 メートル
重量|1,380 kg
エンジン|1,998cc 直列4気筒 直噴DOHC
ボア×ストローク|87.5×83.1 mm
最高出力| 125kW(170ps)/ 6,600 rpm
最大トルク|202Nm(20.6kgm)/ 4,450 rpm
トランスミッション|6段オートマチック(デュアルクラッチ)
ギア比|1速 3.917
2速 2.429
3速 1.436
4速 1.021
5速 0.867
6速 0.702
減速比|3.850(1,2,5,6速)/4.278(3,4速,後退)
駆動方式|FF
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|マルチリンク
タイヤ|215/50R17
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ディスク
燃料タンク容量|55 ℓ
価格|293万円

           
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