ボルボの本質的な価値|Volvo
Volvo|ボルボ
ボルボの本質的な価値
セールス好調な、「V40」。さきごろ第3弾「V40 AWD T5クロスカントリー」の日本導入とタイミングをあわせて、スウェーデン本社から、乗用車部門のディレクターを務めるホーカン・アブラハムソン氏が来日した。先進的な安全技術と、スポーティな操縦性と、こなれた価格を武器に、攻めの姿勢で日本市場に臨むボルボの成長戦略について、軽井沢の試乗会会場で話を聞いた。
Text by OGAWA FumioPortrait by ARAKAWA Masayuki撮影協力:フォレスターナ軽井沢
表現はゆたかだが、大声は出さない
──つくるがわが考える、ボルボの本質的な価値とはなんですか
ホーカン・アブラハムソン(敬称略) 調査をすると、ボルボの価値は安全性の高さにあるとする意見が多いですね。それを捨て去る気はありません。一時期は試験的にドイツ車志向をもちましたが、結局、ユーザーは私たちに昔とかわらない価値(安全性)を求めていることがわかりました。いまはそれにエモーショナルな価値を加味したのが、ボルボのクルマとなっています。
ひとが中心にいる、というのがわが社のポリシーですが、つまるところそれは安全が第一にくることです。V40で採用した歩行者用エアバッグも、そんなボルボらしい装備だとおもいます。
──ボルボはスカンジナビア(北欧)のクルマだということをさかんに謳っています。それをどう解釈したらいいでしょうか
スカンジナビアの美点は、お互いをケアするところだとおもいます。社会民主主義が浸透し、税金は高いけれど、義務教育中の授業料や健康保険は無料だし、失業者の生活保護もきちんとおこないます。いっぽうで気候条件は厳しく農産物の収穫量は少ないため生活は質素を旨としており、それがモノの価値観に反映されています。
たとえば、デザインではシンプリシティを好み、機能的な造形を重視します。スウェーデンのプロダクトを言葉で表現すると、控えめで、クリーンで、ピュアとなります。もちろんクオリティが大事なので、私はこう言ったりします。“表現はゆたかだが、大声は出さない、それがボルボだ”と。
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ボルボの本質的な価値 (2)
フォードは、ボルボのコアバリューとはなにかについて、真剣に考えてくれた
──ボルボ カーズはオーナー企業がいくつかかわりましたが、それがクルマづくりにどんな影響を与えていますか
ボルボはかつてグループ企業として、バス、トラック、マリン、それに食品も手がけていたことがあります。乗用車はひとつの事業部にすぎず、中心ではありませんでした。しかし、フォードがPAG(プレミアオートモーティブグループ)を1999年につくったとき、ボルボの乗用車部門も買収されて、そこに編入されました。
フォードは乗用車ブランドだったので知見も豊富でいい影響をたくさん受けました。もちろんコスト計算などはシビアでしたが、クルマづくりのプロセスをいろいろ学ぶことが出来ました。それにフォードは、ボルボのコアバリューとはなにかについて、真剣に考えてくれました
──V40もフォード時代に企画立案されたモデルでしょうか
前期はフォードで、途中からボルボカーズのオーナーが、ジーリーという自動車のブランドで知られる、中国の浙江吉利控股集団(ジーリー ホールディンググループ)に変わりました。
フォードでは、おなじプレミア オートモティグ グループに属していたジャガーで、苦い教訓を学んでいたことが、遅れて傘下に入ったボルボに有利に働きました。
というのは、フォードはうっかりジャガーのコア・アイデンティティまで深く入り込んでしまい、結果、このブランドにとって、PAG傘下の時期は失われた年月となってしまいました。その教訓を活かして、フォードはボルボをていねいに扱ってくれました。
──そのあと、吉利(ジーリー)がオーナーになりました
最初のCEO(最高経営責任者)は、フォルクスワーゲンに在籍したこともあるシュテファン・ヤコービ氏でした。ヤコービCEOは、フォード時代と異なり、クオリティを重視し、ボルボ車にラグジュアリーな要素を積極的に採用することを決定しました。開発後期でしたが、それをやって、結果としてはよかったとおもいます。
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ボルボの本質的な価値 (3)
ふたたびの強力なラインナップ
──V40をどのように受けいれてほしいですか
重視しているのは、サーフェス(美しいボディの面のつくりこみ)、カラー、クラフツマンシップ、ハイクオリティなどです。シンプルだけれど、表現力に富み、訴えかけてくるものがある。それを意識しています。路上ですれちがったとき、振り返って、もういちど見たくなる。そんな要素を盛り込みたいとおもって開発しました。
──デザインはV40にとって、とても重要な要素であるということですね
ボルボ カーズが吉利汽車に買収されたのちに退任し、そののち、欧州フォード会長兼CEOになったスティーブン・オデルは、ボルボ カーズのCEOだった時代にこんなことを言っていました。
“V40はグッドデザインであるべきではない。ファンタスティックデザインでなくてはならない”と。
──V40 AWD T5クロスカントリーは、ニッチ(すきま)市場をねらった、ユニークなデザインですね
クロスカントリー モデルはボルボのおなじみのモデルプログラムにのっとったものです。
開発スタート段階から設定されていたモデルです。四輪駆動であることにくわえ、車高をやや高くしたうえにボディ各所にガーニッシュを装着し、既発のT4やT5 R-DESIGNとは明確にキャラクターを分けています。
私たちは、開発途中で、調査会社に依頼して想定購買層にあたる一般人にクルマを見せるスタイリング クリニックを開催しました。
イタリアでおこなったとき、スタンダードモデルとクロスカントリー、ともに見せて、どちらが好きか尋ねたら、好みが明確に分かれたのに驚きました。迷うひとがいません。ということは、ふたつの異なったモデルを設定したのは、V40の戦略として成功だったのだとおもいます」
──日本での販売については、どう見ていますか
かつて1980年代、ボルボが競争のきびしい日本市場でよく売れた時代がありました。そこで競争力をつけることが、世界的な成功にもつながっていました。
いまのボルボはふたたび強力なラインナップを敷いています。V40にしても同一プラットフォームに3つの明確なバリエーションを設定したことでセールスを押し上げる効果が期待できます。欧州で17におよぶ賞を受賞するぐらい、質感のあるデザイン、燃費効率のいいエンジン、歩行者用エアバッグを含めた高い安全性、充実した車内インフォテイメントシステムなど、内容的にも自慢できるものがあります。日本での成功は期待できるとおもっています。