究極にして最後のゴルフ6に試乗|Volkswagen
CAR / IMPRESSION
2014年12月5日

究極にして最後のゴルフ6に試乗|Volkswagen

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|
フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

究極にして最後の“ゴルフ6”に試乗

フォルクスワーゲンの代表車種「ゴルフ」が、ここ日本でも、ついに第7世代へとバトンタッチ目前となった。第5世代にあたる「ゴルフ5」から熟成に熟成を重ねた、現行の第6世代「ゴルフ6」が手に入るのもあとわずか。OPENERSはフォルクスワーゲンより「マイスターエディション」と銘打って販売されている、“最後のゴルフ6”をテストした。

Text by OGAWA Fumio
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko

ベスト・オブ・ベスト ゴルフ

フォルクスワーゲン ゴルフがいよいよ最後を迎える。夏前に新型の導入が予定されており、これまでの第6世代の発売がまもなく終了するという。しかし、最後の最後といえる第6世代はいま、すばらしい熟成をみせてくれているのだ。

フォルクスワーゲン ゴルフでは第6世代にあたる現行モデル(以下ゴルフ6)は、わが国では2009年の桜の季節に導入された。過給(ターボチャージャーやスーパーチャージャー)された1.4リッター小排気量エンジンに、ツインクラッチを用いた高効率の「DSG」ギアボックスを組み合わせたのが特徴で、第6世代は騒音対策に注意が払われてクオリティ感がめざましく向上していた。

フォルクスワーゲンの小型車ラインナップでは1.2リッターターボエンジンが主流となっている感もあるが、1.4リッターエンジンは、排気量からは信じられないほどトルキーで、かつよく回り、効率とファンとをみごとに両立させたユニットとして、フォルクスワーゲン(以下VW)の金字塔とよびたくなるものだ。

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

なかでも、ゴルフ6 コンフォートラインは、まさにゴルフのコンセプトを具現化したモデルだった。乗り心地は快適で、ワインディングロードでは楽しく、そして燃費にすぐれる。

僕にとっては、ベスト・オブ・ベストのゴルフだ。現在、日本では最終モデルとして、バケットタイプのシートや、16インチホイール、パドルシフトなどを装備した「マイスターエディション」(279万円)が販売されている。1台でなんでもこなしてくれる「相棒」を探しているひとは、これに乗らない手はないのではないか。そこまでおもわせてくれる出来だ。

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|
フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

究極にして最後の“ゴルフ6”に試乗(2)

ゴルフ5を受け継いだ6代目

これまで6つのジェネレーションを経てきたゴルフにおける大きな変化は、2003年に欧州で発表された第5世代で起きている。1.4リッターの小排気量エンジンや、マニュアルの効率のよさとオートマチックの安逸さを組み合わせたDSGギアボックスが導入されたからだ。

大きなクルマといえども大衆車(最近のVWを大衆車と呼べるかどうかは別の議論だが)では効率がなにより重要、というVWの考えを反映して、ゴルフ6では5でのコンセプトがさらに推し進められた。

くわえられたのはクオリティのさらなる向上で、ウィンドシールドまわりやタイヤハウスなど、風切り音やロードノイズなどの騒音対策をより徹底して、静粛性を向上し、より品質感を上げるのに成功した。

過給器とエンジンのコンビネーションを上手に使うVWの戦略は、ゴルフ6でより拡大した。

1.4リッターには、「コンフォートライン」とよばれるシングルチャージャー(ターボ装着)と、「ハイライン」とよばれるツインチャージャー(ターボにくわえ、より低回転域でのトルク増大を目指したスーパーチャージャー装着)、それに現在はゴルフやポロなど小さなVW車の主流になっている1.2リッターターボを載せた「トレンドライン」も登場した。よりスポーティなモデルを求めるユーザーには「GTI」と、「ゴルフR」が存在している。

Volkswagen Golf GTI|フォルクスワーゲン ゴルフ GTI

ゴルフ GTI

Volkswagen Golf R|フォルクスワーゲン ゴルフ R

ゴルフ R

すべてここにある

コンフォートラインは、ちょうどいいところをついた設定だったと僕は感じている。ハイラインとGTIではキャラクターがけっこうカブって、「実利的にはハイラインで十分だが、ブランド的にはGTIだなあ」なんて、自分だったらなかなか決められない。

いっぽう、トレンドラインはすこしパンチ不足だった。まあ、とはいっても、最近の1.2リッターエンジンの洗練性の向上はいちじるしいので、いまは「これはこれでいい!」と太鼓判を捺せる。しかしそのぶん、1.4リッター ゴルフのほうも、しっかり磨かれているのだ。

ゴルフ コンフォートライン マイスターエディションには、東京から千葉まで、市街地と高速道路と、すこしのワインディングロードを経験した。

結論からいうと、クルマとしてひとつの極をきわめていると感じた。すべてが欠けていない。

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|
フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

究極にして最後の“ゴルフ6”に試乗(3)

2つのキャラクターが同居する

ゴルフ コンフォートライン マイスターエディション(以下コンフォートライン)に乗るには、ハイラインやGTIばりのバケットシートに「よいしょ」とオシリを入れなくてはならない。手触りのよいスウェード調のアルカンタラ貼りで、見た目にそれなりの魅力があるばかりか、スポーティなドライビングを好むひとには実利的な装備だ。ただしコンフォートラインの「コンフォート」を、デイリーユースでオールマイティに使える「快適さ」と読む人間には、少々やりすぎ感がある。

コンフォートラインの1.4リッターエンジンは、低回転域からしっかりトルクを出し、そのモリモリとした力が途切れると感じさせることなく上まで回転があがり、めざましい感覚でクルマを加速させてゆく。下の回転域でのトルクは市街地での扱いやすさにつながり、いっぽう、3,000~4,000rpmでのパワー感はクルマを操縦する喜びをつよく感じさせてくれる。

後者はとくにシフトゲートで「Sモード」を選ぶと、ゴルフってこんなにスポーティなの? と驚くことうけあう。このように、2つのキャラクターをみごとに同居させたエンジニアリングの高さには感心するばかりだ。

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

乗り心地はしっとりしており、硬さのかどがとれているのもコンフォートラインのよいところだ。

僕としては、このよさをフルに味わうためには、マイスターエディションのバケットシートより、標準モデルに装着されていたクッションがより厚いシートのほうが合うようにおもうのだが、まあ、これでもけっして悪くはない、失望することは絶対ないはずだ。

コンフォートラインの奥行きの深さは、エンジンばかりでなく、ハンドリングでも感じられる。

フラット感の高い走行感覚を与えてくれるいっぽう、ハンドリングはしっかりしていて、どんな道でとばしてもいっさいの不安はない。ハンドルは中立ふきんでは落ち着いていて、いっぽうすばやく右に左にと切り込んだときは、ロールまでの過渡領域がすばらしく自然な感覚のマクファーソン ストラット式フロントサスペンションの恩恵で、クルマは反応よくドライバーの意思に応える。

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

繰り返しになってしまうかもしれないが、なにより、大きな安心感を与える設定というのが、コンフォートラインの魅力だ。

僕はかつて「欧州では、日が暮れかけたころ、アルプス超えをして家路につかなくてはならない。そのときに自分の命を託せるだろうか、をクルマの基準にする」と聞いたことがある。

コンフォートラインにかぎらず、まさにゴルフ6には、すべてを託せるような安心感がある。

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|
フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

究極にして最後の“ゴルフ6”に試乗(4)

アウト・オブ・デートなところは?

最初にゴルフ6に接したとき、その静粛性に驚いたが、今回のコンフォートラインではおなじ驚きはなかった。いろいろなところから、音の侵入はそれなりにある。ただ、ほかのクルマ(だいたいはより上級車種)がここ数年で劇的に室内の静粛性を向上させたことに慣れていたせいだろう。

これは比較の問題で、ゴルフ6でも十分静かだ。日常的にノイズが気になることはないと、僕はおもう。

ゴルフ6がややアウト・オブ・デート化したとおもうのは、昨今のライバルたちの、電子デバイスを用いた安全装備のめざましいばかりの充実ぶりと比較したときだ。ひょっとしたら、ゴルフに興味をもつひとたちにとって、これはとても大事な要素かもしれない。

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

クルマをコントロールするのは人間だ

でも、クルマをコントロールするのは最終的には人間だし、安全性といってもたんに衝突回避のデバイスだけを話題にするのでなく、事故の要因になるヒューマンエラーをつくらないのがなにより大事だ。なので、安全デバイスの数だけをクルマ選びのパラメターにしなくていいとおもう。疲れない、快適、楽しい、そういうことがなにより大事だからだ。

コンフォートラインから得られるのは、クルマと人間とのあいだのコミュニケーションだ。レスポンスのよさやハンドリングの優秀性やサスペンションの出来など、ドライバー(と乗員たち)にとって、クルマのなかにいるとき自分の世界がしっかり築いていられるセッティングがしっかり出来上がっている。僕が勝手にそう感じているのではなく、クルマが好きなひとならゴルフに接してすぐ理解できるはずだ。快感と安心感、ともにある。

熟成するクルマ

いまの世のなか「熟成」という言葉がはやっている。たとえば食べ物の世界では「熟成肉」といって、何日もかけて温度と湿度を管理することでタンパク質をアミノ酸に分解して、いわゆる「うまみ」を出した牛肉を提供するレストランが盛況だ。関西の特許だったはずが、ここ数年東京でもどっと増えた。

クルマにこういう変化は生まれないが、ゴルフをつねによりよりよいクルマにしようと日々努力を重ねてきたVWのエンジニアたちの努力が、ゴルフ6を最終的にここまで熟成させたのだなあと、こんなことを連想した。

ゴルフにもある種のケミストリー(いくつもの要因がよりよい結果を生むこと)がある。これはたいしたものだと僕はおもう。

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

つぎにゴルフに大きな変化が起きるのは、新世代のプラットフォームを与えられたゴルフ7であるのに間違いない。もちろんたいへん興味を惹かれるモデルだが、まずは、熟成をぞんぶんに味わってもいいのではないか。

最後のコンフォートラインとつきあって、僕は、そう確信した。

spec

Volkswagen Golf TSI Comfortline Meister Edition|
フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン マイスターエディション

ボディサイズ|全長 4,210 × 全幅 1,790 ×全高 1,485 mm
ホイールベース|2,575 mm
トレッド 前/後|1,535 / 1,510 mm
重量|1,290 kg
エンジン|1,389 cc水冷直列4気筒DOHC 16バルブ インタークーラー付ターボ
最高出力|90 kW(122ps)/ 5,000 rpm
最大トルク|200 Nm(20.4kgm)/ 1,500 - 4,000 rpm
トランスミッション|7段DSG
タイヤ|205/55 R16
燃費(10・15モード)16.4 km/ℓ
価格|279万円

           
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