V40 ボルボを変えるか

ボルボのあたらしいコンパクトカー、「V40」のセールスがかなり好調のようだ。

安全性に定評のあるボルボのブランドイメージにくわえ、ライバルよりボディを“ちょっぴり大きく”してお買い得感を際立たせていた従来モデルとことなり、新型V40はメルセデス・ベンツ「Aクラス」やBMW「1シリーズ」と真正面から対決するスリーサイズとしながら、クラストップといえるハイテク セイフティ デバイスの充実ぶり、精悍なスカンジナビアン デザイン、そして269万円からという“超戦略的価格設定”によって人気を伸ばし、発売5週間で3,100台以上の受注を獲得するという大成功を収めている。

ちなみにボルボの国内販売台数は年間1万4,000台ほど（2012年の統計）。かりに1カ月3,000台のペースが1年間つづけばそれだけで3万6,000台に達し、昨年は5万6,000台を売り上げて国内インポーター首位を独走中のフォルクスワーゲンに次ぐポジションを手に入れることになる。もっとも、さすがに月3,000台は導入直後だけで、その後はいずれ沈静化するだろうが、それにしてもV40の発売が日本におけるボルボの存在を大きく変える可能性を秘めていることは間違いないだろう。

スポーティになったV40ではない

そんなV40のラインナップをより強化すべく登場したのが、ここに紹介する「V40 T5 R-DESIGN」である。

T5は直列5気筒 2.0リッターエンジン、そしてR-DESIGNはスタンダードモデルより内外装ならびに足まわりがよりスポーティな設定であることを指す。

そう聞けば「ではT5 R-DESIGNはV40のスポーティなハイパフォーマンスバージョンだな」と考えるのが自然だが、実際に試乗してみたところ、ボルボの狙いはもう少しちがうところにあったという話をこれから書き綴っていこうとおもう。

控えめに、上質に

直列4気筒 1.6リッターエンジン搭載の「V40 T4 SE」と外観をくらべると、フロントセクションではチンスポイラー部のエアインテーク形状が見直され、タイヤサイズが225/45R17から225/40R18に格上げされていることに気づく。

そしてリアまわりでは、いわゆる“リアディフューザー”回りに光り物による装飾がT5 R-DESIGNには施されている。とはいえ、どちらもクルマの印象を決定的に変えてしまうほどのインパクトはない。あくまでもお化粧直しの範囲内である。

インテリアでは基本デザインはそのままに素材の置き換えでイメージチェンジを図っているが、この効果は思いのほか大きい。

特に、ボルボ・デザインの象徴的存在となっているセンタースタックは、T5 R-DESIGNではカーボン調の素材とメタル系素材のコンビネーションとなるのだが、精緻な仕上がりが印象的で、やや素っ気ない雰囲気のT4 SEにくらべるとはるかに高級感が増している。

シートやステアリングに使われている素材も、T4 SEの布製から手触りのいい良質なレザーに変えられている。

くわえて手の込んだ仕上げのステッチも実に魅力的。そうしたインテリア全体から感じられる印象は、たしかにスポーティにはなっているのだけれども、それ以上に強い高級感を感じさせるものだった。

というわけで、キャビンのクォリティ感はCセグメントよりひとつ上のDセグメントとしても通用するくらいのレベルで仕上げられていたのである。

パワーだけじゃない

T5 R-DESIGNに搭載される直列5気筒 2.0リッターエンジンは、“スポーティモデル”だからといってエグゾーストノートのボリュームを無闇に上げていないところが好ましい。

1.6リッターより1気筒多い恩恵か、エンジンのスムーズさでも1クラス上の上質さがはっきりと伝わってくる。パワーは+33psの213psで、もちろん力強さはしっかりと体感できるけれど、それ以上に印象的なのがみっしりと詰まったパワーの出方である。

つまり、ここでも速さよりも緻密さのほうが強く印象に残るのだ。

ちなみに、ギアボックスはT4 SEの6段デュアルクラッチ式ATにたいし、T5 R-DESIGNでは6段トルコン式ATとなる。この辺も“パワー感”の印象を変えるひとつのポイントとなっているようだ。

足まわりの味付けも、パワートレーンの方向性と軌を一にしている。サスペンションはバネ定数もダンパーの減衰力も1ランクから2ランクくらい引き上げられているのだが、最初の動きだしがとてもスムーズなため、段差に乗り上げてもガツンという衝撃は感じない。おかげで、引き締まったなかにも実に滑らかで快適な乗り心地をもたらしてくれる。

こう書けば、ハンドリングのテイストもおおよそ想像がつくはず。

ここでもクイックなレスポンスを売り物にしているというよりは、正確で確実、それでいて懐の深い操縦性に仕上げられていたのである。したがって、ハンドリングもキーワードとなるのはスポーティではなく重厚感もしくは高級感だった。

そう、T5 R-DESIGNはT4 SEよりも確実にスポーティだが、より強調されているのはスポーティさではなくラグジュアリーさなのだ。そもそも“R-DESIGN”のRはRacingを指すとおもわれがちだが、ボルボはこれをRefinement（上品さ、優雅さ）の頭文字だと説明している。

ここで結論を述べれば、T5 R-DESIGNはT4 SEにスポーティなテイストを添えながらも、より上質で洗練されたハイグレードモデルである。

その高級感の代償はT4 SEよりちょうど90万円高い399万円。ただし、T5 R-DESIGNで標準装備となるレザーシートとナビゲーションシステムにはすでに約45万の価値があるため、実質的なエクストラコストはおよそ45万円になる。これでエンジンが4気筒から5気筒に格上げされ、乗り心地が格段に快適になるのだから、考えようによっては安いといえるだろう。

というわけで、V40を長く大切に乗りたいとお考えのボルボ・ファンには、T5 R-DESIGNの試乗を強くお勧めしておく。

Volvo V40 T5 R-DESIGN｜ボルボ V40 T5 Rデザイン
ボディサイズ｜全長4,370×全幅1,800×全高1,440mm
ホイールベース｜2,645 mm
トレッド 前/後｜1,545 / 1,535 mm
最小回転半径｜5.7 メートル
重量｜1,540 kg
エンジン｜1,983 cc 直列5気筒 直噴DOHC ターボ
最高出力｜ 157kW（213ps）/ 6,000 rpm
最大トルク｜300Nm（30.6kgm）/ 2,700-5,000 rpm
トランスミッション｜6段オートマチック
駆動方式｜FF
タイヤ｜225/40R18
燃費（JC08モード）｜13.2 km/ℓ
価格｜399万円