911ターボ(Type 991)に試乗|Porsche
Porsche 911 Turbo|ポルシェ 911 ターボ
Porsche 911 Turbo S|ポルシェ 911 ターボS
世界屈指のピュアスポーツカー
911ターボ(Type 991)に試乗
タイプ991と呼ばれる「ポルシェ911」が登場してから早2年。待望のターボモデルがついにデビューを飾った。後輪ステア機構、可変式ウイングの採用と、これまでにないハイテクノロジーを満載したこのニューモデルを、大谷達也が早速ドイツでテストドライブ。ニュルブルクリンクでのタイム、先代比マイナス13秒と謳われるその実力は伊達ではなかった。
Text by OTANI Tatsuya
なぜ13秒ものタイムを削り取れたのか
ある自動車メーカーは燃費データで自社の環境技術をアピールし、別の自動車メーカーは最高速度で自分たちの存在意義を訴えかける。でも、ポルシェの各モデルを理解するうえでもっとも役立つのは“ニュルブルクリンク ノルドシュライフェ”のラップタイムだろう。なぜなら、エンジンとシャシーのパフォーマンスを総合的に判断するのに“ニュル”ほど都合のいいコースはほかにないからだ。
先代にあたる“「997」の911ターボ”にはスタンダードな「911 ターボ」とその高性能版である「911 ターボS」の2モデルが用意されていたが、このうちの911 ターボSにコーナリング性能の高いハイパフォーマンスタイヤを装着した場合、ニュルのラップタイムは7分37秒だった。
今回、ドイツで国際試乗会が行われた新型“991”の911 ターボSをおなじようにニュルで走らせると、それより13秒も速い7分24秒を記録するという(以下、911 ターボと911 ターボSを総称する場合には“911 ターボ”という表記をもちいる)。そうきけば「新型はさぞかしエンジンパワーが向上したのだろう」とおもうのが普通。
ところが、991タイプの“911 ターボ”は後期型997“911ターボ”とおなじ3.8リッター直噴ガソリン ツインターボ エンジンの改良版を搭載している。
このため最高出力と最大トルクは911ターボで20psと10Nm上乗せされて最高出力520ps、最大トルク660Nmに、そして911ターボSでは30psと10Nm上昇して最高出力560ps、最大トルク700Nmになったものの、その差は決して大きくない。したがって、ニュルで13秒ものタイムアップを果たした理由の大半はシャシー関連の改良であることが想像できる。
新型“911ターボ”を担当したポルシェのエンジニアによれば、タイムアップにもっとも大きく貢献したのは旧型にくらべてホイールベースが100mm延長され、前後のトレッドが51/42mm(ターボS:49/42mm)拡大された最新の991シャシーであるという。
これが速くなった13秒のうちの半分ほどを占め、残る半分は991で採用された数々のハイテクデバイス──「ポルシェ ダイナミック シャシー コントロール(PDCC)」「アクティブ リアアクスル ステアリング」「ポルシェ トルク ベクタリング(PTV)プラス」「アダプティブ エアロダイナミクス」など──によるそうだ。
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すべてはパフォーマンスの向上のために
この「ポルシェ ダイナミック シャシー コントロール(PDCC)」はアンチロールバーが作動するのをコーナリング中に限定し、ストレートを走行している際はこれをサスペンションから切り離して高いコーナリング性能とすくれた快適性を両立するもの。
先ごろ発表された新型「GT3」で初お目見えした「アクティブ リアアクスル ステアリング」は4輪操舵の一種で、高速コーナリング時には後輪を前輪とおなじ向き(同相)にステアすることで高いスタビリティを、低速で旋回するさいには後輪を前輪と逆の向き(逆相)にステアすることで最小回転半径をより小さくするのに役立つ。なお、同相に作動するのは80km/h以上でステア角は最大1.5度、逆相は50km/h以下で最大2.8度までステアされる。
「ポルシェ トルク ベクタリング(PTV)プラス」は、左右どちらかの後輪に軽くブレーキをかけてコーナリングを助けるトルクベクタリングの一種。新型“911ターボ”では、これに電子制御式リアディファレンシャルを組みあわせたPTVプラスとなり、状況におうじてリアデフをロックすることでトラクション性能を改善している。
「アクティブ リアアクスル ステアリング」の動き
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強大なダウンフォース
いっぽう、「アダプティブ エアロダイナミクス」は空力パーツが電子制御されるもの。車速やモード変更によってリアウィングの高さや角度がかわるシステムであれば、これまでにも類似のものは数多くあったが、“911ターボ”ではフロントのチンスポイラーまで可変式とすることで、低速域では段差などの乗り越えを容易にするとともに、高速域ではチンスポイラーを大きくせり出してダウンフォースの増大をはかっているのが特徴(120km/h以上で自動展開、80km/h以下で自動格納)。
また、エアロダイナミクススイッチ、もしくはスポーツ プラス スイッチを押すと、車速によって可変制御される以上に大きなダウンフォースを生みだすパフォーマンスモードに“強制移行”する。この状態ではフロントに44kg、リアに88kgものダウンフォースが発生し、高速でのスタビリティを向上させる(数値は300km/h走行時)。
現場のエンジニアは敢えて指摘しなかったが、“新型”になって前輪の駆動系が水冷式となったこともパフォーマンスの改善に役立っているはずだ。これは、前車軸上に置かれた電子制御多板クラッチを冷却することで、より大きなトルクをフロントに伝達することを可能にする。これに伴ってクラッチ制御も進化を果たし、効率的かつ正確なトルク配分を実現できたという。
テクノロジー面では、このほかにもオーバーブースト機能(フルスロットル時に中回転域で最大過給圧を最大20秒間にわたり約0.15bar上昇させる。スポーツクロノパッケージ装着車に装備)が追加された。
また快適・環境面では、ダイナミックエンジンマウント、半クラッチを活用することで1段上のギアの使用を可能とするバーチャルインターミディエイトギア、アイドリングストップ(オートスタート/ストップ)、コースティング機能なども装備された。
さらに新型ではターボもターボSも20インチホイールが標準となり、ターボSでは前後のホイール幅が1.5インチ拡大されてフロント9J、リア11.5Jとされたことも、パフォーマンス向上に役立っているはずだ。
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静と動の共存
こうして新機能、新装備の数々を並び立てると、なんだか新型が“おどろおどろしい”スーパーカーにおもえてくるが、一般公道を走りはじめたさいの第一印象はそれとは正反対で、じつに快適かつ扱いやすいクルマだった。とくに当たりの柔らかい乗りごこちは絶品。
これは、「911カレラ」が991タイプになったときに感じたのとおなじ種類の驚きで、スポーツカーというよりはもはやスポーツセダン並みにしなやかにストロークするサスペンションの仕上がりには舌を巻くばかりだった。しかもロードノイズも先代より確実に小さくなっている。エグゾーストノイズも、エンジンがまわっていることをつねに意識させられた“997”よりあきらかに静かで、大人しくクルージングしている際にはその存在を忘れそうになるくらいである。
しかし──、という言葉を、読者のみなさんは期待しているにちがいない。その“しかし”は、テストの舞台を公道からサーキットに移したときに起きた。今回走行したのはドイツ北部のバドドリバーグにあるビルスターベルグというコース。ここはまだオープンして間もない会員制のサーキットで、レースの開催が目的ではなく、スポーツカーオーナーが安心して限界走行を楽しむために建設されたらしい。
コースの設計にはF1サーキットのデザイナーとして名高いヘルマン・ティルケのほか、ポルシェでテストドライバーも務めるヴァルター・ロールもかかわったとされ、自然の地形を巧みに生かし、リズミカルなS字コーナーを多数配した攻めがいのあるレイアウトだった。
今回はポルシェが用意したインストラクターに先導されての走行だったが、このインストラクターたちのペースがめっぽう速い。なにしろ、慣熟走行とされたインラップでも最初からタイヤがなりっぱなし。
その後も雑な運転をすると簡単にテールが滑りはじめるほどのスピードで、この4.2kmのコースを駆けぬけていくのだ。これだったら、公道で無茶なテストをするよりも、はるかに安全にクルマの限界を見極められる。
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どんなに走っても乗り飽きない
さてその印象だが、正直これより速いクルマをつくっても乗りこなせる人は滅多にいないだろう、というものであった。いや、この“911ターボ”でさえ、そのパフォーマンスを100パーセント引き出すのは容易ではない。それも、有り余るターボパワーに手をこまねいてしまうわけではなく、ドライブトレーンと絶妙なコンビネーションを織りなす足回りのパフォーマンスが呆れるほど高く、結果的に1台のスポーツカーとして抜群の速さを示すのである。
もちろん、ただ限界が高いというばかりではない。前述のとおり、ビルスターベルグには左右に進路を切り替えるS字コーナーがいくつもあるのだが、そこでの俊敏な身のこなしは、車重が1,600kgもあることが到底信じられないくらい軽快なのだ。
セオリーどおりスロットルをいくらか緩めてからステアリングを切り込めば、ノーズはすっと内側を向き、素早く次の加速態勢に移れる。そしてその次の瞬間には、反対側に向けてステアリングを切りはじめる準備がもう整っていて、おなじようにスロットルを緩める、ステアリングを切り込む、スロットルを踏み込むという動作を驚くほど速いリズムで繰り返せるのだ。
今回はスタビリティコントロールをオンにして走行すべしとの指示が出されていたのでこれに従ったが、その範囲内でも、リアのグリップが失われれば軽いテールスライドを起こす。
もちろん、最終的にはシステムが介入するはずだが、わざとドリフトの態勢にもち込もうとさえしなければ、その存在をほとんど意識せずにコーナリングを楽しむことができる。
いっぽうで、ステアリングやシートを通じて得られるインフォメーションの豊富さはポルシェの名に恥じないもので、「いまどのくらいリアがグリップしているか?」は手に取るようにわかるし、滑りはじめる直前には「さあ、くるぞ、くるぞ、ほらきた!」という感じで、次のアクションを予想しやすい。このためカウンターステアを切るタイミングが掴みやすく、ドライバーはまったく慌てずに済むのである。
いずれにせよ、反応が鈍いとか、クルマの態勢が整うのをまつとか、そういう経験は一切しなかった。これが「GT3」であれば、すべての動きがさらに俊敏に磨きあげていられるのだろうが、私が経験したなかでいえば、今回の“911ターボ”ほどスポーツドライビングを満喫したことはこれまでになかったと断言できる。
定速度で走っている状態から追い越し加速をかけようとしてスロットルをフロアまで踏み込んだとき、“997”ではフルブーストになるまでに「3、2、1、ゴーッ!」という具合でカウントダウンが必要だった。
いっぽうの“991”も、背中がシートバックにめり込むような状態になるまでにはひと呼吸待たなければならないが、スロットルを踏み込んだ直後からジワジワとトルクが立ち上がっていくのが実感できるので、待たされているという印象は薄い。この辺の、エンジン レスポンスの改善もサーキット走行での楽しさに結びついているはずだ。
試乗日は、それこそ朝から晩までサーキットや公道をおもう存分走ることが許された。それでも私は返却時間の午後6時直前まで、ひたすら“911ターボ”を走らせつづけた。それは、どんなに走らせても乗り飽きないくらいクルマの完成度が高かったことが理由のひとつ。そしてもうひとつは、呆れるほどパフォーマンスは高いのに、ドライバーに不自然な緊張を強いることがなく、肉体的にも精神的にも負担が少なかったことが理由である。おそらく、2番目の理由こそはGT3にない、“911ターボ”ならではの魅力だろう。
Porsche 911 Turbo|ポルシェ 911 ターボ
ボディサイズ|全長4,506×全幅1,880×全高1,296mm
ホイールベース|2,450 mm
トレッド 前/後|1,542 / 1,590 mm
トランク容量|115リットル
重量|1,595 kg
エンジン|3,800cc 水平対向6気筒 ターボ
最高出力| 383 kW(520ps)/ 6,000-6,500 rpm
最大トルク|660 Nm / 1,950-5,000 rpm(オーバーブースト時710Nm)
トランスミッション|7段PDK
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|245/35ZR20 / 305/30ZR20
0-100km/h加速|3.4 秒[3.2秒]
価格|2,030万円
*[]内はスポーツクロノパッケージ装着の場合
Porsche 911 Turbo S|ポルシェ 911 ターボ S
ボディサイズ|全長4,506×全幅1,880×全高1,296mm
ホイールベース|2,450 mm
トレッド 前/後|1,542 / 1,590 mm
トランク容量|115リットル
重量|1,605 kg
エンジン|3,800cc 水平対向6気筒 ターボ
最高出力| 412 kW(560ps)/ 6,500-6,750 rpm
最大トルク|700 Nm / 2,100-4,250 rpm(オーバーブースト時750Nm)
トランスミッション|7段PDK
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|245/35ZR20 / 305/30ZR20
0-100km/h加速|3.1 秒
価格|2,446万円